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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第四章 カレンさん②

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8.線香の香りの中で、の話

 秋田駅からタクシーで約三十分。

 手紙の住所を頼りに着いた先は古びた市営住宅だった。

 A~Eの五つの棟から成る団地のC棟。

 そこの二階に葵の家はあった。


「朝比奈……」

 オレはドア横の表札を見てつぶやいた。

《葵の苗字。間違いない、ここだわ》

 固い表情をして生つばを飲む音が聞こえた。

 カレンの緊張がオレにも伝播しそうだ。


 オレは大きく深呼吸をして、ゆっくりチャイムを押した。

 当然ながら葵と面識はない。

 変なセールスだと怪しまれて鍵を掛けられたら最悪だ。

 慎重に行かねば。

 ただ、そもそも論として今、家に居るのかもわからない。

 何て言うかは決めていた。「モデル仲間のカレンさんに頼まれてやって来ました」ストレートに行く。

 ごちゃごちゃ前置きが長いほど危険だ、ボロが出る。

 笑顔、笑顔。

 ストーカーだと思われないように。

 オレは爽やかな笑顔を心掛けた。


 さてここで、徳之進が〝爽やかな笑顔〟だと思ってやっているそれがどんなものだったかと言うと、非常に硬くかえって恐い印象すら与えるものだった。

 営業マンでもショップ店員でもなく胡散臭い探偵事務所などやっている彼に、急に爽やかさを前面に醸し出せというほうがムチャなのだ。

 そもそもそういう器用さが無いから、リストラ対象にもなるし、その後の転職活動でも連敗記録を更新中なのだ。

 ある程度は適当に肩の力を抜いて臨んだほうがうまくいくことが多い。

 まあもちろん逆にその不器用さによって好感度を与えることもあるにはあるが、今回に限っては恐い笑顔になるくらいなら、無理に笑顔なんて作らないほうが良かったのになぁ、と作者は思うのだが、これは完全な脱線なので話を物語に戻そう。

 ほら、ちょうど玄関ドアが開いたみたいですよ。


 出てきたのは葵ではなく母親だった。

 葵は家にいないみたいで、簡単に事情を説明すると家の中に入れてくれた。


 そして、通された部屋で、オレ達は葵が亡くなっていることを知った。


 こぢんまりした仏壇に、ニッコリ笑った若い女性の写真が置かれていた。

「カレンさんの話は葵からよく聞かされました。テレビや雑誌で見かける度に、私の親友なんだって周りにも自慢してましたから」

「……仲良かったみたいですね」

 とりあえず、話を合わせるしかないじゃないか。

 どうなってんだよ、これ?

 死んじゃってるなんて聞いてねえぞ。


《う、嘘でしょ……》

 カレンも絶句している。


 仲直りするも何も、相手がいないんじゃどうしようもない。

 てか、カレンも葵も死んでるなら、死後の世界で二人で会って勝手にやってくれよ。

 それとも葵は既に成仏して天国へ行ってしまって、地上でウダウダやってるカレンと会うことすらできないとか?

 どっちにしても、葵がいないんだから、今日ここでは何もできないわな。

 とんだ無駄足だ。

 お母さんが出してくれたお茶を飲み終わったら、とっとと帰ろう、帰ろう。


「カレンさんにも是非顔を出してもらいたいわ。この子、すごく喜ぶと思う」

「つ、伝えておきますね」

 なんとなくカレンも死んでいるとは言えなかった。

「闘病生活送ってる時も、絶対に治して会いに行くんだ、治るまでは連絡しない。心配かけたら邪魔になるからって頑張っていたのよ」


《ジャマになんてなるわけないじゃない。バカね……。ていうか、闘病って何のこと? 知らないんだけど。徳之進、訊いてよ》

 訊いてって何て訊くんだよ?

 そもそもオレの立ち位置が全然掴めねえんだけど。

 オレはお線香をあげにきたと思われてるんじゃないのか?

 だとしたら当然、葵が死んでることは承知の上だし、死んでんの知ってるのに、死因は何ですか? ってのも変に思われねえか。


「あの……すみません。自分あんまり詳しく聞いてなくて。葵さんは何の病気だったんですか?」

 結局、素直に白状するのが一番だ。

「あ、ごめんなさい。そうですよね。カレンさんに病気のこと黙ってたみたいだから、お友達も知るわけないですよね。白血病だったのよ、この子」

《白血病って死んじゃう病気なの?》

「高校生の時に発症して、ずっと治療は続けていたんです」

「じゃぁ、東京にいた頃も治療を?」

「してました。本当は東京で一人暮らしするのだって反対だったんですけど、あの子、一度言い出したら聞かない頑固なところあったから。その当時、症状が落ち着いていたし、調子が悪くなったらすぐに戻ることを条件に上京を許したんです。しばらくしてモデルの仕事を始めたって聞いた時は、正直、ダマされてるんじゃないかしらって心配したわよ」

 お母さんが笑いながら徳之進の肩を叩く。オバちゃん特有のノリだ。

「その頃からカレンちゃんの話もよくしてましたよ。スゴい子がいる。絶対に有名になる。私もガンバらないとって」

《そんな……》

 カレンが辛そうに首を振る。

「でも去年。定期検査の数値が良くなくてね。治療に専念するためにこっちへ戻ってきたんですよ」

《そんなことひと言も言ってなかったじゃない……》

「こっちでは入院して色んな薬を試したんですけど、よくならなくてね。結局そのまま……」

 お母さんはそこまで言うと口をつぐんだ。


 部屋に沈黙が流れ、線香の煙が鼻についた。

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― 新着の感想 ―
カレンちゃんの残念ヒロインっぷりが凄い。この話男共の性格良すぎやん。
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