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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第七章 天罰覿面ってヤツよね

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5.いきなり手詰まり感、の話(後半)

 何もできないなんて。バンダナ男もほくそ笑んでいる。やるせない。無力という薄い膜が背中から身体全体を包み込み、それがどんどん厚みを増していき、押しつぶされそうになってくる。

 だめよ、弱気になったら。しっかりしなさい、透!



 ――やれること、必死でやったんだろ?



 カントリーロードでの父親の顔が脳裏を過ぎった。

 まだやり切ってない。

 きっと何かあるはず。


 

 父親に続いて母親、ゲイバーの仲間達の顔が次々と浮かんできた。


 続いてお寺の住職、閻魔様、カレンちゃん、夏目くん、ヤクザな刑事二人組、キレたシンママ相良……。


 なんなの、走馬燈みたいに。


 てか、死んでから走馬燈とか順番がおかし――違う、そこじゃない、ツッコむところは。


 もう少し前。


 頭の片隅に何かが引っ掛かった。



 電話……イケるかもしれない。



《タダクニくん。やっぱり電話してみよう》


「は? 今、自分で否定ばっかじゃねえかよ」


《いや、何気にイケるかも、って思ったの》


「でも新宿署に掛けても、さっきヤナギさんが言ったように暴行した刑事になんて繋げてもらえないでしょ」


《繋げてもらう必要はないのよ》


「どういうこと?」


《いるじゃない。とっておきのが》


「とっておき?」


《そう。あの、ヤクザ刑事、ガミさんよ》


「あの二人!?」


《あの人達、新宿署って言ってたのよ》


「言ってたっけ、そんなの全然覚えてないけど」


《言ってたわよ。ぼく、そういうの覚えるの得意なのよ。職業病》


「なるほど。あの人達だったら話できるかもしれないな。何かあったら連絡してこいって言ってたし。掛けてみるか」



 タダクニがリダイヤル画面から通話ボタンを押そうするが、再び指を止めた。


《どうしたの?》


「いや、名前何だっけと思って」


「だから、ガミさんでしょ。あと一人は……何だっけ」


《ケージよ》


「その、ガミさんかケージさんいますか? なんて言えないだろ」


 確かに。それもそうね。

 名刺なんてもらってないし。


 ガミさんって、どっからきたあだ名よ。

 神山? 上沼? 山上? 候補があり過ぎて絞れない。


 どうしてアベちゃんじゃないのよ。

 世の中の阿部君はみんなアベちゃん一択なのに、ガミさんじゃ苗字わからないわよ。


 せめてケージのほうは苗字で呼んでてよ。

 警察に電話して「ケージさんいますか」なんてマヌケ過ぎる。「刑事しかいない」わよ。


 でもだからと言って、このまま悩んでいても仕方ない。


《とりあえず一か八か、トライしてみるしかないんじゃない? そうしないと始まらないわよ》


「ちょっと何それ。急に投げやりにしないでよ。とりあえずトライだなんて、カテキョのCMじゃないのよ。無責任なこと言わないでくれる、バカ。わたし達の運命が懸かってるって言ってたじゃない」



 千明ちゃんから射るような鋭い視線が向けられる。


 言葉遣いも荒くなってる。


 相当苛立ってる証拠よね。



《ごめん、言い方が悪かったわ。そんなつもりじゃないの。謝る。でも今あるカードはあの刑事達だけなのは間違いないわ。そして、あの人達に繋がる唯一の方法は、新宿署に掛けるしかないのよ》



 二人は俯いたまま黙ってしまった。


 他に方法が無いか探っているのかもしれない。


 あるいは、電話するしかない現実に対して、色んな方向から自分に言い聞かせているのかも。


 そりゃ、答えなんて出ないわよね。


 悩むわよね。


 わかるわ。


 でもね、早くして。ホント時間がないのよ。


 できることならタダクニくんの右手のスマホを奪い取ってぼくがすぐにでも掛けてやりたい。


 でもそれはできない。


 物に触れない自分がもどかしく、悔しさも込み上げてくる。



「わかった、やってみよう」


 意を決した表情のタダクニがもう一度指を動かし、暗くなったスマホ画面を起動した。


「何て言うの」千明の問いにタダクニは、


「そのまま言うだけだよ。ガミさんとケージって。あんなに普通に呼び合ってたんだ。署内でもあの呼び方で通ってるかもしれないし」


 確かにそれは言える。


 少なくとも、あの風体とあだ名を掛け合わせれば、二人に行きつく可能性は十分にある。


「……任せる」


 千明ちゃんも腹を括ったみたい。


 それに呼応するようにタダクニくんは軽く頷き、スマホの通話ボタンを押した。


 

 時間は?


 ――八時三十五分。


 あと四十五分。

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