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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第五章 八月十日

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2.午後1時(徳之進)

「成仏って……いつするの?」

 オレはキッチンで猫とじゃれ合うカレンに投げかけた。

 捜索依頼のシャム猫がペットゲージに入れられている。


 秋田から戻ってきて今日で五日目だった。

 その間、カレンに何ら変化らしきものは見られない。

 おかげで残りの猫探しはすべて片付いたから感謝ではあるが、そうなるといよいよカレンと一緒にいる理由がなくなってくる。


 葵の手紙を最後に、カレンの『死ぬまでリスト』はすべてやり切ったはずだ。

 それなのに以前と何ひとつ変わらないこの状況に、成仏自体への疑念がふつふつと沸いてきていた。

 それに一つ、気になっていることもある。


《こっちが訊きたいわよ。やることやったら自然と成仏していくものだと思っていたけど。ひょっとして地獄行き、回避できてなかったりして?》

「まさか?」

《そうよね。きっと四十九日までキッチリ待たなくちゃいけないのよ。あと一週間、のんびり待ちましょう。それとも、私が何かすべきなのかしら。魔法陣みたいなの描いて、そっから成仏してくとか》

「そんなライトノベルみたいなことあるかよ……でも、念のためやってみるか?」

《なに、本気にしてんのよ、バカ。魔法陣なんて地獄へ直行しそうじゃない。ねぇ、困った人でちゅねぇ~》

 カレンがゲージのシャム猫に向かって話しかける。最後の依頼のヤツだ。

「オレはどっちでもいいけど」

《私がよくないのよ。もうちょっと親身に考えてよね。どうすればいいのか》


「なあ、気になってたんだけど、カレンを轢いた人、呪い殺してきたんだよな? それが原因で、もう成仏なんてそもそもできない、なんてことあったりしないよな?」

《あ、あの話? 信じてたの? やだ、ウソに決まってるじゃない。呪い殺すことなんて、そんなホラー映画みたいなことするわけないじゃない》

「え、じゃ、なんであんなこと言ったんだよ?」

《そうとでも言わないと、徳之進、引き受けてくれなかったでしょ? 駆け引きよ、駆・け・引・き》

 いたずらっ子のように舌を出してウインクを投げつける。

 なんじゃ、そりゃ。


「ならもう、いっそのこと閻魔様に訊いてこいよ? どうすれば成仏できますかって」

《友達みたいに言わないでよ。どこにいるのかも知らないし。それに会う仏様はいつも違うし》

「どういうこと?」

《言ってなかったっけ? たまに意識を失うことがあって、気がつくと仏様の前にいるってヤツ》

「初耳だよ」

《そうだっけ? その会う仏様が毎回違う仏様なの。私、詳しくないから名前はわからないけど、優しそうな仏様だったり、怖そうな仏様だったり色々》

「仏様? 会って何すんの?」

《特に何も。近況を訊かれるだけ》

「近況?」

《そう。未練は断ち切れそうか。あとどのくらい残っているのか、的な》

「中間報告みたいな感じ? それから?」

《それだけよ》

「そんだけ?」

《それだけ》

「寝ぼけてただけじゃねえの?」

《な、失礼ね。ちゃんと起きてたわよ》

「次いつなのかわかんねえの?」

《わからない》

「結局、待つしかないのか……」

 会話はそこで途絶えた。

 事務所のラジオから流れる曲がスザンヌ・ヴェガの『トムズ・ダイナー』に変わった。

 その無機質なアカペラのせいで、事務所内に乾いた時間が流れていく。


 オレは禅問答に挑むように思考を廻らせた。

 カレンの願いはすべて叶えた。

 やることはすべてやったはずだ。

 他に何をすればいいのか見当がつかない。

 そもそも成仏させるメソッドが合っていたのだろうか。

 カレンの言う『死ぬまでリスト』をやり遂げることが、はたして本当に成仏への道だったのだろうか。 

 もしかしたら彼女はどう転んでも成仏などできなくて、自分達がやってきたことは無駄足だったのではないだろうか。

 だとすると、オレ達の地獄行きは何も回避されていない。

 とまあ、さすがにそうは考えたくない。


 やっぱり何か別の方法だったのか。

 じゃあ今さら他の方法を探すのか?

 どうやって?

 何が正解かもわからないのに見つかるだろうか?

 あと一週間しかないのだ。……無理だって。

 二人の沈黙が続けば続くほど、事務所の乾いた空気は息苦しさを増していった。


 ――コンコンコン。


 しばらく続いていた沈黙を破るように事務所のドアがノックされた。

 お客だろうか?

 新規募集は終了しているとは言え、前に配ったチラシを、今さらのタイミングで持ってくるお客はたまにいる。


 ――コンコンコン。


 一瞬、無視しようか迷った徳之進だったが、重たい雰囲気から解放されたい気持ちが勝りドアに向かった。

 しかしドアは、徳之進が開けるのを待たずに開いた。

「夏目さん。ちょっとお話よろしいですか」

 入ってきたのは黒スーツの二人組。


 一人は金髪。

 もう一人はスキンヘッド。


 忘れるわけもない。

 この間の失礼な刑事二人組だった。

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