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第19話 ヒロインになる覚悟ができました

 公爵家の食堂にはミントの香りが漂っていた。アンジェラがミントティーを淹れてくれたからだ。最近、公爵家のハーブ畑で取れたミントを使うのにハマっていた。


 ドライハーブにしてお茶や入浴剤にするのもいいが、今日は摘みたてのミントでお茶にしてもらう。生のミントはよりスッとした匂いを放ち、私も冷静になってきた。


 改めて公爵家に投げ込まれた手紙、いや、脅迫状を見た。内容は「マムに近づくな! さもないと公爵夫人を殺す」と書いてある。手書きだったが、ホラー風のフォントだ。マムの脅迫状とも全く同じではないか。同一人物が送ったものだろう。


「奥さん、こんな手紙がきて、どうしよう! 殺されちゃうの?」


 フィリスはパニック状態だったが、アンジェラが淹れたミントティーを口に含むと、少しは大人しくなっていた。


 アンジェラもそうだ。元々ベテランメイドとして、どっしりと落ち着いているタイプだ。この件でもさほど動揺せず、ゆっくりとミントティーを啜り、冷静になっていた。


「まあ、奥さん。公爵家ではこんなイタズラは日常茶飯事です。慌てず、粛々と処理しましょう」


 それはアンジェラの意見に賛成で、私も深く頷き、ミントティーを啜る。


 フローラの記憶を辿ると、確かに公爵家には年中、嫌がらせの手紙が届いていた。メンヘラ化したブラッドリーの愛人から手紙が届いた事もある。元愛人が脅しに来た事もあった。前世で読んだWEB小説「毒妻探偵」では確かマムが脅迫状を送っていた描写もあった。


 慌てる事はないはず。ただ、マムの脅迫状を送った人物と同一というのが引っかかる。やはり、「毒妻探偵」でマムを殺した犯人・ザガリーの仕業だろうか。


 それに愛人ノートも盗まれたままだった。ブラッドリーの不倫の証拠隠滅をはかった人物もわからない。あれほど堂々と不倫をし、今でも開き直り、あろう事か溺愛展開に持ち込もうとするブラッドリーだ。極めて自己中心的な人物であるが、証拠隠滅をはかるほどの頭の良さはない。何者かがわざわざ証拠隠滅をしていると考えた方がいい。


 それとこの脅迫状は関係はある?


 一人で考えてもわからない。前世や中身が佐川響子である事を避けつつ、フィリスやフローラに知恵を借りる事にした。


「そうね。マムって愛人、いくら悔い改めたかと言っても、そう短期間で人の恨みは消えないもんだよ」

「アンジェラの言う通りです! マムを恨んでいる人がいるんです。脅迫状もきっとそうですよ!」


 メイド二人は脅迫状の犯人がマムに恨みがある人物だというが、一体誰だろう。これはブラッドリーの浮気証拠隠滅とも関係あるだろうか。


 もう一回、ミントティーを口に含み考えるマムを恨む人物をAと仮定する。Aは不倫の証拠を集め、それをネタにマムを脅そうとしていた?


 実際、Aがマムを殺すかはわからない。ザガリーがAとも言い切れないが、筋は通る。


「問題はマムを恨んでいる人物よ。一体、誰なの?」


 思わず苦い声が出る。モブキャラとして人の不幸を楽しんでいた私だが、今は違うかもしれない。マムにも死んで欲しくない。平和に推し活を一緒にしたい。もちろん離婚だってしたいが、今はモブキャラをやめてもいい。一瞬だけでもヒロインになって、この脅迫事件を解くのもいいじゃないか。自分の為だけじゃない。平和の為だ。


「そんなのメイドの私には分かりませんよ。奥さん、調査しましょう!」


 まるで私の気持ちを読んだかのように、フィリスがせっついてきた。


「そうですよ。なるべく内密に収めた方が良いですね。これが世間にバレたら、公爵家の評判も壊滅的。ますますブラック公爵家の噂がたってメイドも庭師も来ませんよ」


 アンジェラの意見ももっともだ。不本意だが、モブキャラではなく、フローラ・アガターというヒロインとして立ち上がるしかない。思わず、ぐっと手に力が入った。その時、ブラッドリーが帰ってきた。


 今まで立ち聞きしていたのだろう。ブラッドリーもこの脅迫事件を調査しろと言う。


「そうだ、フローラ。ここは調査しろよ。探偵みたいに頑張れ」


 全く悪びれないブラッドリーにため息が出てくるが、応援しているのは確かだ。


「フローラ、調査しろ。お前ならできる。おもしれー女なんだから。もっと面白くなれ」

「失礼ね。言われなくても調査するから」


 ぬるくなってきたミントティーを飲み干し、宣言した。


「ええ。バッドエンドはお断りよ。犯人を見つけて平和を目指すからね!」


 ほんの少しだけモブキャラはお休みだ。調査しよう。犯人も見つけよう。バッドエンドだって壊す!今はヒロインになる覚悟はできていた。

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