表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/17

第2話 異世界転生しました?

 歩きスマホでトラックに轢かれてお亡くなりになった。しかもスマホでは「毒妻探偵」というサレ妻公爵夫人の推理ものを読んでいた。実際不倫されている文花が書いた疑惑が濃厚なもの。


「私、いくらモブキャラだからって、そんな死に方ありかー!」


 そう突っ込んでいた。


 今はおそらく夢の中だろう。トラックにぶつかった身体的な痛さは全くない。


 夢の中だけど、ここはどこだ?


 あたりを確認するが。雲の上?


 なんか白くてふわふわな雲の上にいるが、死んだ後、天国にでも送られたのだろうか?


 私はモブキャラだけど、無宗教だったし、無神論者だった。なぜか一家揃って無宗教を貫き、結婚も葬式も宗教色を出さない。正月に初詣も行かないような一家。当然、死んだ後も「無」になるだけだから、楽しく生きろと父に言われて育ったが。どうやら、まだ「無」になっていないらしい?


 既存の宗教では死後に生まれ変わったり、地獄or天国どちらに行くのか裁きがある所もあったけれど、今さならがら、こうして死んだ時は、一体どっちか気になる。


 それともWEB小説の異世界転生みたく、神様っぽい人が現れ、チートスキルもちで生まれ変わったりする?


 今のところ、無宗教の私は「無」の確率に賭けているけれど、なぜ、今はこんなふわふわとした雲の上にいるの?


 夢?


 現実?


 一体どっち?


 そう首を傾げた時だった。目の前がパッと明るくなった。光だ。眩しい。これは神様の登場か?


 私の予想は外れた。光に包まれた神様ではなく、文花おばさんがいた。


 専業主婦らしい地味な服装ではなく、なぜか女神っぽいワンピースを着込み、頭の上は月桂樹の葉や花で飾られている。何これ。女神コスプレか。といってもサレ妻で、変わり者の文花おばさんだ。女神コスプレもコントにしか見えず、思わず吹き出してしまった時だった。


「何、笑っているのよ、響子」


 そして文花おばさんは、いつも以上に睨みつけていた。おぉ、こわ。女神コスプレしても元々の顔立ちは全く変わっていないらしい。


「よくも私の不幸で笑ってくれたわね!?」


 しかも文花おばさんはお怒りだった。目頭は吊り上がり、顔は真っ青。声もカエルの鳴き声みたいにヒステリックだ。


「ちょ、文花おばさん、何を怒っているの?」

「知っているわよ、あなた。私がサレ妻だからって、陰で大笑いしていたでしょう?」


 なんとも言えない。大笑いはしていなかった。ただネタとして消費していたのは事実なので、とりあえず謝り、ここは何処かと聞いてみた。


「ここは死後の世界よ」

「え?」


 珍しく素直に答えがあったが、聞きたくないものだった。どうやら本当に死んでしまったらしい。サレ妻のWEB小説を歩きスマホで読んでいたら、死ぬとか全く笑えない。本当にモブキャラだからって、これはどうなんだ?


「実は私ね、サレ妻だから、愛人を懲らしめるために呪術を勉強していてね」

「は?」

「響子ちゃんを呪い殺したのよ。うふふふ」


 これは冗談か?


 しかしメンヘラだと噂されている文花おばさんの口から出ると、リアリティーがあり、全く笑えないんですけど!?


「ちょ、文花おばさん、落ちついて。私が悪かった。若気の至りだった。ごめんなさい」

「今更謝っても遅いわね。ええ?」


 しまいには文花は泣き出し、私に詰めてきた。不味い。この状況は大変よろしくない。


「あなたにもサレ妻の気持ちを分からせてあげるわ。夫に裏切られ、愛人にバカにされ、あなたみたいな傍観者に噂され……」


 ごめん、モブキャラの私、そんな主人公視点で詰められても全く想像ができない。


 そもそも主人公には不幸、試練、修羅場といったものが付きものだ。スポットライトの当たる役目の代償と言っていい。有名税みたいなものだ。いくら文花おばさんに泣かれても、キャラが違う。役割が違う。そんな主人公的苦悩はパス。全くわからない。


「不倫は心の殺人よ! そんなエンタメじゃないわ。噂のネタじゃない」

「はいはい、文花おばさん、落ち着いて。とりあえず、その女神コスプレやめようか。っていうか、なんでそんな女神コスプレしているの?」


 そう言った途端、なぜか背中がゾクリとした。確か既存の宗教では、死後、天国or地獄へ行くのか裁かれる所ってなかった?


 この文花おばさんが、チートスキルを授け、異世界転生してくれる女神にも全く見えないしね!?


「ええ。という事で、響子ちゃん、死後、サレ公爵夫人のキャラクターをやって貰うわ」

「は?」

「それが報いであり、バッドエンドと言えるんじゃないかしら?」


 文花おばさんはさらに私に近づき、頭に手を置く。


「ようこそ、地獄へ」


 再び意識が強制的にシャットダウン。文花おばさんの明るい声が響くが、わからない。


 やはり、人の不幸を笑っていた報いか。死後の裁きは、そこなのか。


 わからない、わからない……。


「はっ!」


 次、目覚めた時は、ふわふわの雲の上ではなかった。


 似たようなふわふわとした感覚は感じるが、これはベッドか?


 本当に雲みたいにふわふわで、広い。肌触りは最高で目覚めたくないが、この感覚はリアル。もしかしたら死んでいないのかも。トラックに轢かれたけれど、病院のベッドの上って事じゃない?


 つまり生き返ったのだ。大丈夫だ。寝覚めても大丈夫。おお、ちゃんと五感もあるっぽいし、生きてる!


「は?」


 しかし、目覚めたら、病院ではなかった。寝かされていた場所は天蓋つきのベッド。他、机、窓、カーテン、カーペット、全部、洋式だった。日本じゃない雰囲気。机の上にはランプがあり、天井には大きな照明もある。中世ではなさそう。近世ヨーロッパ?


 背中がゾクリとした。自分の手が変だ。丸みがある小さな手のはず。勉強でできたタコもあるはずなのに、手は人形みたいに綺麗だった。人形といっても市松人形じゃない。雛人形でもこけしでもない。何、このフランス人形みたいな手!


「は? この手、私の!?」


 違和感しかない。悪寒もする。


 急いで部屋の机に向かう。そこには手鏡も置いてあったから。


「え、自分!?」


 鏡の中が変だった。そこに佐川響子、十七歳の姿はない。うすいモブ顔はどこにもない。西洋風の濃い顔立ちの美女がいた。キッツイ雰囲気の美女。年齢は二十代後半ぐらいだろうが、肌はツヤツヤで、本当に女優みたい。普通の若手女優というよりは、ヒールポジションが似合いそう。悪役女優にピッタリな容姿?


「あ、悪役女優?」


 これは、どういう事か。なぜ佐川響子から、こんな「自分」になっているのだろうか。


 その時、怒涛のように「自我」が目覚めた。私、佐川響子ではなく、とある公爵夫人フローラ・アガターの自我だった。この「自分」の本当の人格らしいが?


 思い出した。フローラ・アガター。不倫サレている公爵夫人だったが、「毒妻探偵」のヒロインではないか。死ぬ直前に読んでいたWEB小説!


 なぜ「自分」がフローラ・アガターになっているのか。確か「自分」はトラックにぶつかり、女神っぽい文花おばさんに会っていたはず。


 佐川響子とフローラ・アガターの自我が混ざり合い、私の脳みそはパンク状態。二つの人格が主張し、船酔いしそうだったが、一つ確かなことがある。こんな状況、WEB小説で何百回と読んだ。テンプレ設定だ。よく知っている。


「異世界転生だ!」


 そう、生前読んでいたWEB小説「毒妻探偵」に異世界転生してしまったらしい。しかもヒロインのフローラ・アガターに。


「ヒロインでなく、そこはモブキャラに転生じゃないんかーい!」


 関西人のように突っ込むが、何の返事もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ