4.ただいま、の話
「じゃぁ、やっぱり気持ちは変わらないってこと?」
「うん。少なくとも距離は置いたほうがいいと思ってる。今のわたし達じゃ、うまくいかないよ。一度離れて独りになって、ゆっくり考えたいの」
「考えて、いい方向へ答え出るかな?」
「それはわからないけど、独りにならなきゃできないこともあると思う。とにかく色々あり過ぎて疲れちゃった。少し頭の中を整理したいの」
「じゃぁ……お別れ、ですかね」
「……そう……なるかな」
ちょちょちょ、ちょっと!
めっちゃ別れ話してるじゃない。
《あんた達! 何バカなこと言ってんの。別れちゃダメよ》
「ぎぇぁ……ッ!? ヤナギさんッ!!?」
タダクニと千明は同時に奇声のような声を上げた。
そりゃ当然こういう反応になる。
「なんで? なんで戻ってきたのさ?」
「成仏したんじゃなかったの?」
《ふふふ。ただいま~、お二人さん》
とりあえず手を振ってみた。
もう千明ちゃんにもぼくが見えてるみたいね。
「ムリムリムリムリムリ! もうムリよ。これ以上、わたし、何もできないわよ」
「成仏できなかったのか?」
《ううん、成仏はできたんだけどね》
「じゃ、なんで戻ってくんだよ。大人しく天国行っとけよ」
《なに、その言い方。誰のために戻ってきたと思ってるのよ。感謝されてもいいくらいなのに》
「どういうことだよ?」
「ていうか、タダクニ。なんか、一人増えてない?」
《あぁ、この人ね。紹介するほどでもないんだけどね。ギャラリーみたいなものよ。ぼくのやること見届けたら、満足して帰る予定なんだけど》
「だから何しに来たんだよ」
《あ、その前に今何時?》
枕元の目覚まし時計は、夜の八時二十分を指している。
こっから一時間ね。
よーい、スタート。
《面倒なことが起きてるのよ》
「何だよ、面倒って。やっぱり天国へ行けなかったのかよ」
《ううん、違う。ぼくは大丈夫。成仏できたから天国へちゃんと行ける。問題はあなた達二人よ。ちょっと困ったことになったわよ》
「困ったことって何だよ。ハッキリ言え……」
タダクニが途中で言葉を切った。
その視線はバンダナ男に向けられている。
「その人、どっかで見たこと……」
それまで大人しくしていたバンダナ男だったが、タダクニへ不敵に笑みを返した。
「あっ! あの時の……?」
《そう。あの時の通り魔よ。そしてストーカーでもあるわ》
「ストーカー?」
《そう。ホントにいたのよ。千明ちゃんのストーカー》
タダクニの表情がみるみるうちにこわばっていく。
説明しなくても理解したみたいね。
「……んなことあるかよ。せっかくヤナギさんを成仏させたってのに……」
「どういうこと?」
うろたえるタダクニを見て、千明が説明を求めた。
「こいつは千明のストーカーだ。なんで死んだのかは知らないけど、今度はこいつがオレ達を地獄へ落とす契約をしたってことだろ」
《さすがタダクニくん。飲み込みが早いわね。でも今のは半分正解。残りの半分は不正解。地獄に落ちるのはタダクニくん、あなただけよ》
「オレだ……け?」
「えっ?」
千明ちゃんからも小さな声が漏れた。
頬が一瞬緩んだように見えたのは気のせいかしら。
《千明ちゃんも喜んでられないわよ。千明ちゃんが天国行っても、このストーカーが付いてくるのよ》
「付いてくるってどういうこと?」
《そのままよ。タダクニくんのいない天国で、千明ちゃんに付きまとうのよ》
今度は千明の表情がみるみる戦慄をおびていく。
千明ちゃんも状況を理解したみたいね。
「イヤよ、気持ち悪い」
《だからぼくが戻ってきたんじゃない》
「どうしたらいいんだよ」
《少なくとも二人は仲直りしなさいよ。二人が別れちゃったら、このストーカーの思うつぼじゃない。なのに、なに、別れ話してんのよ》
「別れなければいいの?」
「わ、わかった。オレ達別れない。仲直りしたぞ! なあ、千明」
「え、ええ。別れるなんて、じ、冗談に決まってるじゃない」
「末永く二人で幸せになるぞ!」
「なりましょう!」
「これからもよろしくな」
「こちらこそよろしくね」
「オレは家庭を持ったら、野球チームが作れるくらいの大家族が、い、いいなぁ」
「そ、それは賑やかで楽しそうねえ」
何をやってんの、この二人は……。
それで取り繕ってるつもり?
二人揃ってムカつくくらい大根役者じゃない。
《あんた達、バカにしてんの? 感情が全く入ってない、明らかに口だけじゃない。歯が浮くどころか、飛んでっちゃうわよ。デビュー初日のキャバ嬢だって、もう少しマシな演技するってものよ。もっとマジメにやりなさいよ》
「マジメにってなによ。じゃ、どうすればいいのよ」
《二人の運命が懸かってるのよ。ちゃんと仲直りしなさいよ。ていうか、まあいいわ。時間無いから、本題に行くわよ》
「本題?」
《そう、本題。このバンダナ君はね、取り調べで暴行を受けてたのよ》
ぼくはバンダナ男の顛末について、掻い摘んで説明した。




