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第21話 聞き込み調査開始です

 聞き込み用のクッキーも綺麗にラッピングし終えた。ラッピングはフィリスに手伝ってもらったものの、良い出来だ。可愛くできた。自画自賛しそう。


 という事で、これをバスケットに詰め、クリスのいる福祉作業所に向かっていた。今日はメイクも服装も抑え気味にしたが、変装はしていない。今日はとりあえずクリスに会うだけなので、こんな服装でいいだろう。


 ブラッドリーもフィリスもアンジェラも仕事だった。特にブラッドリーは一緒に聞き込みをしたいと子供のようにブーブー文句を言っていたが、足手纏いだ。今回は一人で聞き込みをすると決めていた。


 少し緊張はしていたものの、福祉作業所に到着すると、クリスに暖かく迎えてくれた。


「あら、奥さん! わざわざ来てくれるなんて!」

「これ、クッキーなの。いっぱい焼いたんで、子供達に配っていただけます?」

「わあ、いい匂いじゃないですか。さすが公爵家の高級食材ですね」


 クリスは笑顔でクッキーを受け取り、子供達に配っていた。あっという間に人だかりだ。まるでプレゼントを持ってきたサンタクロースだ。私もクッキーを配るのを手伝ったが、今回は悪役顔の私に泣く子供はいなかった。他の職員も利用者に大人達も誰も私を怪しんでいないようだ。クッキー、いや甘いもの力恐るべし。こんな聞き込み作戦は、間違ってはなかったらしい。


「ザガリー、クッキーを持ってきたわ」


 第一容疑者のザガリーにもクッキーを渡した。見た目には障害者の青年にしか見えない。演技は、まぁ下手ではない。この施設ではザガリーの正体に誰も気づいていない。ザガリーは子供達にも慕われているようで、いいお兄ちゃん役もしている。私には全てバレているとはいえ。


「マーシアもどうぞ」


 そんなザガリーをチラリと見つつ、盲目のマーシアにもクッキーを渡した。マーシアは作業台で手芸品を手探りで触り、ほつれた糸を抜いていた。


「ありがとう」


 一応お礼を言っていたが、マーシアはクッキーに興味を見せていなかった。こんな聞き込みだが、万人に効くとも限らないらしい。


 その後、前回と同じように見学をした。クリスに案内され、子供達とコミュニケーションをとり、時には遊ぶ。クッキーのおかげか、今は悪役顔の私でも、打ち解けて遊んだ。聞き込みを忘れて楽しんでしまうぐらい。


 ザガリーは周囲に誰もいない時は、手芸の作業もサボっていたし、時々、こちらを伺い、睨んでいる瞬間もあった。怪しい。どう見てもこの男は第一容疑者だ。


「ところでクリス。マムは本当に謝罪にきたの?」


 見学も一通り終え、クリスと少し立ち話できた。この瞬間に今日の本来の目的を果たそう。


「ええ。驚いた。あのマムが謝りにきたなんて。でも、懺悔室で神様に赦されたのなら、そんなもんかも?」


 クリスはチート懺悔室については疑問を持っていないらしい。無宗教の私としては解せないが、マムの改心も好意的に受けとめているらしい。微笑み、穏やかな表情だった。


「それに私もロン様が推しよ。ふふ、奥さんとマムと一緒に推し活してもいいわ」

「そうなの、クリス? わーい、是非!」


 クリスも推しが一緒だ。これは朗報ではないか。


「一緒に推し活しよ!」

「ええ、奥さん!」


 クリスは同じ推しだ。推しという共通点ですっかり友達のような気分。だとしたら、クリスがマムや私に脅迫状を送った可能性は限りなく低い。同じ推しが好きな人間が、悪い事するとも思えない。推しのロン様は間違った事が嫌いなキャラだ。


「まあ、でもマムは可哀想ね」

「え、クリス。なんで?」

「まだ恨まれているみたいだもの。前も魔術師エルがマムの後をつけているのを見たし」

「本当?」

「ええ。何か探っているのかしら。いやね」


 これは大きな手がかりだ。まだ魔術師エルはマムを恨んでいる。


 またチラリとザガリーの方を見た。今は障害者の演技をしていたが、こちらを睨んでいるし、第一容疑者キャラは不動の一位だ。どう考えてもザガリーは怪しい。といっても、前世のWEB小説「毒妻探偵」の内容以外、ザガリーを犯人だと決めつけるチャンスはないが、脅迫状の犯人も二人に絞られた。一人はザガリー、もう一人は魔術師エルだ。


「クリス、奥さん」


 そこにマーシアが壁つたいにやってきた。手芸品ができたらしい。クリスはマーシアを大袈裟に褒めていたが、その目はだいぶ冷めていた。天使のような見た目なのに、表情は意外とクール。私が持ってきたクッキーにもあまり興味を示していない。


「ふふ、奥さん。噂を聞いたわ。マムと一緒にロン様の推し活しているのね」

「え、ええ。してるわ!」


 なぜかクリスは私に声をかけてくる。クリスは他の仕事に行ってしまい、私と二人きりになってしまった。


「よく敵の愛人と推し活なんてできるね」


 マーシアの声は冷ややかだ。目も同じ様子だった。まるで「本当に憎い相手を許せるの?」と問うているみたい。


 マーシアは私の正体には気づいていないだろうが、盲目ゆえに、一般人には気付けないことも見抜けるのだろうか。


「そんな人なんて変わらないわよ。いくら悔い改めたとしても、人の心は弱い。誘惑もあるから、そう簡単に変われるかしら? 一度悔い改めたとしても、また失敗するケースってあるんじゃない?」

「え、マーシア。どういうこと?」

「私はマムが本当に反省したにか疑わしいと思ってるからね。ええ」


 マーシアの声は相変わらず冷たい。容疑者は二人に絞られたが、マーシアも十分に怪しくなってきた。私も上手い事笑顔が作れない。


 一方、マーシアは笑顔だった。明日の夜、魔術師エルがとある屋敷で呪い会を開くという。


「マムを呪う会らしいわ。噂で聞いた。どう、奥さん。参加してみたら? 場所も教えてあげる」


 ふふふ、とマーシアは微笑む。その笑顔だけ見たら天使そのものだったが、どこか目元は険しい。


「人間なんて天使じゃないからね。マムもどうよ。魔術師エルも」


 その声を聞いていたら、まだまだ容疑者を絞るのは早かったかもしれない。マーシアも十分に怪しいが、一つだけ確かな事もある。


 魔術師エルの呪い会に参加しなければならないって事。このチャンスは逃したくはない。


「ええ、そうかもしれない。だからマーシア。どこの屋敷で魔術師エルが呪い会を開くか教えて」

「もちろん」


 マーシアはニンマリと口角をあげていた。その顔はモブキャラとして噂を楽しむ私と似てる気がする。

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