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第1話 モブキャラ、サレ妻に会う

 私は佐川響子、十七歳。女子高生だ。オタクよりではあるけれど、今は特定の推しもいない。好きな人もいない。クラスでは陽キャでも陰キャでもない。その他、大勢のモブキャラだ。


 別にそんな目立ちたくもないし、責任も取りたくないし、主人公とかヒロインとか勘弁。モブキャラ最高。モブキャラ万歳。傍観者でいい。お客さんでいい。ずっとモブキャラとして生きていたい。そう思っていたはずだった。少なくともこの日までは。


「文花おばさーん。こんにちは。響子です。遊びに来たよ」


 そんな私、夏休みに入って親戚の家へ遊びに来ていた。親戚といっても苗字が違う。遠縁だった。


「何しに来たのよ、響子」


 この親戚の川瀬文花、アラサーの専業主婦だったが、見事に不機嫌そう。


 私をリビングに招き入れてはくれたが、腕を組み、睨みつけ、お茶すら出さない。


「今ね、私も忙しいのよ。夫の愛人調査でね。そんな女子高生の相手をしている暇などないわ」

「やっぱり。本当に愛人調査しているの?」


 ついつい下衆な目で聞いてしまった。そう、文花おばさんは不倫されている妻。いわゆるサレ妻だった。夫が有名作家だった事もあり、スキャンダルに発展した過去もある。愛人の殺人事件に巻き込まれ、文花おばさんが愛人調査スキルで謎を解き、一時はちょっとした有名人だった。


 今でも愛人調査を趣味にするぐらいの変わり者。正直、側から見ていると、これ以上、面白い人いない。観察したい。今日も遊びに来てしまった。ちなみに文花おばさんの夫は取材旅行に出掛けているらしい。愛人が同行しているか気になる!


「うるさいわね、響子。人の不幸で面白がらないで。なんか女子高生なのにおばさんくさい子ね。追い出すわよ」

「そんなぁ」

「何をそんなに知りたいのよ。ネットでも芸能人の不倫スキャンダルを調べて喜んだり、不倫ドラマを毎週見てニヤニヤしているんでしょ?」


 図星だ。思わず私の目は泳ぐ。


 でも、面白いんだもん。人の不倫は最高のエンタメだと思う。学校でも若い先生と校長が不倫しているという噂を聞くと、ワクワクしちゃって仕方ない。おかげで学校、ご近所の噂も全部網羅していたりする。


 どうせ私はモブキャラだから。


 おそらく、一生不倫とか修羅場とかに関係のないポジションにいる。悪くいえばつまらない人生だ。良くいえば傍観者的ポジションには座れる。


 そのポジションから不倫を眺めるって、最高なエンタメじゃないか。ゴシップ紙が不倫報道する理由はよくわかる。私みたいなモブキャラに娯楽を提供しているのだ。決してヒロインになれないモブキャラなんだから、不幸の蜜を貰ってもいいんじゃない?


 幼稚園の学芸会では背景の「田んぼ」役だった。


 小学校の頃は、あだ名は「モブ」だった。今も教室の背景に同化していまってる。「いたっけ?」と陽キャに笑われた事も多数だ。


 きっと私、この世界のエキストラなのだ。存在感もない。モブオーラ満載で、脇役すら無理。スポットライトに当たる日は決してない。


 だとしたら、主役やヒロインの不幸をニヤニヤと観察してもいいんじゃない?


 私みたいなキャラじゃないと見えない世界もあるはずだ。去年は学校のヤンキーの噂を楽しんでいたら、万引きを目撃し、警察に通報した事もある。ヤンキーはまさか私に見られていたとは想像もつかなかったと言う。私の存在感の無さと噂収集能力は警察もビックリしていた。目立ちたくないから表彰は断ったけど、「そのスキルを生かして探偵になって尾行したら?」とまで言われた。棚からぼたもちか。いや、瓢箪から駒?


「文花おばさん、愛人調査をまとめたノート書いてるっていうのも本当? 噂では愛人ノートって言われてるけど?」

「うるさいわ。なぜ、あなたに説明しないといけないのかしら。出て行きなさい」


 文花おばさんは、ますますイライラとし始め、家からつまみ出されてしまった。おぉ、こわ。


 確か文花おばさん、不倫されて心を病み、メンヘラ地雷女とか悪く言われてた。なんともご愁傷さま。


「なんなのよ、文花おばさんのケチ」


 ぶつぶつ文句を言いながら、文花おばさんの家から駅まで歩く。


 おかげで暇になってしまったし、スマホも取り出し、小説投稿サイトも適当にチェック。ブックマークしている作品がエタってしまったし、なんか溺愛系の異世界ものないかなぁ。


 異世界転生や追放ざまぁが主流のサイトだったが、なぜか新着欄に不倫探偵の推理小説が上がっていた。タイトルは「毒妻探偵」。サレ妻の公爵夫人が愛人調査スキルで殺人事件を解決するミステリらしい。


「何これ。WEB小説でこんな推理ものはないわーwww 異世界転生ものとかでしょー」


 しかし話の設定、どうも文花おばさんと被る。舞台は近代西洋風だったが、まさか、文花おばさん、この小説の作者?


「毒妻探偵」の主人公、フローラ・アガターは痛いと有名なサレ妻公爵夫人。夫は人気小説家でもある。芸の肥やしのために不倫を繰り返し、フローラは愛人調査に明け暮れる。その愛人調査スキルで、いつのまにか殺人事件も解決してしまう話。


「いや、どう考えてもこれって文花おばさんが殺人事件に巻き込まれた時の話じゃん。いつ、WEB小説なんて書き始めた!?」


 不倫描写や死体の描写にウンザリしながらも、歩きスマホをで「毒妻探偵」を読み終えた時だった。この作品の作者=文花おばさんだと確信し、ぞっとしながらスマホを落としてしまう。


「あ、やば!」


 スマホは道路にするっと滑り、拾おうと一歩出た。


 ドーン!


 トラックが突っ込んできた。やばい、早く逃げなきゃと思った時、意識がシャットダウンした。


 目の前が真っ暗になる。


 どうやらトラックに轢かれたらしい。これは人の不幸を笑っていた報いだろうか?


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