表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第五章 八月十日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/86

7.午後1時45分(タダクニ)

 だ、誰?

 なんかすごく怒ってない?


「夏目は自分ですけど、何か?」

「お前じゃない! もっと年配のヤツだ!」

「父のことですか? 父は死んでもういませんが」

「なっ……!!? じゃぁ、お前でいいわ。お前らのせいで……!」

 女性は夏目さんに向かって歩き出した。

 目がイってない?

 大丈夫、夏目さん?


「ちょちょちょ! 何なんスか!?」

「何ですか、ですって!!? お前らが人の人生めちゃくちゃにしたくせに!」

 推定年齢四十歳、細身でちょっと疲れたセレブ顔。

 どことなく小池栄子に似ている彼女は、ただただめっちゃキレてる。


「ちょっと、一旦、落ち着いてください! 訳を話してもらわないと、ごめんなさい、何なのか意味がわからなくて」

「訳? ふん。お前らはお金貰ったら、もうお客のことなんて知らないって言いたいの!?」

「いや……、そういうことじゃなくって」

「そういうことでしょうがぁ!」

「だから、訳を……」

「認めなさいよ。お金さえ貰えば何だってする。他人の人生、狂わせても知ったこっちゃないって!」

「いや、だから……」

「認めろっつってんの、このイカれチン〇!」

《ちょっと。とりあえず認めちゃったほうがいいわよ、夏目くん》

「わ、わかりましたよ……。そう取られてしまったのなら、そうなのかも知れません」


《タダクニくん。一旦、あなたが間に入りなさいよ》

 ヤナギさんが耳打ちしてきた。

「なんで、オレが?」

《あのセレブの怒りよう、ただ事じゃないわ。第三者が入って落ち着かせたほうがいいわよ》

「だからって、なんでオレが?」

《あんた以外に誰がいるのよ?》

 室内を見回した。

 千明とカレンさん。……オレしかいないか。


《いいから、やりなさいよ!》

「やるったって、どうすりゃいいんだよ?」

《話を聞き出して同意すればいいのよ。客商売の鉄則。大丈夫。私がフォローしてあげるから。ほら、早く!》

 わ、わかったよ。やりゃいいんだろ、やりゃぁ。

「あの……、一旦、落ち着きませんか?」

「はあ? あんた何? あんたもここの人間?」

「あ、オレはここに依頼にきた客ですけど」

「じゃ、関係ないでしょ。黙ってなさいよ」

「関係ないっちゃないんですけど、話を整理したほうがいいんじゃないかなぁって」

「整理できてるわよ」

「おそらく、こっちはできてなさそうで……」

 オレは夏目さんに視線を向けた。

 彼女もつられて顔を向ける。

 夏目さんは絵に描いたような困惑の表情を浮かべている。


「……ったく。仕方ないわね」

 セレブが舌打ちした。

 うまくいった? ヤナギさんも頷いている。


「五年前よ。夫の浮気調査を依頼したの、このクソ事務所に」

「それで浮気が見つかった?」

「そう。若い女と不倫してた」

《それで家庭をめちゃめちゃにされたって、完全な逆恨みじゃない》

「夫はマジメなタイプで不倫なんてできるような人じゃなかった。知り合ってから二十年、ずっとそう信じていたのに。でもそうじゃなかった」

《同意よ、同意》

「裏切られるのは辛いですね」

《あんた、もうちょっと感情入れて話しなさいよ。棒読みじゃない。怒られるわよ》

「それもあるけど、私は嘘が許せなかったの。離婚を決めたわ」

「離婚に応じてくれなかった、とか」

「不倫の事実はあったから、離婚はできたわ。子供がいるし、慰謝料もらって」

《よかったじゃない。何がいけないのよ?》

「よかったじゃないですか」

《バカ。それは言わなくていいのよ!》

「よくないわよ。夫は勤めていた製薬会社の役員候補だったけど、不倫と離婚のせいで出世コースから外れたの」

「それは気の毒というか……」

 単なる自業自得じゃないか。何て答えるのが正解なのかわかんねえよ。

「それから会社の待遇は酷かったみたい。結局、居づらくなって退職。根はマジメな人だから、耐えられなかったのよね」

 セレブの表情が最初と変わって哀しげになった。

 冷静さを取り戻してきたように見える。

《話を拾ってあげて》

「大変でしたね」

 何が大変かわからんが、とりあえず相槌だ。自分の大根役者っぷりに気が滅入る。

「そのまま失踪したの」

「失踪……?」

「慰謝料も無くなったわ」

 なんか急に波乱万丈になってきた。

 周りを見渡す。

 ヤナギさんも千明も、夏目さん、カレンさん、みんな気まずそうに口をつぐんでいる。


「育ち盛りの息子がいるから大変で、生活はどんどん苦しくなって。それでも優しい息子を励みになんとかやってこれた」

 何て声をかければいいんだよ。

《そのまま話を聞いてあげて。変なアドバイスは逆効果よ》

「いい子なのよ。小学校の頃は毎週、お母さんのためにホームラン打ってくるって野球部の試合に出掛けていった。補欠なのにね。甘い卵焼きが好きで、お弁当にいつも入れてあげるの。帰ってくると美味しかったよって必ず言ってくれた」

「優しい子ですね」

「それが……中学に上がると学校を休みがちになったわ。片親を理由にいじめに遭ったみたい。そのうち不登校になり、家でも引きこもりになった」

 雲行きが怪しくなってきたな。

「周囲の見る目も変わった。片親だからいけないんだって陰口を言われるようになった。不登校を先生に相談しても父親がいないからケアができていないんじゃないかって、ネチネチ言われた。私、悔しくて。息子に学校行くように注意したの。そしたら今度は家庭内暴力が始まった」

 これ、来るとこ間違ってんじゃね?

 探偵事務所じゃなくて児童相談所とか行くべきじゃねえの?

「うちの家庭はめちゃくちゃ。その全ての元凶はあの不倫相手なのよ。だから見つけ出して殺してやるわ。夏目! あんた達にも原因があるのよ。不倫相手はどこにいるの!? 教えなさい!」

 セレブがまた怒り出した。

「五年も前の資料、すぐには……。それに個人情報なので――」

「面倒臭いこと言ってんじゃないわよ、この腐れチン〇が!!? 教えればいいのよ! それがムリならあの女を連れてきなさいよ!」

 声を張り上げ、バックの中から包丁を取り出した。

 そして、ソファに座っていた千明に腕を回し、


「この子がどうなっても知らないわよ」

 人質に取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ