6.午後1時33分(徳之進)
「ったく。だから刑事は嫌いなんだよ」
オレは刑事達が半開きにして出ていったドアを閉めた。
何だったんだ、アレ。
相変わらず失礼な連中だった。
「で、あんた達。これからどうすんスか?」
「自分達も行き詰まっていて。今夜、最後の望みを託してある所に行くんだけど、その前に何かヒントをもらえたらって思ってやってきたんだけど」
「じゃぁ、当てが外れましたね。ここにはヒントになるようなことは何もないスよ」
そんなものがあれば、とっくにカレンが成仏してる。
「ちなみにそのおかまの幽霊の願いは何なんスか?」
《さっきから『おかま、おかま』ってうるさいわね。ヤナギって名前があるのよ。名前で呼びなさいよ》
「ヤナギさん? の願いは何なの?」
《ぼくがゲイだってことを、父親にカミングアウトすること》
おかまもゲイもどっちでも同じじゃねえか。こだわりがわからん。
「それから?」
《それだけよ》
「そんだけ!!?」
ざけんなよ。
カレンは七個もあったのに、おかまは一個かよ。全然、つり合ってねえじゃんか。
「それなら父親に会いに行けばいいだけだろ。簡単な話じゃないスか」
「そうもいかないんですよ。色々あって……」
《自分達だって色々あったって言ってたじゃない。それと同じよ》
色々……ね。
「そう言えば期日は?」
《そうよ、期日。今日なのよ。だから焦ってるんじゃない。今日がぼくの四十九日なの。さっきまで法事に参加してたんだけどね。それこそ色々あって追い出されてきたのよ》
「法事? だから二人とも喪服なんだ。つうか、何したら追い出されるんだよ? 青ひげダンスでもしたのかよ」
《するわけないでしょ、そんなこと。てか何よ、青ひげダンスって。あんたゲイのことバカにしてるでしょ!?》
「してないって。青ひげ危機一髪で助かるかもしれない。なんてな」
《あんた今、世界中のゲイを敵に回してるわよ》
《ちょっと待って。今日が法事って言ったわよね?》
それまで黙っていたカレンが突然、口を挟んだ。
《そうよ。それが何か? あなたまでアホなこと言い出すわけじゃないわよね?》
《それってホントに大丈夫なの? もう過ぎてたりしないよね?》
《え。どゆこと?》
《法事の日と四十九日は違うことあるでしょ。ほら、みんなが集まりやすい土日とかを選んだりして。でもホントの日は別日なんてことあるじゃない》
「初七日もそんな感じだよな。葬式の後にそのまま初七日も済ませたりする」
《え。ぼく、事故に遭ったの六月十七日だけど……》
「てことはその日から数えて四十九日目は……」
オレは壁掛けカレンダーで日にちを確認した。一、二、三……
「先週、八月四日じゃん」
「ウソだろ!!?」
イカルミとおかまがカレンダーに駆け寄る。
千明という女性だけが、眉間に皺を寄せてキョロキョロしている。
きっと彼女は幽霊の声が聞こえないのだろう。羨ましい。
《ヤだ!? 六日も過ぎてるじゃない!!? どうしよ、タダクニくん》
「どうしよ、じゃねえよ。なんでしっかり数えないんだよ」
《いちいちしないわよ、そんなこと。あんただって何も言わなかったじゃない。人のせいばっかりにしないでよ!》
「人のせいって、これ、お前の問題だろ」
《そもそも四十九日って言ったら、誰だって法事のことだと思うじゃない!!?》
「ふざけんなよ。地獄なんて行きたくねえぞ!」
《ぼくだって行きたくないわよ!》
《あの、事故って言ったわよね?》
二人のしょーもない小競り合いにカレンが割って入った。
《そうよ、だったら何?》
《それって即死? 私も事故死だけど、三日間、昏睡状態だったわ》
《こんす……。一週間、集中治療室にいたわ》
「じゃあ、死んだのいつなんだよ?」
《六月十七日から一週間後だから……》
イカルミが法事の案内状を取り出し、カレンダーと照らし合わせる。
「命日六月二十三日てことは……一、二、三……明日じゃんか!? ホントの四十九日は八月十一日、明日だ!」
《やったぁ―――!!!》
今度は二人がはしゃぎ合う。
ったく、なんだこいつ等は。
突然やってきて、ケンカして、喜び合って。
刑事達と同じ単なるはた迷惑な一行じゃねえか。
カレンの成仏の役にも立ちそうもないし、とっとと帰ってもらおう。
―――しかし、小説なんだから事態は更に悪化する。
その時。
突然、事務所のドアが開いた。
「ちょっといい? 夏目いる?」
すごい剣幕の女性がドアを開けて入ってきた。




