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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第七章 天罰覿面ってヤツよね

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1.五十海は珍しい名字、の話

「はい、じゃ、次の方どうぞ」




 やっと順番が回ってきた。


 まさか成仏してからもここに並ぶとは思ってもみなかったわ。


 しかも相変わらず左右に連なる列の数。これで世界は人口が増えてるって言うんだから、不思議。


 ぼくは二週間前を思い出しながら、今度は軽く手を振って強面の仏様の前へ出た。




《お久しぶり》


「おや。その顔はうまくいったみたいですね」


 ぼくは親指を立てて、ウィンクで返事をしてみせた。


「念のため、見ますね」


 そう言って強面は、手元の台帳をめくり始める。


「ええと……大丈夫みたいですね。おめでとうございます。では、あちらの水色のドアへ向かってください」


《あれって……》


「天国ですよ」


 やった。ついにやったのね。


 タダクニくんと千明ちゃんに力を借りながら、ついに成仏をもぎ取ったのね。




 ぼくは文字通り天にも昇る足取りで、示された水色のドアへ向かった。


 スキップしたくなるところをグッと抑えながら、それでも鼻唄は止められない。


 え、何の曲かって?


 決まってるじゃない!?


 このタイミングで流れる曲って言ったらガンズ&ローゼスの『ノッキン・オン・ヘヴンスドア』しかないじゃない。




 ――ノンノン ノキオン ヘヴンスドォ~♪


 そうそう。あれこそがヘヴンスドアなのね。


 ――ノンノン ノキオン ヘヴンスドォ~♪


 そうそう。やっぱり紳士的にノックしてからドアを開けるのが礼儀よね。


 のっけから失礼な人だと思われたらヤだし。


 ――タダクニを地獄へ……


 そうそう。タダクニくんはやっぱり地獄へ落ちるべきなの……よ?


 え、なに? 空耳?




 ぼくは立ち止まった。


 ダダクニ? 今、そう聞こなかった?


 しかも地獄へ何とかこうとかって、いつかのぼくみたい。


 まるでデジャヴ。


 別人だろうけど、タダクニって名前、よっぽど運が無いのかしら。画数でも悪いんじゃない?




 タダクニくんの困った顔を思い出した。


 なんだかクスリと笑えてきて、ぼくは再び歩を進めた。




 ――自分の天国行きと引替えに、イカルミタダクニを地獄へ落としてくれ。




 ……ッ!!?




 聞き違いじゃない!


 あんな特殊な苗字の同姓同名、何人もいるわけない!!


 ぼくは踵を返して、さっきの強面のところへ引き返した。


 三十歳前後の暗そうな男が強面と会話している。頭にバンダナを巻いた目つきの悪い男だ。




《ちょっと、あんた!? タダクニくんに何しようとしてんのよ!!?》


「ちょ、ちょ、ちょ。ちょっと君! 君の番はもう終わったんですよ。早く向こうへ進んで」


 強面が、らしくなく慌てている。


 突然、割り込んできたのだから、当然と言えば当然だ。


《ちょっとだけよ。構わないでしょ!?》


「ヤナギトオル。天国行きがなくなりますよ?」


《そんな大袈裟な!》


「人の成仏を邪魔するのは大罪ですよ」


《それより大切なことがあるのよ! 少しだけ。少しでいいから、この人と話をさせて! この通り、お願い!》


 必死の訴えが通じたのか、「どうなっても知りませんよ」強面は呆れ顔で言い放った。


《ありがと! すぐに片付けるから。あんたはこっち来なさい》


 ぼくは怪訝顔のバンダナ男の腕を無理矢理引っ張った。




《は、放せよ! 何だお前、気持ち悪い、クソオカマが》


《あんたね、今の時代、それ、問題発言よ。SNSなら大炎上、間違え無しよ》


《うるせえ。てか、なんなんだよ! 誰だよ、お前!!?》


《ぼくは柳透。あなたが地獄へ落とそうとしている五十海タダクニの友人よ》


 バンダナ男の顔つきが変わった。


《んだよ……。こんなとこでも邪魔すんのかよ、あいつ》


 男が棘のある口調で吐き捨てる。


《ごめんね、友人としてはどうしても放っておけないの。あたな、タダクニくんを地獄へ落とすとか何とか言ってたわよね? 自分の天国行きと引替えにして》


《関係えねえだろ、お前に》


《関係大ありだから、こうやって話してるんじゃない》


 男が舌打ちをして地面を睨みつけている。蛇みたいな鋭い眼に背筋が冷えてくる。


《ちょっと待って。あなた、どっかで見たような……》


 この鋭い眼、見覚えがある。


《まさか……新宿の通り魔?》


《ほぉ~、よく知ってんな。まぁ、ニュースで写真とか出るか》


《違うわよ。あの場にぼくもいたのよ》


《そりゃ、偶然。そうなんだ。いたんだあの場に》


 男のゲスい笑みに、ゾゾゾっと寒気が走る。と同時にピンと来た。


《あなた……、千明ちゃんのストーカーでしょ?》


 男と目が合った。目が泳いでいる。


 ビンゴ!


 ホントにいたんだ、ストーカー。




 ていうか、新宿のあれは、通り魔なんかじゃなかったんだ。


 ハッキリとタダクニくんを狙っていたんだ。




 その彼がどうして今、ここにいるの?

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