表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第六章 決戦はカントリーロード

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/86

5.久しぶりな親子の会話、の話

「ここに透がいるって言うのか? にわかに信じがたい話だな……。ちょっとお酒頼んでいいかな」




 ヤナギ父がビールを注文する。


 見えないけど目の前に死んだ息子がいるらしい、そんな与太話、お酒でも入れないとまともに相手できないのだろう。




《タダクニくん、身体借りていい?》


 つまり〝憑依する〟って意味だ。


 テレビで観たイタコや霊能者の姿が脳裏に浮かぶ。


 あれをやるのか……。戸惑ったが、仕方ない、受け入れることにした。そうすることが一番 目をつむり心を落ち着ける。




 目をつむり心を落ち着ける。




 なるべく〝無〟になるように集中する。




 ヤナギさんが自分の中に入ってこられるよう意識を穏やかに、静かに、ゆっくりと深海へ沈んでいくような感覚を探る。




 深く、深く。


 ……。




《ちょっとムリみたい》


 ヤナギさんが両手を広げて首を傾げた。


 アメリカのホームドラマみたいな大袈裟な仕草に、ちょっとイラッとする。


《何やってるの? 入るなら千明さんの身体なんじゃない?》


 カレンが呆れ顔で指摘する。


《憑いてるのは千明さんのほうなんでしょ? だったら入るのも千明さんでしょ》


 ごもっともな意見だ。オレは千明に事情を説明した。


「わ、わたしの中に?」


 嫌そうな表情を浮かべる千明だったが、ちょっと考えた後、受け入れてくれた。さっき事務所で助けられたことを思い返したのかもしれない。


《ありがとう、千明ちゃん。じゃ、今度こそ行くわよ……》




 ……。




「お父さん。透だよ、わかる?」


 成功したみたいだ。




「とりあえず、色々驚かせちゃってごめん」


「……これ、透なのか?」


 ヤナギ父がキョトンとして千明を指差す。


「そう。久しぶり。十年ぶりくらい、かな? こうやって話すの。元気だった? お父さん」


 千明の硬い表情で、中にいるヤナギさんの緊張が伝わってくる。


「なんか娘ができたみたいで照れるな。こんな子に『お父さん』なんて言われて。できれば『パパ』って呼んでもらってもいいかな?」


 ヤナギ父がまんざらでもない顔をする。


「ちょっと。真面目にやってくれよ。あんまり時間ないんだ」


「そっか。そりゃ、すまないな。でも、思うよな? 娘みたいだって」


 オレと夏目さんに同意を求めてくる。その気持ちもわからんでもないが……。




「何から話せばいいかな。とりあえず、ずっと帰らなくてごめんなさい。ほとんど音信不通で心配かけた、よね」


「いや、別に謝らんでいい。そんなこと」


「ホントはもっと顔を見せなきゃいけなかったのに。仕事はどうだとか、東京の生活はどうだとか、一緒にお酒飲んだりもすべきだったのに。それが、そういうのも無しにいきなり死んじゃって、ごめん」


「色々忙しかったんだろ? 実家なんてのは後回しになるもんだ。ワシだって若い頃、親のところには滅多に帰らなかった。みんな似たようなもんさ」


「でも、一緒にお酒酌み交わすの、やりたかっただろうなって。ずっと気になってた」


「まぁ、息子がいる親の夢の一つって言うけどな。それができなかったからって、心残りとか、そんな大きなことじゃない。そんなことで気を揉んでるなら、さっさと忘れなさい」


「そんなものなの?」


「そんなもんだ」


「なんだ。拍子抜け」


「わざわざ、そんなこと謝りにきたのか。バカだな。四十九日で高いお金出してお経読んでもらったんだ。しっかり天国行ってくれないと、そのほうがよっぽど困るぞ」


「いや、だって『息子が二十歳を迎えたら、馴染みの居酒屋に連れていって――』みたいな話、よく聞くじゃん」


「テレビの見すぎだよ、お前。そんな気恥ずかしいことする親子、いないわ」


「げ。アレ、けっこう鵜呑みにしてた」


「ないない」


 ヤナギ父が楽しそうに笑う。


 千明の表情もずいぶんと柔らかくなった。


 中のヤナギさんの緊張が解けたんだろう。数年ぶりの親子の会話を楽しんでるに違いない。




 しばらく親子のとりとめのない会話が続いた後、一瞬、間が開いた。


 それをキッカケに千明の顔が再び硬くなった。




「お父さん。あの、実は……もう一個あって。話さなきゃいけないこと……」


「ん? 何だ。お金貸してくれって言われても無えぞ」


「そんなんじゃないよ。死んじゃってんだし、お金なんかいらない」


「じゃ、何だ?」


「うん。怒らないで聞いて欲しいんだけど……仕事のこと。実は新卒で入った○×商事はとっくに辞めて、別の仕事をやってたんだ」


「……そうか」


 ヤナギ父が静かに頷く。


 ヤナギさんはポツリポツリと語り始めた。




「あの。LGBTQって聞いたことある? 最近だとトランスジェンダーとか言ってテレビや雑誌でもよく目にするけど。って、やめるね、横文字でカッコつけるのは。ぼくね……実は同性愛者なんだ。つまり、ゲイ」


「中学の頃にはもうハッキリと気づいてたんだけど、理解されないことだってわかってたから、誰にも言えなかった」


「別の仕事って言うのもそういうお店、ショーパブで働いてた。わかりやすく言えば、ゲイバー」


「けどわかってもらいたいのは、決して後ろ向きに生きてなかったってこと。自分が世間から理解されない少数派だって認識はしてて、それが原因で肩身の狭い思いや、嫌な思いもいっぱいしてきた。でもだからって隠れるように生きてこなかった。単なる強がりに聞こえるかもしれないけど、むしろ胸張って生きてきたわ。お店でも指名率がどんどん上がってね、独立するところまでいったのよ。ま、その直前で死んじゃったんだけど。でも自分に自信を持って生きていたわ」


「ただ……お父さん達には言えなかった。一番理解してもらいたいけど、わかってもらえないだろうなって。告白してがっかりされる姿を見るのも怖かった。だから家でもそんな素振り一度も見せなかったと思う。で、繕ってるのがどんどん苦しくなって、実家に近寄らなくなった。結局、一番辛い場所からは目をそむけてきたんだと思う」


 ヤナギさんが今まで秘めていた思いを一気に吐き出す。




 その間、ヤナギ父は「うん」とか「そうか」とか薄い反応を繰り返すだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ