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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第五章 八月十日

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8.午後1時52分(徳之進)

《と、徳之進。心当たりないの?》

 顔を引き攣らせたカレンが訊いてくる。


「五年前なんて親父の代で、オレ何も知らんて」

「知らないとか無責任なこと言ってんじゃないわよ。この子、殺すわよ!」

「いや、そうじゃなくて。父の時の依頼は自分ノータッチで――」

「んなこと関係ないのよ。資料くらいあるでしょ!? 早く探しなさい!」


 包丁を持つ手が震えている。誤っていつ首元に触れてもおかしくない。

 とりあえず見つけ出さなきゃ。


「あなたの名前と具体的な時期を教えてください」

「相良愛。依頼したのは五年前の十月よ。早くしなさい」

 その情報を頼りに過去資料を漁ってみるしかない。

 オレは古い資料が保管されている奥のキャビネットのほうへ移動した。


《タダクニくん、時間稼ぎしなさい》

 おかまの声が背後でした。ナイス。ちょっと頼んだ。


「どうやって?」

 イカルミ! お前も何か考えろ。自分の恋人の危機だろが!


「何これ? キャンペーン?」

 相良愛はテーブルに置いてあったペット探しキャンペーンのチラシを手に取った。

「『あなたの大切な家族を救出します』だって。くだらない。あんた達逃げたペットの捜索依頼で来たの? 呑気なものね。……逃げるほうにも理由はあるのよ」

 相良の眼の奥に哀しみが宿る。


《ヤナギさん、包丁へし折るとか何かできませんか? ポルターガイスト的なこと》

 カレンがおかま幽霊に話しかけた。

《あんた何言っちゃってんの? できるわけないでしょ》

《じゃあ、何ならできそう?》

《何って、時計を動かすくらいよ》

《何それ?》

《だから時計の針をグルグル回すのよ》

《……そんだけ?》

《そんだけよ》

《……ま、回してどうなるの?》

《どうにもならないわよ》

《使えな……》

 カレンの大げさなため息が聞こえた。


《じゃあ、あんたやってみなさいよ。そんだけ言うならへし折るくらいできるんでしょ?》

《私にできないから訊いたんじゃない》

《あんたね、自分にもできないんだったら、人に文句言うんじゃないわよ》

《おかまだったらできるかもって思ったの》

《あんた、おかまを何だと思ってるの?》

《物理的にはムリそうね。私達にできるのは恐怖とか心理的に訴えるくらいか……》

《とりあえず、何かやってみる?》


 あった!

『20××年十月十日(月) 調査内容・身辺調査(浮気) 依頼人・相良愛様』

 これだ!

 資料を抜き出し、キッチンで相良用の麦茶を淹れてから「お待たせしました」ソファへ戻った。


「あの女の連絡先は?」

 相良が食い入るように資料を覗き込む。

 オレはなるべくゆっくりと一枚一枚資料をめくった。

「連絡先は……無さそうですね……」

 基本的に不倫調査は、現場を押さえたら調査は終わりだ。

 依頼人の希望が無ければ不倫相手の連絡先まで調べることはない。

「無いじゃ困るのよ。もっとしっかり見なさいよ」

「当時、連絡先も調べるよう依頼しました?」

「覚えてないわよ、そんなこと。無かったら責任持って探し出しなさ――。ていうか、何なの、あれ?」

 相良が壁掛け時計を指差した。

 つられて見ると、何だあれ?


 時計の針が不自然に回っている。


 ――ニャァァァ!!!


 その時、シャム猫が盛り付いたような鳴き声を上げ、相良に向かって跳びついた。

 カレンの仕業だ。

 さっき麦茶を取りにキッチンへ行った時に、ゲージの鍵を外しておいたのが役に立った。

 相良がたじろぐ瞬間をオレは見逃さなかった。

 手刀で包丁を落とし、そのまま腕を捻りあげた。

 大学まで続けた空手が初めて役に立った。

「痛い! 何すんのよ!!?」

「何か縛るモノ!」

 イカルミが反応して自分のネクタイを外し相良の腕を縛り付けた。

 近くにあった紐で足も縛り付ける。

 これで身動きはできないはずだ。


「放しなさいよ、これ!」

 

 叫ぶ相良をしり目にオレはスマホを取り出した。

 110番だ。

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