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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第五章 八月十日

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9.午後2時1分(タダクニ)

「大丈夫か、千明」

「大丈ばないわよ、殺されるかと思った!」

 気丈に返事しているが手が震えている。オレはその手を握りしめた。


「……時計、回ってたね」

 千明がムッとした顔で呟く。

「ああ、ヤナギさんだよ」

「……助けてくれたんだ」

「一応、守護霊だからな」

「守護霊じゃないでしょ」

 そう言ってオレを睨む。

 まだ怒ってる。ま、そりゃそうか。


「地獄に落ちろとか酷いこと言ったのに……」

《目の前で襲われたら助けるに決まってるでしょ。別にあんたじゃなくても助けたわよ。勘違いすんじゃないわよ》

「千明が目の前で襲われる姿見たら、放っておけなかったって言ってるよ」

《ちょっと! わい曲しすぎよ。伝えるなら正確に伝えなさいよ!》

「守護霊ではないけど、悪い霊でも……ないのかな」

《今さら、遅いっつうのよ。あんただけは呪ってやるって決めてんだから。タダクニくん。ちゃんと言ってやりなさいよ》

 うるさい。

 言えるわけないだろ、黙っとれ。

「タダクニ。もう一度だけ……協力してあげる。あの喫茶店に行ってもいいよ」

《頼んでないわよ、バーカ!》

 オレはヤナギさんをきっと睨みつけた。子供みたいなこと言ってんじゃねえよ。

「早く戻ろう。これ以上ここにいても意味ないよ」

 オレも同意見だ。

 ヤナギさんを成仏させるヒントがあるかと思ったが、何も無さそうだ。

 だとしたら、早くカントリーロードへ向かったほうがいい。


《ねぇ、徳之進。この人、許してあげられないかな》

「許すって?」

 カレンさんと夏目さんの会話が聞こえてきた。


《この人、そんなに悪い人じゃないと思うんだ。何となくわかるんだよね、この人の気持ち》

「この人の気持ち?」

《私も母子家庭だから。母子家庭ってさ、パン造りみたいなもんなんだ。材料は同じでもその日の気温とか湿度の変化に合わせて水の量や発酵時間を調整しなくちゃいけない。母子家庭も同じなの。日々色んなタイミングで片親の負い目を感じることがある。友達との雑談、TV、ふと耳にする音楽の歌詞にだって負い目を感じることがある。そしてそんな負い目を感じたことなんて、親には絶対に知られちゃいけないの。それはきっと親も同じだと思う。母子家庭は親子それぞれが感じる心の起伏に、水の量や発酵時間をお互い微調整しながら家族の形を作っているの。この人はその加減がちょっと崩れちゃったのだけなのよ》


 何言ってんだ、あの子。

 いいこと言ってる風だけど、ちっとも意味がわからん。

 それになぜ急にパンなんだ?


「……たしかにそうなのかもな」


 マジかいな!?

 伝わったの?

 どういう関係性なんだよ、この二人。


「でも許すかどうか決めるのは、一番の被害者、彼女だけど」

 夏目さんが千明のほうへ視線を移して続けた。

「あの千明さん、と言いましたっけ? この人、警察に通報します? それとも許して帰してもいいですか?」

「わたしはどっちでも。面倒じゃないほうで。それより早く喫茶店へ行きたいし」

《よし! 徳之進、その人を説得して》

「許してもいいんですね。それなら少し話してみます」

 夏目さんは今度は相良のほうへ身体を向けた。

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