6.マイケル・ジャクソン、の話
《で、あと何匹見つけないといけないの?》
「二十五匹」
《け、けっこうあるわね》
「その内、返金が三日後に迫ってるのが十五匹」
《じゅうご? ダメだったら五十万近く返さなきゃいけないの? お金はちゃんと残してるのよね?》
「使っちまって、無いんだ」
《ご、五十万も何に使ったのよ!?》
「きゃ、キャバクラ?」
《バッカじゃないの、あんた。どうすんのよ!!?》
「そのためにカレンがいるんじゃねえか」
《はぁ? 誰がキャバクラの尻拭いよ。言っとくけど、私、ペット探しは片手間だからね。とりあえずキャンペーンは打ち切りよ》
蔑むような視線に顔を背けずにはいられない。
事務所に戻ったオレ達は、まずはお互いの現状を確認し合っていた。
「カレンの方は何が残ってる?」
《万馬券と役満は叶ったわよ》
マジ?
運頼みのヤツ終わってるじゃん。
《だからあとは、マイケル・ジャクソンと親友の二つね》
「マイケル・ジャクソンはモノマネパブでいいよな?」
《いいわけないでしょ!? バカにしてんの?》
「じゃ、それ以外、どうしろってんだよ? 死んでんだぞ」
《わかってるわよ。だから困ってんじゃない》
リストアップする時に、明らかにできないことくらいわかるだろ。
今さら困ってどうすんだよ。
「今、モノマネもすごいクオリティ高いみたいだし、とりあえずそれで我慢しろよ」
《我慢したら成仏なんてできないんじゃないの?》
「他に方法がないんだから、やるだけやってみるんだよ。よし、わかった! 物販のDVDも付けよう。それで文句ないだろ」
《文句しかないわよ! 何なの、そのジャパネット的な発想は!!? セットにすればみんな喜ぶと思ってるわけ!?》
「まあまあ……。他にやりようがないんだから、つべこべ言わずにこれでやってみよう。それに、本命は親友のほうだし」
《親友……》
カレンの表情が一瞬曇った。
よっぽど気が進まないんだろう。
「だから順番はマイケル→親友の順でいく。いいな?」
――次の日。
朝から夕方までびっちりペットを探して、なんと八匹も確保できた。
一日で八匹は新記録だ。
その後、夕方からは六本木に移動して、有名なモノマネパブに駆け込んだ。
お店の中はそこそこ広く、テーブル席が程よい間隔で配置されている。
満席になれば総勢百人程度は入れそうなキャパシティだ。
その中でもオレは、できるだけステージ近くのテーブルに陣取った。
しばらくするとステージが暗くなり、ショーが始まった。
タモリ、小林幸子、マツコ・デラックスと定番のモノマネだけでなく、マジックやダンスを組み合わせたステージが繰り広げられていく。
モノマネは大きく二種に分かれていた。
一つは瓜二つを目指した本格派タイプ。
もう一つは大袈裟な動きで受けを狙うお笑いタイプで、オレはお笑いタイプのほうが気に入った。
どちらの演者もさすがはプロで、トークの際にはちゃんと笑いも取る。
少しお下品なジョークを織り交ぜたりなんかして、お酒のせいもあってオレは久しぶりに声をあげて笑った。
こんなどうでもいいことで笑ったのいつ以来だろう。
ハッキリと思い出せない。
きっと昔は何にも考えずに、目の前の出来事で一喜一憂していた。
ただ友達とふざけているだけで楽しかったはずなんだ。
何も生み出さないバカな話を夜通ししては、どのツボに入ったのかわからないまま腹筋がよじれるほど転げ笑ったりしていたんだ。
それがいつからこんな風になってしまったのだろう。
他人の目を気にして。
他人と比較して。
自分独自の価値を見出さないといけないと思い込み、もがいて。
でも見つからなくて。
それならせめて普通でいようと繕って。
嫌われないように周りに気を遣って。
バカがバレないように、隠して隠して。
いつの間にか声を出して笑わなくなっていた。
いや、笑うことはあるけど、昔のように無邪気には笑わない。
笑うことにもどこかでブレーキをかけている。
思いのまま大声で笑ったら、バカだと思われるんじゃないかって。
そうまでして周りを気にしても、陰口たたくヤツは必ずいるし。
自分を殺して、時には嫌な思いも笑ってごまかしてきた。
でも、そんな努力とは関係無しに悪いことが続く時は続いた。
お前は不要だとリストラされ、恋人からは裏切られ、貯金も盗られ、顔も思い出せない同級生からは結婚式の招待状という自己満足を押しつけられ、どうにも虚しくなったオレは衝動的に自殺を図った。
って、おーい。
もしもーし。
なに、急におセンチになってんだ?
純文学にでも路線変更しようってのか?
今さらムリだっつうの。
それにここ、モノマネパブだぞ?
五木ひろしのモノマネのどこに感傷をくすぐるポイントがあったんだよ。
徳之進が意味不明のおセンチに浸ってる間に、ステージではお目当てのマイケル・ジャクソンが始まっていた。
キレッキレのダンスに歌は本格派。
離れて見たら本物と見間違いそうな完成度だ。
この完成度なら、カレンも納得するはずだ。
オレは右上に浮いているカレンを見た。
――ギョッとした。
まったく楽しんでいない。
というか、その表情はむしろ不機嫌そのものだ。
帰り道。
《モノマネで満足すると本気で思ったの?》
凍りついたような視線が胸の奥まで突き刺さる。
こりゃトラウマになるヤツだ。




