表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第一章 ヤナギさん①

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/86

5.ぼくが成仏できない理由、の話(前半)

《ぼくね、自分が成仏できない理由が、何となくわかってるの》


「成仏できない理由……」

《うん。ぼくって、ほら。こんなんでしょう》

 こんなん、というのはおかまのことだよな。

《このことではずいぶんと長い間苦しんできたのよね……》

 ヤナギさんが遠い目をする。その目は少し寂しそうに見えた。


《ぼくね、自分が他の人とは違うかもしれないって、けっこう早い時期から気づいていたの。中学生の時は、みんなが女子の話題で盛り上がってるのに、ぼくだけは野球部のエースの子にドキドキしてたわ。もちろん、誰にも言えなかったけど。想いは胸の内に秘めていたわ。いじらしいでしょう?》


 そういうのはいじらしいとはちょっと違うんじゃないか。

 と思ったが、とりあえず頷いておいた。


《それに大人になれば変わるかなっていう思いもあったの。ノーマルに女性へ恋愛感情を抱くようになるんじゃないかって。でもね、そうはならなかった。むしろどんどん大きくなっていった。気持ちを抑えこんでいたから、余計そうだったのかも。大学を卒業して社会人になってからもずっと悩んでいたわ。だけど本当の自分を隠して偽っているのが、どんどん苦しくなってきて、思いきってニューハーフ・バーへ転職したの。もうね、最高だったわよ! だって何も隠す必要はないんだもの。ありのままの自分を出していいんだもの。もっと早くこの世界に飛び込めば良かったって思ったわ。同じ悩みを持つ者同士、初めて相談もできた。とにかくぼくの人生はこれからなんだ! って感じたわ》


「そこで、交通事故。死んじゃった……」


《違うわよ! 勝手に殺さないでよ! 夜の世界に入ったのは五年前よ。それで私生活は満たされたんだけど、親よね。親にはどうしても本当のこと言えなかった。実家に帰った時には普通を装うしかなかった。だってそうでしょう? 大学まで出した息子が、あ、ぼく、弟と二人兄弟なんだけど、とにかくその息子がおかまになったなんて知ったらどう思う? 「がっかり」なんてたった四文字じゃ表せないんじゃない? 結局言えずに、親の前では普通を通した。それはそれでキツかったわ》


 そりゃそうだよな。

 もし自分がおかまになったとしたら、やっぱり親には言えない。

 お盆休みの帰省先、数ヶ月ぶりに家族みんなで食卓を囲んだ時にそんなカミングアウトしたら、きっと茶碗が飛んでくる。

 世の中は多様性だの、ジェンダーレスだの言っているが、いざ当事者となったら話は別なのだ。


《タダクニくん、親の楽しみって何だと思う?》


 楽しみ?

 ふいに質問されてタダクニは宙を眺めた。


《ぼくが思うにはね、成長した子供と大人の会話をするのって最高の楽しみだと思うの》

「一緒にお酒飲んだりとか」

《そう。そういうヤツ。父親と息子だったら仕事のことを話したり、母親が娘から恋愛の相談を受けたり、子育てのコツを教えたり。それって自分の残した遺伝子、自分の分身の成長を見るようで、極上の喜びを感じたりすんじゃないのかなあって。それが親孝行ってものなんじゃないのかなって》


 そう言われれば、そうかもしれない。


《で、ぼくはそういうのを何ひとつやってこなかったの。親と、特に父親よね、大人の話をしなかった。最初に就いた仕事の時はそんな話、ほとんどしなかったし。ましてやニューハーフ・バーに移ってからなんて、余計に話せないじゃない。実際はそれどころじゃなかったけど。仕事で女性の仕草が身に付いちゃってるでしょう。親の前でそれが出ないように気をつけるのに必死だったわ。初めの二、三年は帰ってたんだけど、親の前で嘘つくのがどんどんしんどくなってきて、結局帰るのやめちゃったわ。だからぼく、大人になってから親とまともに話した記憶がほとんどないのよね……》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大きくなるにつれ、親から離れていくというのは、少しわかる気がします。 僕も一時ですが、親に勘当されて2度と帰ってくるな!て言われて、まぁまぁ気まずかったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ