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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第七章 天罰覿面ってヤツよね

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3.友のために、の話(前半)

 ボディブローのように効いてるはずよ。


 あと少し、何かない?


 ふいにカレンちゃんと夏目くんが浮かんできた。


 あんた達は今、関係ないのよ。お願い、どっか行ってて。



《ぼくが見てきた限り、強い人は同時に優しさも持っているわ。あなたは、自分の優しさにも気がついていないのよ。たとえば、カレーよ。カレーはなぜ二日目が美味しいのか、あなた知ってる? 具から旨味が溶け出すから? それとも具に味が染み込むから? そのどっちでも無いわ。煮崩れするからよ。他の具材とぶつかり合った具は、角が取れて丸みを帯びていく。崩れ落ちた具がとろみとなって、カレーにコクを出すの。人生も同じなのよ。目の前のことにぶつかっていくのよ。怖くても自信が無くても、自分から動いていくのよ。自分が動くと、周りの空気が揺れる。それを続けていると、揺れた空気がいつか風になる。風は追い風となって、あなたの人生を後押ししていくわ。もちろん風は、時に逆風になることもある。突風になることだってあるわ。微風ばかりが続くようなら、刺激を与えることも必要ね。カレーで言えば味変てとこかな。ソースをかけたり、醤油をかけたり。それこそ人生のスパイスになるわ。とにかく、色んな風を起こすことで人生に深みが出てくるのよ。強さと優しさを持ったあなたなら、きっとできたはずよ。そうすればステキなパートナーとも必ず巡り合えたはずよ。生まれ変わって次こそ、やるのよ。だから、こんな八つ当たりみたいなことはやめなさい。タダクニくんを地獄に落としても、あなたは何ひとつ変わらないのよ。それに何より、この事実を千明ちゃんが知ったら、あなたをきっと許さないわよ》



「もういいかい?」


 振り向くと強面が呆れた表情を向けている。



《ちょっと待ちなさいよ、あんたも! あと少しだけ》


 バンダナ男は相変わらずふて腐れた態度のままだ。


《あんたもちょっと聞いてるの!? さっきから俯いてばっかで。せっかく死んだのよ? 今までのことうじうじ引きずっててもしょうがないでしょ。そもそもあの二人の間にあんたがつけ入る隙なんて無いのよ。そんなことより前を見なさいよ、前を。自分の代わりに他人を地獄に落とすなんて、そんなカッコ悪いことはやめなさい。今ならまだ戻れる。生まれ変わった時のことを考えましょう。他人を地獄なんかに落としたら、来世はきっと虫以下よ。パートナーとか愛とか恋とか言ってられないわよ。いい? 目の前の事実にはちゃんと向き合わなきゃダメなの。それが地獄だというのなら、受け入れて全うすべきよ。他人になすりつけるべきじゃない。わかった? わかったら、タダクニくんのことはそっとしといてあげて》


「時間ですよ、もうあっちへ行って。本当に天国行きがなくなりますよ」


 強面がぼくとバンダナ男を強引に引き離す。



《わかったわよ。行くわよ、行く。行きゃいいんでしょ!? あんた! 自分のことは自分でカタつけるのよ。わかったわね!!?》


 強面に連れて行かれるバンダナ男が、顔半分だけをこちらに向けたように見えた。


 仏頂面の口の端が、少しだけ上がったように感じたのは気のせいかしら?


 それが何を意味してるのかわからない。


 わからないけど、あとは彼の性根を信じるしかないわ。


 ぼくは改めて、水色のドアに向かって歩き出した。



「それでは仕切り直しです。あなたの猶予は……」


 強面とストーカーのやり取りが後ろから聞こえてくる。



 まさかぼくが他人のためにこんなに熱くなるなんて。


 タダクニくん!


 これは大きな大きな借りよ。


 天国で再開したら、うんと恩着せがましく話してやるんだから。


 ったく、世話が焼ける。


 それまで先に行って待ってるからね!



《猶予とかそんなのどうだっていい。イカルミタダクニを地獄へ落としてくれ》



 ッ!!?



 ちょっと、なんにもわかってないじゃない!


 あいつ!


 ぼくは再び踵を返して、二人のもとへすっ飛んでいった。



《おい、このわからず屋! 人の話聞いてたの!? どうしたらそういう思考になっちゃうわけ。ていうか、あんたの未練は何なのよ!? 千明ちゃんと付き合えなかったこと? そもそも死んだ理由は何なのよ?》


《俺は自殺したんだ。バカな警察に復讐するために》


《自殺? 復讐?》


《事件の取り調べの間、殴られたり蹴られたり、人を小馬鹿にしたように扱いやがって、あのクソ刑事。耐えられなくなって、俺は自殺した。今頃、あのバカ刑事は、俺が死んじまって慌ててるだろうな。いい気味だ》


《じゃ、タダクニくん、全然関係無いじゃない》


《は? 何言ってんだ。そもそも俺があんな事件起こしたのは、千明と俺の仲をイカルミが邪魔してるからだろ。取り調べであんな目に遭ったのも、元を辿れば全てはイカルミに原因があるんじゃねえか》



 どういう思考回路してんのよ。完全な逆恨みじゃない。



《その刑事に謝ってもらえばいいんじゃなの? それか罰を受けさせるか》


《まぁそれでもいいけどな。でもそんな面倒臭ぇことするより、イカルミを地獄に落として、俺が天国行ったほうが手っ取り早いし一石二鳥だろ》



 何が一石二鳥なのよ。自分勝手すぎるわよ。



《わかった。その刑事にちゃんと謝ってもらう。で、罪を償ってもらう。そうすれば文句ないでしょ?》


《今さら、どうやってそんなことさせんだよ? 俺はそんな面倒臭ぇことご免だぞ》


《ぼくがやる。戻って、その刑事に罰を受けさせる。そうすれば納得でしょ? 成仏もできるでしょ? だからタダクニくんのことは諦めて》


《ふん。できるならな。約束してやるよ》



 バンダナ男が小馬鹿にしたように笑う。


 できっこないって顔ね。


 まぁいいわ、見てなさい。


《仏さん、ぼくの残り時間はあとどれだけあるの》


 たしか一日前倒しでこっちに戻ってきたから、まだ時間はあるはずよ。



「え? 戻る? もう一秒もありませんよ」


《それはこっちの時間軸でしょ。向こうの世界だとどれだけなの》



「一時間です」



 い、一時間……?


 たったのそれだけ?

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