3.午後1時6分(タダクニ)
「夏目さん。ちょっとお話よろしいですか」
金髪のケージがドアを勝手に開けて中に入っていく。
この金髪は丁寧な言葉遣いと行動がまったく合っていない。
何がプロだ、安心して任せろだ。
ど下手じゃないか。
こんな不躾なヤツに「よろしいですか」と訊かれて、「いいですよ」とはならんだろ。
こんなことだろうと思ったから、慎重にって念押ししたんじゃないか。このっ……バカチンが!
部屋には一人の男性が戸惑いを隠せない表情で立っている。
言わんこっちゃない。
見ろよ、あの顔を。露骨に拒否ってんじゃねえか。
「夏目さん。突然、失礼します。先日の話、もう一度詳しく聞かせてくれませんか」
ガミさんが改めて男性に話しかける。
夏目さんと呼ばれた男性はブスッとしながらも中へ通してくれた。
「失礼します」
タダクニと千明もそれに続く。
《ねぇ、ちょっと大丈夫? 最初っから躓いてない?》
夏目さんの表情に、ヤナギさんも心配している。
「知ってることはこの前、全部話しましたけど。なんスか」
苛立ちを隠そうとしない、いや、むしろ伝えるようなぶっきら棒な口調だ。
「ええ。ただもう少し詳しい話を聞きたいと思いまして」
ガミさんも食い下がる。
「詳しい話って?」
「月下カレンについて。ここにいらっしゃるんでしょ」
「こないだは信じてないように見えましたけど?」
「いやぁ失礼しました。あまりの現実離れした話についていけなくて」
ガミさんが両手を合わせて謝るポーズを取る。
「それが急に信じるようになったんですか?」
ヤバい。超アウェー感いっぱいだ。
「実はこの二人に話を聞いて、考えが変わって」
「誰スか、この人達」
夏目さんが鋭い視線をオレ達に向けてきた。
こ、恐いわ。目つき悪過ぎだろ。
「こちらの二人も幽霊から除霊を依頼されてる、だそうだ」
「は? どゆこと?」
「夏目さんと同じ状況ってことなんだよ」
ふんっと鼻で笑われた。感じ悪ぅ。
「で、オレにどうして欲しいんスか? 成仏の手助けなんてできないスよ。こっちが訊きたいくらいなんだから」
「手助けとかそんなんじゃありません。何かヒントが得られればと思ったんですけど」
オレはガミさんと夏目さんの話に割って入った。
これ以上二人だけに任せていたら、どんどん険悪なムードになっていく。
なんとか場の空気を変えたい。
「ヒント……ねぇ。それもこっちが訊きたいですよ」
「夏目さんもまだ成仏させられてないんですね」
「見えないんですか? さっきからあそこにいるじゃないですか」
夏目さんが指さすキッチンにはキレイな女性がゲージに入った猫にちょっかいを出している。
彼女が幽霊?
「同じ状況ねえ。あの……」
「五十海です」
「いか……イカルミさん。珍しい名前ですね。まあ、それはいいや。イカルミさん達が成仏させたいのは、その柄シャツの人でしょ?」
「見えてるんですね?」
「見えますよ。そこでボケッと浮いてる人がいれば、誰だってそう思いますよ」
《ボケッとですって!!? 何様なのこの人》
「……おかま?」
「ホントだ。すごい。力貸してくれませんか」
「だから何もできないっつってんでしょうが」
《タダクニくん。感じ悪過ぎよ、こいつ。ぼく、こういう人嫌い》
たしかにちょっと協力してくれそうもない。それなら違う方向から責めるか。
「あの……もう一人はどこにいるんですか?」
「もう一人?」
「夏目さんが見聞きする役ですよね。もう一人の憑りつかれてる張本人というか……」
「何言ってんスか?」
「いや、だから。見聞きする役と憑りつかれてる役の二人でセットでしょ?」
「意味わかんないスけど。オレ一人しかいないですよ」
「一人二役……なんだ」
「二役も三役もよくわかんないスけど、とにかくオレだけですよ」
「まあまあまあ、ちょっと。そっちの話は後にして、まずはウチらの話から進めていいかな」
ガミさんが横から口を挟み、オレ達の会話は中断された。
どういうこと?
一人なんてことあるんだ。
というか、そっちのほうがよっぽど普通っぽい。
むしろオレ達が特殊なケースなのかもしれない。




