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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第六章 決戦はカントリーロード

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4.たたみ掛けるなら今、の話(後半)

 ……どうした。何やってんの? よく観察すると、ヤナギ父の腕時計が不自然に回っている。


 違うわ! 完全に合図を履き違えてる。


 このタイミングで腕時計なんて誰が見るんだよ!? 気づくわけねえだろ!




 そうじゃないっつうの。


 オレは今朝の新幹線でのやり取りを思い返した。








《エピソード?》ヤナギさんが首を傾げる。


「そう。本人達にしかわからないエピソードを話すんだ。小さい頃の思い出とかクリスマスのプレゼントとか、さ」


《なるほど。当事者しか知り得ない話をして、ぼくがいることを信じ込ませるってわけね。いいじゃない》


「そういうこと。で、何かないの? 目ぼしい思い出」


《そうねぇ……》


 下唇をいじりながら考え込む。




《小学校の頃、サッカーボールを買ってきたことがあったわ。頼んでもないのに。ちっとも嬉しくなかったけど》


「そんなのどこの家庭でも買ってくるよ。もっとレアなヤツだよ」


《じゃ、これは? 軽井沢にキャンプに行ったことある。雨が降ってずっとテントにいたから全然面白くなかったけど》


「それも〝キャンプあるある〟だなあ。もっとこう〝ウチだけ〟みたいなの無いわけ?」


《無いわよ、そんなの。だいたいタダクニくんちはあるわけ?》


「ウチは普通の一般家庭だから、そんな珍しいことないよ」


《ほら、無いんじゃない。普通ないのよ。人にばっかり言わないでよ》


「とにかく何か思い出せよ。それが鍵なんだから」


《わかったわよ。考えとく》








「サッカーボールをプレゼントしたことありますよね? あと軽井沢へキャンプ行った時は雨が降った」


 とりあえず聞いてる思い出を投げかけるしかない。


 ヤナギ父とチラッと目が合った。


 効果あり?


「もっとくれ、思い出を」オレはヤナギさんへ口パクで伝えた。


 ヤナギさんもやっと理解したようだ。




《缶コーヒーを買ってくれたわ。銘柄はいつも決まってダイドードリンコ》


「ダイドーの缶コーヒーをいつも買ってくれた」


《それからパチンコによく連れてかれたわ。隣に座ってパチンコ玉をちょとづつもらいながらこっそり打つのがたまらなく楽しかったわ》


「パチンコによく連れて行った」




 伝書鳩のようにただただ思い出を伝えていく。


 それを聞くヤナギ父が眉をひそめる。


 効果があるのか無いのか、ちっとも掴めないが、どんどん放り込んでいくしかない。


「おこづかいは五百円だった」「スケボーが流行った」「安室ちゃんがすごい人気だった」「たまごっちが流行った」


 もはや思い出でも何でもない。単なる社会現象だ。


 ヤナギ父がどんどん渋い表情になっていく。




《嵐がデビューしたわ》


「嵐がデビューした」


《貿易センタービルに飛行機が突っ込んだわ》


「貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ」


《天国坂二丁目五の二十五》


「天国ざ……何?」


《天国坂二丁目五の二十五よ。死んだ後の天国での待ち合わせ場所を決めたのよ》


 なんだそれ?


 ずいぶんとハッピーな家族だな。ま、いいや。


「天国坂二丁目五の二十五」


「ど、どうしてそれを……?」


 ヒット!?


 ヤナギ父が驚いた表情を見せる。


「今ここにいるんです。トオルさんがここで教えてくれてるんです」




 たたみ掛けるなら、今度こそ今しかない。


 どんどん行け!


「マラソン大会で八位入賞」八位って、また微妙な順位。


「百人一首大会で校内三位に」……自慢するならせめて県大会にしてくれ。言ってるこっちが恥ずかしくなってくる。大丈夫か? 逆効果じゃないよな?




「ほ……本当にいるのか?」


 よっしゃ! めっちゃ効いてる。


「天国坂なんて本人しか知らないですよ」


「じゃぁ、トナカイの会は……」


「ご利益があるのかどうかは知りませんが、少なくともトオルさんと魔除けとは何の関係もありませんよ」


「や、柳様? 大丈夫ですか?」


 スーツがうろたえる。


「……すまないが、今日のところは帰ってくれないか」


「柳様? こんな連中の口車に乗っちゃダメですよ」


「すまないが……」


「いや、でも柳様」


「帰れと言ってるのがわからんのか!!?」


 ヤナギ父が声を荒げる。




「……わかりました。どうなっても知りませんからね」


 捨て台詞を吐いてスーツは車に乗り込み出ていった。

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