2.ストーカー?、の話
「ストーカー?」
「うん。気のせいかもしれないけど」
「誰に?」
「……わかんない」千明は声を落とした。
「心当たりは?」
千明はうつむいたまま首を振った。
「でも、誰かに見られてるような気がして」
「後をつけられたりしてるってこと?」
「実際に見たわけじゃないから、つけられてるかどうかはわからない」
「いつから?」
「ここ一、二週間くらい……」
「無言電話とか、そういうのは?」
「電話は、ない。でも、視線を感じるの」
視線……。ひょっとして写真撮られてたりして?
タダクニは「写真」と言いかけてやめた。
撮られているかもわからないのに、それを口にしたら千明の恐怖心をあおるだけだ。
「もしかして身近な人かもしれないから、お店の人には言いづらいし」
「店のお客さんとか、一番怪しいかもな」
千明はショップで働いている。
お客が店員に好意を抱くことは珍しくない。
タダクニだってそうだ。
たとえば、美容院。
タダクニは特別に難しい髪形をしているわけじゃないので、どこのお店に行ってもたいてい同じように仕上がるのだが、今の美容院に決めた理由の一つは、担当の美容師がタイプだったからだ。
仲良くなって一緒に出掛けたいとか、付き合いたいとか、そんなことまで考えたわけじゃないが、どうせ行くのなら好みのタイプの人と話したりできるほうが楽しいに決まっている。
普通はその程度でとどまるが、もし、それが行き過ぎたら……。
千明は下を向いたまま押し黙っている。
叱られた子供のような顔をして下唇を噛んでいる。
それらしいお客さんの顔でも思い浮かべているのかもしれない。
「一番、視線を感じるのが……部屋なの」
しばらく黙っていた千明だが、言葉を選ぶように慎重な口ぶりで言った。
「部屋?」
タダクニは思わず身を乗り出した。
「だってカーテンは? 閉めてないの?」
「もちろん閉めてるけど……それでも誰かに見られてるような気がして」
てことは、いよいよ盗撮ってことじゃん。
カメラ? ビデオ?
いや、もしそうなら、盗聴もされていると考えたほうがいいだろう。
彼女は一人暮らしだ。
部屋の中に何か仕掛けられているとしたら、のん気にお酒を飲んでる場合じゃない。
街中での隠し撮りなんかとは比べ物にならないほど質が悪い。
「隠しカメラがあったりして?」
言葉に重みが出ないようにあえて軽い口調で言った。
それでも、隠しカメラ発言はかなりの衝撃があったらしく、千明は一瞬目を見開いたかと思うと、瞑目してうつむいてしまった。
もし隠しカメラなり盗聴器が本当にあるとしたら、彼女の留守中に誰かが部屋に入って仕掛けたことになる。
それができるのは合鍵を持った人物。
となると、管理人、不動産屋、親、兄弟姉妹、オレ、元カレ、元カレ? 元カレ!?
「元カレの線は?」
「元カレ……」
「そう。前の彼氏と別れたのって、いつ?」
「タダクニと付き合う半年くらい前。……だからもう三年も前だけど」
「その元カレが付き合ってた時に作った合鍵で進入したとか」
「……それはないよ」
「なんで? わかんないじゃん」
「だって。前の彼氏とは今のマンションに越す前に別れてるもん。引っ越したことも知らないと思う」
「そっか……」タダクニは息を吐いた。
元カレじゃないとすると、他に誰だ? 管理人? それともお店のお客……?
ここでどれだけ考えてても、わかるものじゃない。
ただ部屋に隠しカメラなり、盗聴器が仕掛けられているかどうかは調べたほうがいい。
「とりあえず調べてみよう。隠しカメラが無いか」
タダクニはそう言って、テーブルを立った。




