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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第五章 八月十日

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10.午後2時10分(ヤナギさん)(前半)

 どっちだっていいから早くしてよね。

 それとも放ってどんどん行っちゃってもいいのかしら。

 だいたい話してみるって、どう話を進める気なの?


「相良さん、手荒なことしてすみませんでした」

「ふざけんじゃないわよ! 早く解きなさいよ。なに、許すとか上からモノ言ってんの。このクソが」

めっちゃキレてるし。これを説得するの? 警察に突き出したほうが早くない?

「こんなことしても何の解決にもなりませんよ」

「そんなことは百も承知よ。これは復讐なの」

「息子さん、喜びますか? こんなことして」

「息子のことは関係ないのよ。これは私の家庭をメチャクチャにしたあの女に対するふ・く・しゅ・う・な・の!」


 ダメだ。会話になってない。

 火に油を注いでるようにしか聞こえない。

 見てられないわ。

《夏目くん、聞こえてる? アドバイスするからよく聞いて。この手のタイプは同調してあげればいいのよ、同調》

 てか、あんたも接客業なんじゃないの?

 どうしてそんな基本ができないのよ。


「……許せない気持ち、わかりますよ」

 一瞬間を置いてから夏目くんが話し始めた。

 どうやら人のアドバイスはちゃんと聞くみたいね。

「はぁ? あんたに何がわかるのよ!?」

「オレもこの間、裏切られたんです。結婚詐欺に遭って、お金を騙し取られた」

「……だから何だって言うのよ」

《そう、上手よ。その調子、その調子》

「その人のこと、許せないって思ってました。でもそんなこと思ってても、過ぎたことはどうにもならないって気づきました。仮に謝ってもらっても、元に戻ってやり直せるわけでもないし。それだったら今のこの状況からやり直そうって思い始めたんです」

「今の状況? 生活はギリギリ、息子は不登校の引きこもり。おまけに家庭内暴力。この状況からやり直すですって?」

「できますって。オレ、自殺未遂したんですよ。そんなオレでも変われたんです。相良さんだってできますよ」

「適当なことふかしてんじゃないわよ。無責任に」

「確かに無責任かもしれません。ただ、これだけは間違いない。『やる、やらない』を決めるのは自分です。その結果『うまくやり直せるか、できないか』は、わかんないっスよ。でも、やり直せるって思い込むんです。信じるんです。せめて自分だけは自分のこと信じてあげるんです」

「なに偉そうな能書き垂れてんのよ。何も知らんくせに。甘ちゃんが」

 ふんっと鼻で笑って相良が続ける。


「自分を信じろ、ですって? ガキが。この世で自分ほど信じられない人はいないでしょうが。今まで何回自分に裏切られてきたことか。人生経験ろくに無いガキが、耳障りのいいことばかりぬかしてんじゃないわよ!」

 相良愛が徳之進を睨みつける。


 ヤバい。ダメかも。

 同調するも何も、そもそもこちらの話を聞く態勢ができてないわ。

 そっから立て直さないとだ。

 これは長期戦よ。


「裏切られてきた? なに、被害者面してんスか。裏切ってきたのは自分ですよ。あなたは加害者なんスよ。そこを履き違えちゃダメですよ。人生経験、オレより豊富なんでしょ。だったら、いつまでも逃げてちゃダメですよ。甘いのはあなたのほうです! 自分は加害者だって認めるんです。認めて、変わるんです!」


 ばっか……。

 何、言い出しちゃってんのよ。

 それじゃケンカ売ってるだけじゃない。


《……徳之進。どの口が言ってんの、あんた。それ、そっくりそのまま自分のことじゃない》

 カレンて子が、呆れたような、ビックリしたような表情で首を振っている。

 ただ、なぜか相良が押し黙っている。

 じっと、夏目くんの顔を見つめて。


 え、まさか。

 これ効いてんじゃないの、今の。


 絶妙なタイミングでラジオから流れる曲がヴァネッサ・カールトンの『サウザンド・マイルズ』に変わった。

 繊細なピアノ旋律とキレイな歌声が事務所を包み込む。

 この曲、切なくて好きなのよね。


「……変われるかな?」


 やっぱり。

 まさかの、大逆転。

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