4.たたみ掛けるなら今、の話(前半)
「あの。けっして怪しい者じゃないんですけど、そのお金は渡さないほうがいいと思います」
タダクニが急いで徳之進の隣りへ駆け寄りフォローに入る。
もうこの時点でかなり怪しい。
「あんた達、何なんだ。警察呼ぶよ?」
スーツの男がスマホを取り出した。
「き、君は昼間の……」
ヤナギ父が唖然とした表情を向ける。やっぱり覚えていたんだ。
「お知り合いなんですか?」
「いや、さっき話した今日の法事の乱入者。彼がその乱入者です」
「な……! 柳様、これは相当根深いですよ。これこそ悪い星回りが色濃い証拠です。一刻も早く魔除けされることをお勧めします。とりあえず、こんな人達とは関わってはいけません。行きましょう」
「話を聞いてください。騙されてるんですよ」
「さっきから人のこと詐欺みたいに言って、失礼だろ! 名誉棄損で訴えるぞ! さ、柳様、行きましょう!」
スーツがヤナギ父を連れて席を立つ。
「待ってください」
「聞いちゃダメです。無視しましょう」
そのままレジに千円札を二枚置いて店から出ていった。
《ったく、徳之進。相変わらず空気読めず、ね。期待を裏切らないんだから》
カレンさんの口の端が上がる。
やっぱりこの人、楽しんでるだろ?
《タダクニくん、追いかけて! 帰しちゃダメよ》
わかってる。
これを逃したら、おそらく次は無い。
オレはすぐに二人を追いかけた。
「お父さん、待ってください! 話があるんです」
「しつこい、無視してください」
スーツがヤナギ父の手を引いて駐車場をどんどん進んでいく。
「お父さん!」
「話を聞いてください!」
「大事なことなんです!」
何を言っても振り向いてくれない。
スーツが車のキーをかざす。
ピッピッという音とともに白のレガシーのハザードランプが点滅した。
ヤバい!
車に乗り込まれたら終わる……。
「息子さんが……トオルさんがここにいるんです!」
オレは必死に訴えた。
ヤナギ父が立ち止まり振り向いた。やった! 思いが通じた!?
「どこで透のことを知ったんだ! 透とどういう関係なんだ! いったい何を企んでるんだ!!」
めっちゃ怒ってんじゃん。
こめかみに青筋おっ立てて、今にも血管ぶち切れそうだ。
「聞いたことありますよ、こういう連中のこと。香典泥棒みたいなものですよ。ご家族が亡くなった時に突然現れて財産を狙う輩です。柳様。こんな連中に関わっていてはいけません。不吉な星回りが余計に悪化してしまいます」
「うるさい。あんたは黙ってろ!」
と、その時、
「イカルミくん! これ見て!」
店内から駆け付けた夏目さんが、チラシとスマホをオレに差し出した。
チラシはさっき、スーツがヤナギ父へ見せていたものだ。
スマホには何かを検索した画面が表示されている。
――トナカイの会 詐欺、被害額、音信不通……。
渡されたチラシに視線を移した。
会社名が書いてある。……トナカイの会。
「柳様! 関わらないほうがいいです。こうしてる間にも運気はどんどん悪化していきます」
オレはスマホの画面をヤナギ父に押しつけた。
不機嫌そうに画面を覗き込むヤナギ父。
「柳様! 行きましょう! さ、早く車に」
固まったまま動かないヤナギ父。その表情にはハッキリと困惑が見て取れる。
たたみ掛けるなら今しかない。
オレはヤナギさんに目で合図を送った。
呼応するようにヤナギさんが頷き真剣な表情になる。
正味十秒ほど。
永遠とも感じる空白の時が流れる。
……どうした。
何やってんの?
よく観察すると、ヤナギ父の腕時計が不自然に回っている。
違うわ!
完全に合図を履き違えてる。
このタイミングで腕時計なんて誰が見るんだよ!?
気づくわけねえだろ!




