表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第七章 天罰覿面ってヤツよね

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/86

12.どこにいどがあるのよ、の話

「地図と照らし合わせるとこの辺りだと思うんだけどな」


《公園しかないわね》


「公園の中にあるとか」


 千明が言いながら、公園の入り口付近にある園内マップを眺める。


 全長百メートルほどの長細い公園。

 中央に池があり、その池を境に遊具が点在する子供の遊び場エリアと、ベンチと遊歩道だけというくつろぎエリアに分かれた、わりとキレイ目な公園だ。


《どう?》


「井戸は無いみたい。てか、描いてない」


 ……嘘でしょ。


 ここに無かったら、どこにあるって言うのよ。


 まさかさっきの川と同じように、埋められちゃったとか言わないよね?


 だとしてら、絶対に見つからない。


 残りあと何分?


 五分くらい?


 もうムリじゃない。


 泣きそうになってきた。


 ……素直に天国に行っとけばよかった。


 こんなことなら戻ってくるんじゃなかった。


 あのまま天国のドアを開けていても、誰にも咎められない、文句も言われない、非難もされなかったのに。


 二人の役に立とうなんて、カッコつけたりするんじゃなかった。


 情けなくって、諦めるように二人を目で追った。


 タダクニくんはスマホのライトを照らしながら、池の周りを探している。


 千明ちゃんはベンチや遊歩道の周りを這うように探している。


 どちらも真剣な顔つきだ。


 そりゃそうよね。

 地獄だもん。

 ストーカーが待ってるんだもん。

 必死になるわよ。


 ぼくが余計なこと教えなければ、少なくとも残りの人生は楽しめたのにごめんなさい。


 なのにぼくったら、たった二週間程度の付き合いで深い仲になったつもりになって、出しゃばっちゃって、偽善者ぶってバカなまねを。


 二人のことなんかそっとしとくべきだったのよ。


 違う。


 それこそ偽善よ、言い訳よ。


 ぼくは二人のために戻ってきたんじゃない。


 自分のためだ。


 自分が気持ち悪いから戻ってきたのよ。


 たった二週間?


 ううん。時間なんて関係ない。


 人との距離なんて一瞬で縮まる。


 ぼくは友達が地獄へ落ちるなんて見過ごせなかったから戻ってきたんだ。


 突然、親父の顔が脳裏に飛び込んできた。


 ――やれること、必死でやったんだろ?


 あの人達がいたからできたのよね、成仏。


 あの二人にもらったのよね、天国行き。


 偽善だろうが何だろうが関係ない。


 恩は返すのよ。


 ぼくが戻ってきたのは間違いじゃない。


 そう思いたい。


 思わず首を横に振った。


 ぼくはまだやりきってない。


 人のために、ううん、大切な人のために。


《ちょっとー! どこにあんのよ、出てきてよー!》


 もうヤケクソよ。


 ぼくは弱気を振り払うように手当たり次第、手形をかざしまくった。


「待って、ヤナギさん。もう一回。もう一回、あっち向けてみて」


 ふいに千明ちゃんが声を上げた。


「何か光らなかった? あっち向けた時」


 言われた方向に手形をかざすと、確かに、少し反応があるところがある。


 遊歩道からも外れ、草が荒れ放題になっている一角だ。


 何あれ?


 ひょっとして……


 藁にもすがる思いで、草むらのほうへ駆け寄った。


 パッと見、雑草以外に何も無い。


「とりあえず反応あったのこの辺だから、もっとやってみろよ」


 言われて手形をかざそうとした瞬間、背中に寒気走り、つい手が止まった。


「どうしたの?」


《また変なの出てきたりしない……よね?》


「何言ってんだよ、ここまできて。否定はできないけど、もうやるしか無いだろ」


《でも、もしさっきみたいの出てきたら》


「そん時はそん時だ。地獄に行くしかないだろ。時間無いんだろ? このまま何もしなくたって、タイムアウトで地縛霊の無間地獄。やってみて、地獄の扉が開いちゃっても地獄行き。行くも地獄、退くも地獄。どっちも同じ地獄だったら、やって地獄のほうが後悔無いって」


 わかってるわよ、そんなこと。


《……失敗したら一生恨むからね!》


 手形を振りかざそうとした瞬間、今度は千明が叫んだ。


「待って! ここに竹が出てる! やっぱりここ、井戸に間違い無いよ」


 はい? 竹?


 この子は何を言ってるの?


 よく見ると確かに、竹が一本、地面から突き出ている。


《こ、これが井戸って言うの?》

「息抜きよ。もともと井戸があった証拠。井戸は埋めちゃうと縁起が悪いから、埋める時に完全に塞がないようにこうやって空気の流れを残すのよ。昔からある風習よ」


 そうなの? なんでそんなこと知ってるの?


 てか、それって井戸埋めちゃったってことよね。


《じゃ、井戸は無いってこと? それじゃ帰れないじゃん。埋めたら縁起悪いの? そんな縁起悪いところで手形振りかざしたら、また地獄の扉が出てくるんじゃないの?》


「だから息抜きしてるの。大丈夫よ」

なにその息抜きって風習に対する信頼度。竹、ぶっ刺してるだけでしょ。それにもし大丈夫だったとしてもこんな細いところ、通って帰れるの?


「おい、何してる! 時間ないぞ!」


 いやわかってるわよ。


 でも、怖いじゃない、さっきみたいなの出てきたら……。


「早くしろって! お前が行かないと、オレが天国行けねえだろ。そしたら千明も守れねえ」


 なんちゃうタイミングで告白するのよ。


 目の前でそんな事言われたら……、もう腹括るしかないじゃない。


《わかったわよ、他人事だと思って。ホントに大丈夫よね?》


「いいからやれ」


 やるしかない。


 ええい、ままよ!


 ばかタダクニぃぃいいい!!!


 ぼくは手形を突き出した。


 竹の周りが鏡に反射するようにキラキラと光る。


 次の瞬間、辺りが暗さが増し、また雲が月を隠した。


 怪しい風も吹き出す。


 そして竹に吸い込まれるどころか、魔法のランプのように竹の先から何かが飛び出してきた。


 ひぃぃ。

 さっきと同じだ。

 ぼくは怖くなって思わず目を閉じた。


「ヤナギさん、見ろ。ドアだ」


 ドア?


 恐る恐る目を開けると、竹から薄い靄のような物が立ち籠めていて、その中央にピンクのドアが浮かんでいる。


 こ、これは……!?


「やった、ヤナギさん! 今度こそ成功よ」


《う、うん、今何時?》


「九時三分」


《やだ。もう時間がない。早速だけど、い、行くわね!》


「もう帰ってくんなよ」


《言われなくても! ……向こうで待ってる。天国坂、忘れないでよ》


「ニコニコだろ? 覚えてるよ」


「お幸せにね!」


《それはこっちのセリフ。残りの人生、精一杯楽しんできてね》


「了解!」


 二人の声がハモった。


《もう別れるとかバカなことやめなさいよ》


 二人が顔を見合って、


「……了解!」


 照れたように笑いあった。


 あ、お寺のこと。また言えなかった。


《二人に言っときたいことがあるの》


「なに?」


《あなた達、子供の頃、お寺で――》


 その途端、ふいに突風が吹き荒れ、周りの木々が大きく揺れた。


 二人もあまりの強風によろけている。


「何なの、この風」


「九時四分だ。早く行け! 時間切れになるぞ!」


 タダクニくんがスマホの時計を見せながら叫んだ。


《大事なことなの……》


「いいから! 地縛霊になっちまうぞ! 行け!」


 風が更に強くなった。


 まるで嵐のような強風を受け、二人はその場に踏ん張りながら立ち続けている。


「なんかおかしい。早くしろって!」


「ヤナギさん。わたし達は大丈夫だから行って!」


 最後まで迷惑ばっかでごめんね。


《ありがとう。二人のことは絶対忘れない》


 ぼくは意を徹して二人に背を向けた。


 そして、ドアを開ける。


 眩しいほどの明るい光が飛び込んできて、目を開けていられない。


 身体全体が何かに強く引っ張られるような感覚に襲われ、そのままぼくは光の中に吸い込まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ