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第23話 犯人と対決します!?

 今夜は風が強く、涼しい。確かにそんな気候だったが、私とフィリスは汗だくだった。走っているからだ。逃げるザガリーを追うために。


 正直、長いドレスは走りにくい。マムを追いかけた時もそうだったが、追い風も吹いていた。その条件はザガリーも一緒だ。決して楽観視ができないが、隣にいるフィリスに事情を話す。走りながらなので、ほとんど叫ぶようになってしまうが、まず、あの男が誰であるのか、マムを恨んでいる可能性が大である事も説明。


「マジ!? あの男、マムを恨んでいたの? しかも障害者のフリしてた!?」


 フィリスの大声が響く。目も丸くなっている。確かに先程のザガリーは、とても障害者に見えない。


「でも、そんな珍しくないかも! 田舎では片腕がない元軍人が同情させてお金取ったりしていたから!」

「フィリス、それ本当!?」


 今度は私の方が驚く。コンプライアンスやポリコレが叫ばれる令和の世界とは全く違うではないか。


 とはいえ、祖母によると、確かに戦争から帰ってきた軍人は似たようなパフォーマンスをしていたと聞いた。戦争孤児のふりして同情を買い、お菓子をせしめる子供もいたそうで、戦後はそれぐらい貧困だったという。この異世界でも似たようなケースがあってもおかしくない。


 問題は戦争や貧困が理由じゃないところだ。ザガリーが障害者のフリをしていたのは、マムを殺す機会を持つためだ。全く笑えない。現に王宮魔術師エルの呪い会にも参加しているし、マムへの憎しみは絶対にあるだろう。それに私たちから逃げているのも、やましいのだ。脅迫状の犯人もザガリーとみて間違いない。


「たぶん、あの男が脅迫状の犯人! フィリス、追うわよ!」

「もちろんです! 本当、今の奥さん、かっこいいですよ!」


 そんな褒められるのは慣れていないが、今はとにかく逃げるザガリーを追った。


 汗だくで息も上がるが、このチャンスは逃したくない。フィリスと共にさらにスピードをあげ、ザガリーの背中を追う。


 気づくと王都の公園まで来ていた。ザガリーはそこへ逃げ込んだが、これはもう袋のネズミだ。


 フィリスと二手に分かれ、ザガリーを挟み込み、ようやく追い詰めた。


 向こうも走り続けて体力も限界だったらしい。公園の広場で倒れ込み、水が欲しいと泣いている。足もジタバタとさせ、顔も真っ赤だ。この姿はまるで赤ちゃんだ。とても大人に見えない。


 フィリスも呆れていた。


「なんですか、この赤ちゃんは。やけに大きな赤ちゃんだけど」


 フィリスの声を聞いていたら、私も本当に呆れてきた。未遂といえども、殺人事件を起こすような男は、精神が赤ちゃんなのだろう。


 ただ、今のとろ未遂だ。殺人事件はWEB小説「毒妻探偵」の中だけで殺人事件起こっているわけだが、脅迫状も何か関与しているだろう。


「脅迫状を送ったのはあなた?」


 モブキャラの私。こんな探偵みたいに問い詰めるのは性分に合わないが、「今はヒロイン!」と必死に自分に言い聞かせながら、ザガリーの顔を覗き込む。


「脅迫状なんてしらねーよ!」


 さらにザガリーは赤ちゃんみたいにジタバタ大騒ぎ。普通、探偵と犯人の対決シーンはもっとかっこよくないだろうか。これだとまるで、保育士と赤ちゃんではないか。やはりモブ根性の私がヒロインなんかをすると、ゆるゆるなコメディになるらしい。でも、まあ、殺人事件を回避できるのなら、コメディでいい。平和に行こうではないか。


 また夜風が吹き、私もフィリスもすっかり冷静になってしまう。


 ザガリーの様子をよく見たら、脚も怪我していた。このまま放置することもできず、結局、公爵家からブラッドリーやアンジェラを呼び、ザガリーを運んだ。


 公爵家でもギャーギャー泣き、赤ちゃんのように「俺は犯人じゃない!」とか「脅迫状なんて送っていない!」と主張していたが、ザガリーもロボットではない。一時間ほど赤ちゃんをしていたら、疲れて眠ってしまった。


 とりあえずこのザガリーを客間に閉じ込め、今晩は外に出られないよう鍵をかけた。


「おいおい、あの男はなんだ? 福祉作業所で頑張っていた青年ではないのか?」


 客間の鍵をかけると、ブラッドリーがすぐ横で待っていた。


「どういう事だよ、フローラ」

「おそらく、あの男が脅迫状の犯人よ」


 私は突き止めた事実をブラッドリーに話す。ブラッドリーは顎が外れる程驚いていた。フィリスの田舎の元軍人のようなケースはブラッドリーは知らない。その点、根っからの箱入りだ。驚きも人一倍だろう。


「本当か? いや、ショックだ……」

「全部、あなたが蒔いた種ですけどね」

「ごめんなさい!」


 珍しくブラッドリーは素直だった。確かにザガリーのような赤ちゃんを見たら、鏡を見せられているようで反省するかも。


「しかしよく、犯人がわかったな、フローラ」


 その上、ブラッドリーは私を見上げ、尊敬の眼差しまで送ってくる。恥ずかしい。顔が赤くなる。前世で読んだWEB小説「毒妻探偵」を参考にしたまでだ。自分は何もすごくない。こそばゆい。


 とはいえ、これで脅迫状の犯人は見つかった。離婚については何の前進もしていないどころか、後退すていたが、殺人事件というバッドエンドは回避できそうだ。マムは殺される可能性は低くなった。今の私はそれだけで満足だ。

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