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第11話 調査結果がでました

 探偵に調査を依頼した後、暇になった。


「はー。ミントが増えてるわね」


 暇だとはいえ、万年人手不足のブラック公爵家だ。庭仕事もフローラの仕事となり、ミントを間引いていた。


 これでも昨日、庭師を募集し、面接までこぎつけたが、フォリスにセクハラしようとし、即刻出て行ってもらった。人材不足は慢性化中だ。元々は女子高生だった私。前世でも人材不足が問題になっていたが、解消する手段が全く思いつかない。


「ちょいと、奥さん」


 そこに洗濯婦のエリサがやってきた。これから庭で洗濯物を干すそうで、額には汗が浮かんでいたが、まだ時間があるそうだ。噂話を持ちかけてきた。


「今日は大きなスクープを入手したのさ」

「え、エリサ。どういうスクープ?」

「実はこの国の女王様、不倫されているらしい」

「ほんと?」

「つまり国王は浮気者って事さ。実に嘆かわしいね。きっと不倫相手は一般の女じゃない。スパイかもしれない」

「国王の不倫で国が傾く可能性もあるって事ね?」

「そうだよ。面白いね!」


 噂話が止まらない。確か「毒妻探偵」の中でも女王がサレ妻というシーンもあったが、あまりも少ない描写だったので、すっかり忘れていた。


 それにしてもエリサと盛り上がる噂話が面白い。あっという間に時間が過ぎてしまう。


「ところで奥さんよ。公爵さまとはどうなんだ?」


 エリサはなぜか私の手を握り、憐れみの声を出していた。心配しているのだろう。


「ええ。今は夫はこっちに帰ってこないけれど、不貞の調査中なの」

「ほんとかい?」


 エリサは目を丸くした。少々、驚きすぎている気もしたが、声のトーンを落とし、さらに話を続けた。


「やっぱり離婚に動いているんかい?」

「そうよ。離婚したいもの!」


 思わず明るい声が出てしまった。


「そうか、そうかい。私はフローラ奥さんを応援するぞ」

「ありがとう、エリサ。同じゴシップ仲間としてこれからもよろしくね!」

「ええ。よろしく」


 エリサと抱き合い、絆を深めたが、その後は公爵家の仕事が多い。


 家事だけでなく、同じ貴族へ手紙を送ったり、慈善活動のスケジュールや金銭管理もあった。数日後、ブラッドリーと一緒に福祉施設の訪問もあった。


 この慈善活動、あまり行たくない。この福祉施設に犯人のザガリーがいる。まだ事件が起きていないとはいえ、障害者のフリをしながら、マム殺害を狙っているとか、全く笑えない。


 私は書斎で設定ノートを引っ張り出す。離婚が第一目的ではあるが、ザガリーのマム殺害を阻止する方法はないだろうか。


「モブキャラだもの。殺人事件とかムリ!」


 かといって当初の目的、離婚が疎かにになるのも困る。離婚を目的としながらも、殺人事件が棚ぼた的に阻止できるルートはないものだろうか。


 そう首を捻って考えている時だった。


「奥さん! 大変ですよ」

「何よ、フィリス。落ち着いて」


 フィリスが書斎にやってきたが、いつも以上に騒がしい。耳がキンとする。フィリスは田舎ものだが、そろそろ礼儀作法の勉強でもさせるべきだろうか。確かWEB小説「毒妻探偵」の中でも、フィリスが礼儀作法を学ぶシーンがあったはずだ、とりあえずそれは置いておこう。


「一体、どうしたのよ、フィリス」

「奥さん、大変です! 父が来ました! 不貞の調査の結果が出たんですよ!」


 それは私も無視できない。慌てて書斎から飛び出し、客間へ向かう。フィリスにはお茶と菓子を客マに持っていくよう指示をだし、客間の扉を開けた。


 そこにはテレンス探偵がいた。以前、会った時のように田舎ものらしい服装だったが、今日は頭を抱えていた。客間のインテリアも無視していた。以前、来た時は目を丸くし、騒いでいたのに。


「ごきげんよう、テレンス探偵」


 私はあえて公爵夫人らしく接したが、テレンス探偵は「うぅ」とうめいていた。息も酒臭い。嫌な予感しかいない。


 ちょうどフィリスがお茶と菓子を持ってやってきた。テレンス探偵の娘にフィリスも同席させた方がいいと判断した。お茶を飲みながら、調査結果を聞く事に。


「奥さん、怒らないでくれよ。これが不貞の調査結果だ」

「読ませていただくわ」


 テレンス探偵は苦い顔で調査結果の資料を渡す。


 この世界はカメラや録音の技術はない。そういった証拠は期待できないものだが、調査結果は酷いものだった。


「奥さん、どういう事? 見せてよ」


 フィリスも勝手に調査結果を覗いていた。調査結果によると、尾行や別邸への張り込みを行ったそうだが、ブラッドリーは愛人といる場面を見せなかったそうだ。最近は仕事で編集者と面会ばかりしていたという。


「はー? お父ちゃん、ちゃんと調査した?」

「したよ! でもなぜか相手はボロを出さない。バレてたかもしれんな」


 テレンス探偵とフィリスは騒がしいが、私は声も出ない。プロの探偵を味方につければ、上手く行くかと思ったが、甘かったらしい。私のモブキャラライフが遠のきそう。おそらく、何か勘付いたブラッドリーが警戒した結果だ。愛人ノートが消えたのも、間違いなくブラッドリーが犯人だ。そんな確信しか無い。


「ただ、愛人疑惑があるマムについては調べた。これで勘弁してください」


 そこまでしてくれるテレンス探偵に文句は言えない。


 マムの調査結果は、なかなか面白い。恋愛カウンセラーとして顧客とトラブルも多く、飲食店でもカスハラをし、敵が多いらしい。悪徳福祉作業所も経営した過去もあり、そこでもトラブル多数。


 また、さらに過去には王宮勤めもしていた。そこでも王宮魔術師とトラブルがあった。地元でも稀代のいじめっ子として嫌われ、元夫を殺害した噂もあるそう。それがザガリー(犯人)がマムを殺した動機だが、この調査結果は使えるかも。離婚を目指すというよりは、殺人事件というバッドエンドを回避するために。


「ありがとう。テレンス探偵、ここまでしてくれたら、十分だから」

「そ、そうか。悪かったな」


 テレンス探偵は仕事の結果に罪悪感を持っていたようだが、私が笑顔でお礼を言い、報酬も支払うと帰って行った。


 離婚に向けて目的まで遠いらしいが、ここは一旦、狡猾な敵(夫)を泳がせ、様子を見るの事にしよう。油断した時、ボロを出す可能性もある。


「しかし奥さん。これだけ証拠がでないなんて、変ですよ」


 フィリスは全く納得していないらしい。調査結果の紙をバシバシ叩き、子供みたいに口を尖らせていた。


「そう? 相手が警戒しているんじゃない?」

「これでもうちのお父ちゃん、人気の探偵ですよ。それなにに、証拠がないってどういう事?」


 フィリスは冷めた紅茶をがぶ飲みし、腕を組む。珍しく真面目な表情だった。


「つまり、公爵さまは潔白ではないの?」

「は?」


 フィリスは書斎からブラッドリーのが書いた恋愛小説まで持ってきて宣言した。


「公爵さま、実は奥さん一筋で不倫していないんでは?」

「そんなバカな話はないでしょう」


 そんな甘い推理に呆れてきたが、その恋愛小説は、純愛ものだった。貧乏なメイドと伯爵家のイケメンが愛し合う話で、ブラッドリーの代表作品だ。


「こんな純愛を書いた人ですよ。実は不貞していないんでは?」


 フィリスが手にしている恋愛小説を見下ろす。確かにこの物語は美しい。しかもブラッドリーは不倫の罪悪感を日記で綴っていた。


「潔白もありうるの?」


 私の問いにフィリスは頷いていた。

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