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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第六章 決戦はカントリーロード

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8.さよならヤナギさん、の話

《見えてるの、千明ちゃん。ぼくのこと?》


 ヤナギさんの問いかけに千明が小刻みに頷く。




《やだーーー!!! やっと見えるようになったのね。じれったかったわ、今まで》


 駆け寄って抱き付こうとするヤナギさんを、千明はベッドの上でひらりとかわした。


《ちょっと。ここは普通、抱き合うシーンじゃないの? 別にホントに触れることはできないけどさ。でも感動のご対面よ? 避けるは無いでしょ。空気読みなさいよ》


「いや、抱き合うとか、無いし……。気持ち悪い」


《ウソでしょ!? 千明ちゃんまでそんなこと言うわけ? あんた達、似た者同士、性根が腐って発酵しまくってんじゃないの。ホント呪いがいがあるわ》


「こ、こんな口悪いの? ヤナギさんって。呪うってどういうこと?」


《あんた達が二人揃って気持ち悪いとか言うからでしょうが!?》


「成仏するんじゃなかったの?」


《するわよ、言われなくたって。明日まで待ちなさいよ……ったく。まあいいわ。あんた達のおかけで成仏できるのは事実だし、大目に見てあ・げ・る!》


 睨みながら嫌味っぽく言い放つ。




《……ありがとね、二人とも》


「なんだよ、急にかしこまって」


《ちゃんとお礼、言えてなかったから》


「呪うって言ったと思ったら、今度はお礼って。ヤナギさんって情緒不安定なの?」


《あんたね。ケンカ売ってんの!? ていうか、死人相手にケンカ売るなんて、たとえぼくが呪わなかったとしても罰が当たるわよ》


「え。そんなの困る。ごめんなさい。心から謝ります。だから許してちょんまげ」


《まあ、そこまで言うなら、わかったでござる。今回だけは許して差し上げよう、とはならないわよ。ちょっとタダクニくん。この子、バカにしすぎじゃない!?》


「え、どうして? 逆に笑って許せるかと思ったのに」


 千明が慌てて弁明する。


《許すわけないでしょ。ほんっとに、せっかくちゃんとお礼を言おうとしてるのに台無しよ。天然もここまでくると、怒る気にもならないわね》


「そんな……。ごめんなさい」


《いいわよ、天然なんだし。それに身体貸してもらって、頭上がらないし……。やめましょ、憎まれ口言い合うのは。もうお別れなんだし、仲良くしましょ。色々あったけど、今思えば楽しかったもの。二人には最初から無茶なことお願いしたのに、ホントによく付き合ってくれた。感謝してる》


「やめろよ。幽霊に感謝なんかされても、それこそ寒気がする」


《寒気。いいじゃない。それで、ぼくの存在を感じてもらえるんだったらいくらでもしてやるわ。これからもうできなくなるんだし》


 ヤナギさんが少しおセンチになってるのが伝わってくる。




「ねぇ、いいこと思いついた。明日、ヤナギさんが働いていたバーに行ってみない?」


 千明が自分の妙案に目を輝かせる。


《は? あんたホンキ? ゲイバーよ?》


「ゲイバーって昔から興味あったの」


「それいいね。行こうか」


《ホンキで言ってんの?》


「ホンキもホンキ。ヤナギさんだって、最後に仲間に会うの悪くないでしょ?」


《そりゃまぁ……、会いたいわね。突然さよならしちゃったわけだし》


「よし、じゃあ決まりね」


 千明が手を叩いて喜ぶ。


《勝手にしなさい》


「で、どんなお店なの? そう言えば訊いたことなかった」


《それは行ってからのお楽しみがいいんじゃない? でも、いいお店よ》


 ヤナギさんが宙を見つめてニヤッと笑う。バーのことを思い出してるのかもしれない。




 最初にその異常に気がついたのは千明だった。




「やっぱり幽霊なんだね。薄っすらと透けてるんだ」


 ――透けてる?


 そう言われてヤナギさんを見ると、確かに透けている。


「ホントだ。なんか透けてる」


《え、ちょっと待って。何これ?》


 ヤナギさんが手の平を電気にかざしては手を振り、かざしては手を振り、を繰り返す。


「まさかそれって、消えかかってるってことじゃないか?」


「どういうこと?」


「いつもは透けてないんだ。消えようとしてるのかもしれない」


《ウソでしょ!? だって成仏するのは明日のはずよ?》


「バーはどうするの?」


「今、そんなこと言ってる場合じゃないだろ」


 そう言ってる間にも、ヤナギさんはどんどん透けていく。


《どどどど、どうしよ?》


「成仏するってことだよな、これ?」


《だと思いますけど?》


「オレ達の地獄行きもなくなったってことだよな?」


《だと思いますけど?》


 震えた声を出すヤナギさん。すでに透過度は五十%を超えている。


「な、何か言い残したこととかない?」


《ええ……言い残したこと? そんなのすぐに浮かばないわよ!》


「浮かばないってことは、大したこと無いってことよ、きっと」


 三人の中で千明が一番ドライだ。


《あああ、ありがとね、色々》


「気にすんなって」


《て、天国坂があったら、そこで待ち合わせしましょ。先に行って待ってるわ。住所は二丁目五の二十五。ニコニコ。覚えやすいでしょ?》


「ニコニコね。覚えた」


《あ。そ、そうだ! ごめん、忘れてた! 一つ知らせたほうがいいことがあったんだった!!》


「え、何!!?」


「っとね、二人とも子供の時、お寺で――」




 ――消えちゃった。




 千明と顔を見合わせる。


 沈黙の部屋に、アロマディフューザーの蒸気を吹き出す音だけが唯一流れている。


「じ、成仏したってこと?」


「たぶん……な。こんなに急とは思ってなかった」


「わたしも最後、見えるとは思ってなかった」


「最後言おうとしてた『お寺』で思い当たること、何かある?」


 千明が首を振る。オレも何も無い。




 子供の時、お寺で、何なんだよ―――ッ!!?

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