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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
エピローグ

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2.エピローグ その2(そして、本番へ)

「おつかれさま! だいたいわかったわよね? ハードル高そうって? 大丈夫、大丈夫。みんな最初はそう言うのよ。でもなんだかんだ、やってるわ。だからあなたもできるわよ。え、誰かって? この小説でこの喋り方って言ったら、ぼくしかいないじゃない。トオルよ、トオル、ヤナギトオル」


 ――小説、ハッピーエンドで終わったと思ったのに、まだ続くの?

  今度はどういう展開?


「あなたの心の声を代弁すると、さしずめこんなところかしら。仕方ないわね。少し説明してあげるわよ」


 ――説明っていうか話を見失ってるから、もっと丁寧にストーリーをアテンドして欲しいんだけど。

 こういう『どんなシーンなのか、誰が誰にしゃべってるのか』わからないのが、小説読んでて一番ストレスなのよ。

 この作者、ヘタクソだなぁ、よくこんなんで編集部のチェックを抜けてこれたなぁって思う。


「それ以上はやめなさい。あなたの考えることはビンビン伝わってくるんだから。これからちゃんと説明してあげるって言ってんだから、あんまり暴言が過ぎるとひっぱたくわよ。数百ページも読んできて、最後の最後が意味わからない、じゃかわいそうだから特別サービス。いつもはここまでしないんだから、感謝しなさい。いい? まずぼくはヤナギトオル。これはいいわね、さっきも言ったし。そしてぼくが話し掛けてる『あなた』っていうのは、そのまま『あなた』のことよ。そう、これを読んでる読者の『あ・な・た』」


 て、待った待った待った。


 なに勝手にしゃべり出してんだ、ヤナギさん。


 小説の登場人物が勝手にしゃべったらダメでしょ。


 しかも読者に話し掛けるとか、あり得ないでしょ。


「あら、出てきたわね作者さん。こんにちは。大丈夫よ。うまく読者さんをアテンドしてみせるからどろ船に乗った気分で見守っていて」


 大船だろ! それを言うなら。

 沈没確定してんじゃねえか、どろ船じゃ。不安しか無えよ。


「ツッコめる余裕があるなら大丈夫ね。まぁ、見てなさいって」


 そこまで言うならお手並み拝見ってことにするけども。


「ありがと。あ、ごめんなさいね、置いてけぼりにして、読者さん。ちゃんと今から説明するから」


 ――なにこれ? 全然意味がわからないんだけど。

 作者が出てきたり、登場人物とボケとツッコミ始めたり。

 それに読者さんって読んでるこの私のこと?

 そんなわけないか。ちょ、全然展開がつかめない。


「そう、あなたのことよ、読者さん。まず結論から言うとね、あなたは死んだのよ」


 ――ふーん。

 今度は読者が死んだっていう展開なんだ。珍しい。


「なに感心してるのよ、他人事みたいに。あなた当事者なのよ。もう少し真剣に聞いてくれる。わかったら返事してみて『はい』って。ちゃんと言わなきゃダメよ。ほら言ってみて『はい』」


 ――え、これホントに私に話し掛けてるの?


「だからさっきからそう言ってるじゃない。ここからはあなたとの対話なの」


 ――何それ。

 そんな小説読んだことないけど。


「知ってる。ぼくも読んだことないもの。でもこの作者は、その読んだことない展開をやろうとしてるのよ。だからちょっと違和感あってもついてきて。いい? 本題に戻すわよ。あなたは死んでるの」


 ――私が死んでる?

 生きてるけど?

 生きてるからこうやって本読んでるですけど?

 設定にムリがありすぎよ。


「そう思ってるんでしょ? まぁ、聞きなさい。あなたは今、死後の世界に来ているの。認識できてなくてもムリないわ。なにせ突然の出来事だったんだから。ちょっと深呼吸してみましょう。さぁ、息を吸って~、止めて~、吐いて~。吸って~、止めて~、三回やってみて。どう? 少しは落ち着いたかしら。そしたら、目をつむっておぼろげな記憶を思い出してみて。あなたには死ぬかと思った経験があるはずよ。例えば、幼少期にダンプカーに轢かれるニアミスに遭遇したり、三階の教室から誤って落ちて骨折したり、夏場の川遊びで溺れそうになったり……。ギリギリ助かった経験として記憶に残ってると思うけど、それは現実をいいように捻じ曲げた、希望的観測による記憶なの」


 確かにヤナギさんの言う通り、死ぬかと思った経験なんてのは誰にだってありそうなものだ。

 この小説を書いてる作者にも二度ほどあって……。


 ひとつ目は小学五年生の時、市営プールで。


 そこのプールには低学年専用の浅いプールというものなく、その代わりに深さを調節する踏み台、高さにして五十センチくらいかな、そういう踏み台を一面に敷き詰めたエリアがあったわけ。


 それによって底が五十センチ上がるから、水深も浅くなって、そこでは背の低い低学年でも安心して遊べる、即席低学年用エリアができあがるというわけだ。


 で、作者は何を思ったのか、というか小学五年生のハナタレなんだから何も考えずにやったんだろうが、その敷き詰められた踏み台の下を潜水していた。


 もうおわかりですよね。


 踏み台エリアの真ん中辺りまで潜水した時に息が続かなくなった。


 顔を上げたいけれど、踏み台の下にいるからそれはできない。


 早く踏み台エリアから脱出しないと!

 溺れる!

 窒息死する!


 今思い返しても、ちょっと心拍数が上がってくる。

 

 よく助かったわ、と思う。

 あのまま土左衛門に変身していても不思議じゃなかった。

 あぁ、よかった、生きていて。


 で、ふたつ目は大学二年の夏。


 サークルの仲間でキャンプを企画し、レンタカーで日光へ出掛けた時だ。


 その頃ちょうど運転免許を取った人がちらほら出始めた頃で、キャンプ場までの道のりを、免許取得組が交代で運転をしていくことになっていた。


 そこでなぜそうなったのか謎だが、レンタルしてきたのは止せばいいのにマニュアル車のカローラだった。


 そして事件は、人気も車も無い山中で起きる。


 傾斜角度三十から四十度くらい、長さ百メートルほどの超急勾配な上り坂が現れたのだ。


 ハンドルを握るのは普段無口な先輩の千葉さん。


 もちろん免許取り立てホヤホヤだ。


 助手席にいた作者は、何の気なしにチラッと横目で千葉さんを見た。


 その時である。


 あの無口の千葉さんが、急な坂道を目の前にテンションがぶっ壊れたのか、いきなり叫び出したのだ。


「うぉぉぉおおお、いくぞぉぉおおお!!!」


 叫び声と同時にスピードを上げるカローラ。


 見るとギアは五速に入っている。


「千葉さん、五速じゃムリですって」


「大丈夫! スピードあるから」


「いや、そういうことじゃくて。五速じゃパワー足りないっスよ」


「じゃぁ、もっとスピード出す」


 そう言って千葉さんはアクセルをベタ踏みした。


 更に加速するカローラ。


 ちょっ、どんだけスピードに信頼置いてんスか。


 あんたどこの教習所卒業したんだよ!?


 明らかに異常を知らせるかん高いエンジン音をあげながら坂を上るカローラ。


 最初は勢いもよく三十メートル、なかなかどうして五十メートル、徐々に減速してるが七十メートル、どうにかこうにか八十メートル……あとちょっと。


 ひょっとして、このまま上り切れちゃったりするとか?


 て、そんなわけねえ。


 上り切る手前で車が止まった……ッ!


 そして時も止まった。


 カーステレオの音楽が耳に入らなくなり、不思議な静寂の中、坂の上からの景色が目に入った。


 雲ひとつ無く、天高く澄み渡る空。


 青々と茂った木々が織りなす山並み。


 その向こうには中禅寺湖が太陽の光を受け、湖面をキラキラと輝かせている。


 今年の夏もまだまだ暑くなりそうだ。


 って、夏を感じてる場合じゃねえ。


 カローラはにじりにじにじと後退し始める。


 下がっていく、バックしていく、スピードが増していくぅぅううう。


 逝ったぁぁあああ!


 百メートルの急降下ぁぁあああ!


 思い出すだけで、ぞわぞわ鳥肌が立ってくる。


 よく事故にならずに済んだと思う。


 道路脇にいた坊さんと男女を轢きそうになったのを今でも覚えている。


 もしあの人達を轢いてたら、キャンプどころではなかったし、千葉さんは犯罪者になっていた。


 ちなみに、その後千葉さんは、後部座席が指定席になったのは言うまでもない。


 って、何の話だっけ?

 そうだ。

 ヤナギさんにアテンドを戻さないと。

 よろしくヤナギさん。


「終わった? 話が長いのよ、作者さんは。今の坂道の話、ホントに必要だったの? なぜかデジャヴを感じたし。とにかく、もうしゃしゃり出てこないでよ。ただでさえ読者さん混乱してるんだから、これ以上ひっかき回さないでくれる。ごめんね、読者さん、アホな作者で。じゃ、話を戻すわよ。これを読んでる読者のあなたにも死ぬかと思った経験が一度や二度はあるでしょ? 思い出した? あなたはあの時に、本当は死んだの」


 ――だから何を言ってるの。

 何度も言うけど死んでないし。ここにきて展開メチャクチャじゃん。


「って言いたいんでしょ? でもね、よく考えてみて。あの死にそうになった出来事から、そんなに都合よく助かると思う? そんな奇跡が現実に起こりえたと思う? そんなわけないじゃない」


 ――そういうことか。

 読者を物語に参加させるっていう新手のパターンの小説なのね、これ。

 そう考えると、このハチャメチャな話も受け入れられる。


「違うわよ。そんな生やさしいものじゃないの。これは冗談でもドッキリでも何でもないの。ホントにあなたは死んじゃってるの」


 ――うん。

 わかった、わかった。

 その話に付き合ってあげる。

 で、次はどういう展開になるの?


「余裕ぶっこいてられるのも今のうちよ。だって読者のあなたは、このままだと地獄に落ちることになってるんだから」


 ――どうして天国じゃなくて地獄って決まってんのよ。

 小説のタダクニや徳之進のようにはいかないよ?

 だって私には地獄に落ちる根拠がないもの。

 そんな日和見主義、ズルくない?


「って言いたそうな顔してるわね。覚えてないの? あの時、あなたにあげたじゃない、夏目くんのマイナス一〇〇ポイント。思い出した? だから頑張ってやりたいことをやり切らないと、ぼくやカレンちゃんのように天国には行けないのよ」


 ――やりたいことって何のこと。


「何言ってんの、今になって。前に自分で挙げたじゃない。『今日死ぬとしら、何するの?』って考えたじゃない」


 ――たしかにそんなシーン、あったけど……。


「別にページめくり返さなくってもいいわよ。あれって全部作者の雑談だと思ってたの? おめでたいわね。もう、現実を受け入れなさい。これは一発本番よ。訓練も練習もないの。でもやるべきことはわかってるわよね。ぼくとカレンちゃんがバッチリお手本を見せてきたんだし」


 ――お手本だなんて。

 単なる物語としてしか読んでなかったし。


「そう言いたげな不安な顔してる。けどね、決断の時はいつだって突然やってくるの。せっかくあの時やりたいことを意識したんでしょ。それ、やってみたの? 賭けてもいいわ、やってないんでしょ?」


 言われてみれば、作者も考えるだけ考えて、やらなかったな。


「あんたのことはいいのよ。でもほら、読者さんも図星って顔してるじゃない。結局みんなやらないのよ。いい? こんなチャンス、もう二度と訪れないわよ。この小説は読んで終わりだと思っていた? 残念、ブブー。参加してもらうの、この小説は。さぁ、最後のページを閉じたら、今度はあなたの物語が始まるわ。あの時浮かべたやりたかったことを、実際の行動に移すの。覚悟はできた? できたら、行ってらっしゃい。ほら、見た目は怖いけど世話好きの仏様が待ってるわよ。さぁ早く列に並んで。ちゃんとやり切って成仏できることを祈ってるわ。うまくいったら天国坂で逢いましょう。まずは一緒に動いてくれるパートナーを見つけないとね! さぁ、あなたは大切なパートナーに、誰を選ぶ?」


                                    完

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