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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第一章 ヤナギさん①

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3.誰かいるんですけど、の話(前半)

 経堂駅のすずらん通りを抜けて、少し行くと千明の住んでいるマンションはある。

 くすんだレンガ色の外壁がひと昔前のマンションを感じさせるが、女性が選ぶだけあって、エントランスにはちゃんとオートロックが付いている。


「ちょっと部屋を片付けるから、待ってて」


 タダクニはドアの前でしばらく待たされた。

 ここに来るのは約三週間ぶりだった。

 少しだけ懐かしい感じがする。

 でもまさか、久しぶりの訪問がこんな形になろうとは思わなかった。

 金曜の夜、恋人の部屋、そして、お酒の入った二人。シチュエーションを並べれば、良い雰囲気の夜を過ごして仲直りできそうな状況だ。

 ただ何か違う。

 千明はスタンガンを握りしめて部屋に入っていった。

 外で待つタダクニの右手には、カメラ発見器と盗聴器発見器の入ったビニール袋がぶら提がっている。

 どれも新宿のドン・キホーテでさっき買ってきた。

 とてもこれから良い雰囲気の夜を迎えようとする恋人の持ち物とは言えない。


「お待たせ」


 やっとドアが開いた。結局、五分ほど待たされた。

 中に入ると芳香剤のいい匂いがした。

 玄関脇には背丈五十センチほどの観葉植物。前に一緒に選んで買った物だ。

 玄関の先はキッチンになっている。キッチンと言っても、廊下に台所も備え付けました、というような空間だ。その狭いスペースに冷蔵庫と電子レンジも置いてある。

 そこを抜けると六畳の洋間と四畳半の和室につながっている。典型的な一人暮らしの間取りだ。


 白を基調とした洋間は、適度なグリーンと木目調の家具が配備されて、落ち着いた雰囲気を作っている。

 テレビ台にはアンティーク調の小物が並んでいる。

 彼女は職場で気に入った物をたまに自分用に買ってくるのだ。


「あれ? 机の位置、変えたんだ?」

「うん。そっちのほうが風水にいいんだって。雑誌に書いてあったの」

「そっちって……」

「東側」

「ふーん。東ねぇ。それ空気清浄器? 買ったの?」

 タダクニは机の脇にある巨大な水滴のような置き物を指して言った。

 先端から定期的に水蒸気をあげている。以前来た時には無かった物だ。

「それはアロマディヒューザー。バーゲンで安かったから買っちゃった。いい匂いするでしょ」

 なるほど、アロマね。部屋に入った時に感じた匂いはこれだったのか。


 そして、黙っていても話が進まないので言ってしまうと、部屋にはもう一人いた。

 

 タダクニ達には背を向けて、ソファへ静かに座っている。

 それは一瞬見過ごしてしまうほどに存在感が薄いというか、姿が煤けているような人物だった。


「千明、その人は?」

 タダクニはソファに向けて顎をしゃくった。

「何が?」

「いや、何がって。そこのソファに座ってる人」

「は? 何言ってんの? 怖いこと言わないでよ。誰もいないじゃない」

「千明こそ何言ってんだよ? 思いっきり座ってるじゃねえか」

「やめてよ。わたしがそういうの苦手だって知ってるでしょ。性格悪くない?」

「いや、だって、思いっきりそこに……。今、こっち向いて――」

《なに、見えてるの? 君?》

「え? 見え……てる?」

《やだ! ちょっと! しかも喋れるわけ? やるじゃない!》

「はあ?」

《いやもう、ホント困ってたのよ。この子、何にもわかんないんだもん。とりあえずぼくのこと気づいてくんないと話にならないじゃない? だから色々試してはみたのよ。枕元に座ってみたり、電気を点けたり消したり。それがちっとも効果ないでしょ、この子。それに最近はストーカーだと勘違し始めたでしょう。失礼しちゃうわ》

「はあ……」

《でも、よかったぁ。お兄さんが来てくれてホント助かった。これで何とかなるわ!》

「何とか……よかった……。え? 何が? てか、どちら様ですか?」

《あら、やだ! ぼくったら興奮しすぎてすっかり忘れてた。ごめんなさいね》


 すると彼は立ち上がり、背筋をピンと伸ばして、


《ぼくの名前は柳透。三十三歳。ま、幽霊なんだけどね。よろしく》


 ウインクを飛ばしてきた。

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― 新着の感想 ―
ここでヤナギさん登場! したもタダクニはいきなり見えてたんですねw
サクサクと読みやすかったです。
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