3.友のために、の話(後半)
「え? 戻る? もう一秒もありませんよ」
《それはこっちの時間軸でしょ。向こうの世界だとどれだけなの》
「一時間です」
い、一時間……?
たったのそれだけ?
もたもたしてられないじゃない。
《わかった。行ってくる。ほら、あんたも行くのよ、バンダナ》
「ち、ちょっと落ち着きなさい、ヤナギトオル! 一時間で戻れなかったら、どうなるかわかってるんですか」
《戻ってくれば問題ないんでしょ? 大事なことなのよ、行かせて》
「あなたね、全然わかってない。戻れなかったら地縛霊になるんですよ。天国は当然ですけど、地獄でも何千年、何万年かかったとしても終わりがあるんです。つまり生まれ変わりのチャンスがあるんです。でも地縛霊にはそれが無いんです。永遠に生まれ変わりはありません。時間に間に合わないってことは、そういうことなんです。あなたはもう天国行きが決まってるんです。幸せを摑んだんです。このまま天国へ行くべきです」
《うるさいわね! このまま放って、自分だけ天国行っても、気持ちが悪いのよ。幸せを摑んだんなら、その幸せ、独り占めにしないで分けてあげるわ。そのためにちょっとくらいリスクを負っても仕方がないのよ。あんたもモタモタしない! 行くわよ!》
ぼくはバンダナ男の腕を掴んだ。
と同時に、強面もぼくの腕を掴んできた。
《ちょっと、放してよ! どうあっても行かせないつもり?》
「そこまで言うなら行ってもいいですよ。ただね、どうやって戻ってくるつもりですか」
どうって……。たしかにそうだけど。
「これ! 持って行きなさい」
そう言うと、強面は木製の御札を突き出した。
これは……?
「手形です、往来手形。これがあればこちらの世界と元の世界を往来できます。あと、これも」
今度は何?
「霊道地図です。わかり易く言えば、こちらと繋がっている場所が載っている地図です」
《繋がってる場所?》
「幽霊の通り道とか聞いたことあるでしょ。あのことです」
たしかに心霊番組で、そんなことを霊媒師が言っているのを見たことがある。
あんなのホントに実在するんだ。
「霊道に入る時、その手形を使えば戻ってこれます」
《……ありがと。恩に着るわ。でも、急にどうして協力を?》
「私はね、皆さんの往き先を管理しているんです。天国行きの人が勝手に減ったら困るんですよ。だから、これだけは約束してください。何をするのかは聞きませんが、それが成功しようがしまいが、必ず一時間以内に戻ってきてください」
強面の熱い眼力に気圧されそうになる。
《り、了解。わかった、約束する!》
ぼくはバンダナの腕を引っ張って「行くわよ!」ピンクのドアへ走り出した。




