5.午後1時18分(タダクニ)
おいおい。
殺した殺されたとか何の話をしてんだ?
結婚詐欺に遭った純朴な青年じゃなかったのかよ。
変な事件に巻き込まれでもしたら、冗談じゃない。
とりあえず早いとここっちの話に戻さないと。
「野毛か……」
ガミさんが腕時計を見る。
「どこかの組がバックに付いてるかもしれんな。何か知ってるか?」
《知るわけないじゃない》
「知らないそうです」
「他の人に会ったことは?」
《ないわ》
「ないそうです」
「じゃあ、そのタツヤに会ったのはいつ?」
《三か月くらい前かしら。詳しいことは何も知らないわよ。メインの窓口はケイコだったし》
「三か月くらい前。メインのやり取りはケイコだったから、詳しいことは知らないそうです」
夏目さんがカレンさんの言葉を忠実に伝える。セキセイインコみたいだ。
「月下カレン、君が殺したんじゃないとすると、他のメンバーで怪しい人や心当たりはいないのか?」
「詐欺師なんてみんな怪しいって言ってます」
「なるほど。じゃあ例えば、ケイコが誰かから恨みを買っているとか、聞いたことは?」
「これも詐欺師なんだから恨みなんていっぱい買ってるはずだって」
「そうですか……」
ガミさんが何やら小声でぶつぶつつぶやいて会話が止まった。
情報の整理でもしているのかもしれない。
「そろそろ自分達の話に戻ってもいいですかね」
オレはガミさんの質問が途切れたのを見計らって話しだした。
「夏目さん達は今、どういう状況なんですか?」
「成仏のこと? やれることは全部やって、今は成仏待ちってところ」
「やれることって言うのは……?」
「カレン、彼女の願いを全て叶えたってこと」
《願いが叶ったのに成仏できてないってどういうことよ?》
ヤナギさんが眉をひそめる。
「ちなみに願いって何だったんですか?」
「え……。ボーリングとかメイド喫茶に行ったり」
《何それ。単なるデートじゃない》
ヤナギさんがツッコむ。もっともだ。オレも同じこと思ったし。
「色々理由はあったんだよ」
罰が悪そうに夏目さんの表情が歪む。
「成仏の期日はいつまでですか?」
《あと一週間よ。来週の八月十七日が四十九日。そこがリミット》
横からカレンさんが答える。
《ちょ、タダクニくん。願い叶ったのに成仏できてないってところ、簡単にスルーしてんじゃないわよ。もっと深掘りしなさいよ。どうして成仏できないのよ? 魔法陣でも描かなきゃ行けないのかしら、天国って》
なに、バカなこと言ってんだ。んなわけないだろ。漫画じゃないんだから。
「どっかで聞いたな、それ」
「え、何が? 何を聞いたんですか」
考えごとしていたガミさんが夏目さんの言葉に反応する。
「あ、違いますよ。こっちの魔法陣の話」
「魔法陣……?」
「こっちのおかまの幽霊が――」
《おかまは余計よ》
「夏目さん。こっちの話に集中してください。おい、おかま! ちょっと黙ってろ! こっちは大事な事件の聞き込みしてんだ」
ガミさんが明後日の方向に罵声を投げる。
「少し質問を変えます。ケイコの男関係は? 何か知ってますか?」
また聞き込みに戻ってしまった。
それから五分ほど質問が繰り返された後、
「よしケージ! とりあえず野毛だ。行くぞ!」
ガミさんが席を立つ。
「え、行くって……。オレ達は?」
「え? ああ……あとは任せた」
ニヤッと不敵な笑みをしたかと思うと「夏目さん、何かあったら連絡ください」そう言い残し、ガミさん達は部屋を出ていってしまった。
って、ちょちょちょ!!?
オレ達どうすんだよ?
こんなことまで無理やり連れてきといて、用が済んだら置いていくとか、ある?
夏目さんと目が合った。
事務所内が微妙な空気に包まれる。
オレ達はお互い硬い笑顔を向け合うしかなかった。




