8.学芸会だとしても、の話(後半)
「……バカみたい」
受け取る千明の目は、潤んでいる。
やめてよ。この子にも効いてるじゃない。
《お前らバカか。やめたやめた、アホらしい。ドラマ見せられてるんじゃねえんだ。一生やってろ、気持ち悪い》
バカはあんたも含めて、よ。
こんな学芸会が成り立つなんて。
しかもけっこうダメージ受けてるみたいだし。
顔色の青白さが増して、覇気も消えてる。
心なしか影まで薄くなったみたい。
……違う!
なんかホントに消えかかってない?
《俺はそういう嘘臭いその場しのぎの言葉とか人間関係が好きじゃねえんだ。俺はもっと真面目に、真剣に――》
《ちょっとあんた。喋ってるとこ悪いけど、消えかかってるわよ》
《はん?》
《だから、消えかかってるわよ》
《消えかかってるって何がだよ》
《あんた自身よ。手をかざしてみなさいよ》
ぼくは右手を電気にかざす仕草をしてみせた。
《かざすって……》
ストーカーが同じように手をかざす。
《何これ?》
《透けてるでしょ》
《だから、何なんだよ、これ》
《戻るのよ、あの世に。前のぼくもそうだった。やること終えたら、気持ちの整理が済んだら、戻っていくのよ》
《ば、バカやろ。俺はまだ納得してないぞ》
《したのよ。口ではそう言っても、内心では納得したのよ》
《俺は認めんぞ。千明と一緒になる。イカルミも地獄へ落とす。そして、お前は何者なん――》
消えちゃった。
「喋ってる途中で消えちゃったけど???」
千明ちゃんも目を丸くしている。
「成仏していったってことだろ、きっと」
「でもどうして……」
《納得したのよ》
「納得?」
《そう。二人のやり取りをみて、自分の立場を理解したっていうか踏ん切りがついたのよ、きっと。タダクニくんの臭いセリフには笑いそうになっちゃったけど、結果オーライね。成仏していったのよ、彼》
「臭いってなんだよ。オレは真剣に言ったんだ」
《わかってるわよ。だから、彼にも響いたのよ》
「じゃぁ、解決したってこと? 天国行っても、付きまとわれたりしないってこと?」
《おそらく、ね。でも、もしそうじゃなかったとしても、タダクニくんが守ってくれるわよ。男に二言は無いでしょ》
腕組みをしながら、タダクニは大袈裟に何度も頷いた。
もういいわよ。いつまでやってんのよ、その芝居じみた立ち振る舞い。
「とりあえず解決ってことだよな、よかった。てか、ヤナギさんは一緒に帰らないんだな」
《そうよね、連れてきたから、てっきり一緒に戻るもんだと思ってたのに残されちゃった。でも大丈夫。今回は抜かりないわよ。帰る方法をちゃんと教えてもらってきたんだから》
「帰る方法? そんなのがあるの」
「ビックリでしょ、千明ちゃん。でもね、ホントなの。これがあるのよ」
「そんなのがあるなら、前もそれで戻ればよかったのに」
《それができたら、苦労しないわよ。それに成仏する前に戻っても意味ないじゃない。そしたらこんな原稿用紙を何百枚と書かずにすぐ終わっちゃう》
「原稿用紙……?」
「あ、ごめん。今のは気にしないで。ところで、今、何時?」
「え。八時五十分」
千明は部屋の時計を指差した。
てことは、あと三十分も残ってる。余裕じゃない。
なんて優しいの、作者さん。
『ギリギリで間に合わなそうな展開からの滑り込みセーフ』ってドタバタ劇を予想してたのに。
ちょっとだけ拍子抜け。
んだと、ゴラぁ。
作者にケンカ売っとんのか!
よーし、わかった。
そんなこと言うなら、その望み、叶えてやるわい。
その挑発、受けたろーやないかい。
後悔して後で泣きべそ掻いても知らんからな。
ぬはははは!




