6.ゲームオーバー?、の話
ガミさんにはすぐに繋がった。
タダクニの予想した通り、署内では〝ガミさん〟で通っているらしく、これまた想定内というか最初電話に出た人から「何か苦情ですか」と心配されていた。
クレームではないことを丁寧に伝え、ガミさんに繋げてもらった。
『おう、兄ちゃん。どうした。月島カレンから何か新しい情報聞いたのか?』
オンフックにしたスマホから、あのしわがれた声が聞こえてきた。
間違いない、ガミさんだ。
よし。第一段階にして最大の難関をクリアよ。
署内の人と会話ができれば、何とかなるわ。
ガミさんと知り合いだったこと、同じ新宿署だったこと。
偶然がうまくハマった。
いい流れだ、運がいい。こういう流れは続くものよ。
タダクニくん、この勢いで上手いこと暴力刑事まで繋げてよ。
「そのことじゃなくて。別件なんですけど」
『別件? なんだ結局、オカマの成仏に間に合わなかったのか? オレにはどうすることもできんぞ』
「それでもなくて――」
タダクニが今ある状況を手短に伝えていく。
ヤナギさんが戻ってきたこと。
ストーカーを連れてきたこと。
それは千明のストーカーであること。
通り魔事件のこと。
ストーカーは取り調べで暴行を受けていたこと。
それを苦に自殺したこと。
そのせいで自分が地獄へ落とされそうなこと――。
『相変わらずややこいことやってんな、兄ちゃん達。観念して、一回地獄へ行ってみたらどうだ。そんで、どんな所だったか教えてくれよ』
「あの、すみません。冗談言ってる場合じゃなくて……。そのストーカーがいたのが新宿署っぽいんですけど、何か知りませんか」
『なんだよ、ノリ悪いな。ツマんねえ。だが、そういうことか。なんだか上の連中が署内でバタバタしてると思ったら。で、どうしろってんだ』
「その取り調べをした刑事に謝ってもらいたいんです。で、暴行事件として罪を償ってもらいたいんです」
『なるほどな。で、その刑事ってのは誰よ?』
それは……。
ぼく達は三人揃ってバンダナ男を一瞥したが、相変わらず誰とも目を合わせようとしない。
「わからないんです」
『取り調べを受けた本人がそこにいるんだろ? 訊きゃいいじゃねえか』
「教えくれないんです」
『なんだ、それ』
「でも調べれば、だいたいわかりますよね? 同じ署内のことですし」
『まぁ、わかるかもな』
「じゃぁ、連れてきてください」
『そりゃ、無理だろ。今頃そいつはどっかの部屋に拘束されてるさ』
「そこをなんとか。せめて電話だけでもできませんか」
『無理だっつてんだろ。それに署内の雰囲気からして、今は揉み消しに動いてる真っ最中だ。そのうち何もなかったように落ち着くさ』
「落ち着いちゃったらダメなんです」
『それが組織ってもんだ』
「組織って警察でしょ!? 困ってるのよ、何とかしてよ!」
『お、その声はあの姉ちゃんだな。お前ら、勘違いするなよ。警察ってのは正義の味方じゃねえぞ。単なる会社だ。それも公的な。民間の会社よりルールや手続きにはうるさい。被害届があって、初めて動く。事件があって、捜査する。何も無きゃ動かんよ。警察ってのは世間の想像以上に規律通りに動いてんだ。テレビみたいに熱い思いに動かされて勘や嗅覚で捜査していく、なんてのは現実にはあり得ねえ。そもそもそんな暇じゃねえしな』
二枚舌よ。
この半グレ刑事が規律を守ってるわけがない。
結局は面倒なだけなんでしょ。
てか、雲行きがマズい。
なんとか盛り返してよ、タダクニくん。
「人が死んだのよ。立派な事件じゃない」
ぼくの思いが通じたのか、千明ちゃんが食い下がる。
『事件になってねえんだよ。そしてこの先も事件にはならない。事故になるように動いてるはずだ。組織を守るために。今までもそうだったように。それが公的機関、警察だ。オレ達に組織をぶっ潰してまで、理想を貫こうなんて、そこまでの正義感は無い』
最っ低……。
正義感が無いなんて公言する警察いる?
こいつ、いったいどういうつもりで警察になろうとしたのよ。
『ただまぁ、正義感は無いが……恩義はあるか。一応、知り合いの記者には伝えといてやる。面白かったら、来月くらいに週刊誌に載るだろう。できるのはその程度だ』
「来月って、それじゃ遅すぎる」
『無理なものは無理だ。忙しいから切るぞ』
「あっ、ちょっ――」
ツーツーという音が虚しく部屋に流れる。
え。切れちゃった。
《ちょ、何やってんのよ、タダクニくん。切れちゃったじゃない》
「わかってるよ。ちょ、もう一回掛ける」
しかし今度は、少し会話すると、舌打ちしながらスマホを耳元から外した。
「ダメだ。繋げてもらえない」
あのハゲヤクザ。
居留守使いやがった。
え。じゃ終わり? 他に手は? いや、もう無いわよ。どうするの?
《クックック……残念でした》
見るとバンダナ男がニヤけている。
《な、何言ってるの。知り合いの記者に伝えるって言ってたじゃない。来週には週刊誌に出るのよ。そうすれば、再びあなたは有名人。それじゃ……ダメ?》
《いいわけねえだろ》
ですよねぇ~。
どうする?
ぼく達三人はそれぞれ顔を見合わせたが、すぐに各々視線を落とした。
そして流れる沈黙。
その状況を楽しむように、
《万策尽きた。ゲームオーバーだな》
バンダナ男が僕らを嘲笑う。
時間は?
――八時四十五分。
あと三十五分。
なんとかしなきゃ。




