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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第七章 天罰覿面ってヤツよね

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2.それはいわゆるストーカー、の話

《イカルミは邪魔なんだよ。殺し損ねたしよぉ。地獄に行きゃいいんだよ。天国に行くのは俺と千明だけでいい。俺達は天国で一緒になるんだ》


 あらららら。


 絵に描いたように見事なストーカーじゃない。


 ていうか〝千明〟って呼び捨てにしてるんだ。気持ち悪い。


 相当、イッちゃってるわね。これは重症。


 こんなの説得できる?


 や、するしかない。じゃないと、タダクニくんは……。



《こんなことして千明ちゃんと一緒になれると本気で思ってるの?》


《俺達は運命で繋がってんだ。イカルミさえいなければ、千明も俺の愛に気づくさ》


《千明ちゃんが喜ぶと思ってるの? 彼女がこの事実を知ったら、あなたを許さないと思うわよ?》


《大丈夫だ。千明ならわかってくれる》


 すごい信頼。恋は盲目とは、まさにこのことね。


《言っとくけど、千明ちゃんだって天国行くかわからないわよ。彼女とは色々あったけど、真剣な話をしてる時に『許してちょんまげ』とか言い出すようなふざけた子よ?》


《やっぱりかわいいな。それに彼女は天国に行く。あんなに素敵な笑顔の人が天国に行かないわけがない》


 プラトニックにもほどがあるわ。


 この人、今まで異性と付き合ったこと無いんじゃないかしら。


《あなた、ちなみに千明ちゃんとはどんな関係なの?》


《今はまだ客と店員だ》


《ちょっと待って。まさか、まともに会話したことも無いとか?》


《今はまだない。そういうのはもう少し段階を踏んでからだ》


 段階って何よ?


 客と店員に、それ以上の段階なんてありゃしないわよ。


 しかも「今はまだ」って死んでんだからこれ以上の進展なんて何も無いわよ。



《でも千明は俺にいつも特別な笑顔を見せてくれていたからな。俺に気があるのは間違いない》


 それは単なる営業スマイルでしょ。


 結局、何の接点も無い、遠くから見てただけってことじゃない。



《それじゃ千明ちゃんはあなたの名前すら知らないってこと? それで一緒になれると思ってるの?》


《だから俺達の関係はこれからどんどん深くなるんだよ。彼女はバカだから俺への愛にまだ気づいてないんだ。それを天国でゆっくり気づかせてやって、俺達は天国で永遠に結ばれるんだよ! その時にあのイカルミがいたら邪魔なんだ!》


 語気が荒くなった。


 動揺してる証拠ね。ここで退いちゃダメよ。


《ごめんね。冷静に、客観的に考えると、彼女の笑顔ってのは、店員が客に愛想を振りまいたってだけのことでしょ? そんなの至極当たり前の話よ。そこに特別な愛情なんて無いわよ》


《う、うるさい。俺と千明のことだ。お前にわかっかよ! 俺達は一緒になる運命に決まってんだ!》

 バンダナ男が殺気を孕んだ目つきをぶつけてくる。これは威嚇じゃない。受け入れたくない事実を突きつけられてることへの抵抗だ。


 さあ、ここからが勝負よ。


 お店でも酔って暴れたお客さんをなだめてる時にたまに出る反応だ。

 

 彼らは決まって自分の非には気づいている。気づいているけど、振り上げた拳をどう下ろしたらいいのかわからなくなっているだけだ。


 今回もそれと同じ。


 こんな時は、そう、認めてあげればいい。


 承認欲求を満たしてあげる。


 水商売の鉄則よ。


《きっとあなたは、曲がったことが嫌いなんでしょうね。嘘が嫌いで、適当に相槌打ったり、心にも無いことを言ったりするのが許せない、強い心の持ち主なんでしょうね。でもね、皆がみんな、あなたのように強い心の持ち主とは限らないのよ。ううん。ほとんどの人は、その逆。弱いの。だからやりたくないことも、汚いことも、間違っていると気づいていてもその気持ちには蓋をして、愛想笑いもするし、繕う。そこに罪悪感はあるけど、それが生きる術なのよ。ホントはそんなことしたくない。惨めな罪悪感なんか心の奥に押し込んだりしないで、もっと素直に生きたい。でもどうすることもできないの。そうしないと生きていけないから。みんな、あなたほど強くないのよ》


《……俺が強い? 何わけわからんこと言ってんだ。俺のこと何も知らんくせに》


《知らないわよ。でもわかるの、ぼくには。今まで色んな人を見てきたから。ぼくは男として生きて、女としても生きてきた。人より倍の人生を、苦しんで藻掻いて、濃密な時間を過ごしてきたぼくだからわかるの。断言する! あなたは強いわ》


《……意味わかんねえ。バカじゃねえの》


 バンダナ男が視線を逸らし、吐き捨てるように呟く。


 よし、揺らいでる。あと少し。


《あなたは強いから目の前のことを運命だと感じ取ってしまうのよ。でもね、よく考えてみて。運命ってそういうものかな? 目の前に現れるものじゃないと思う。自分でたぐり寄せるものなんじゃない? 気がついたら目の前にそういうレールが敷かれていた、なんてものじゃないと思う。運命と宿命は違うのよ。運命は自ら動いて、時には傷ついたりしてレールを敷いていくのよ。あたなは一度でもぶつかってみた? まだそのタイミングじゃないって自分に言い訳して保留してきたんでしょ? それじゃダメだったのよ。強いあなたなら、そこを乗り越えることはできたはずなのよ》


 無反応だ。眉毛を曲げて、地面をただじっと睨みつけている。


 もう一押しよ。


 ひねり出して、ぼく!

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