4.お墓参りにいく、の話(後半)
お墓参りを終え、バス停に戻ると、
《ずいぶんと懐かしい顔だな》
突然、声をかけられた。
声の主はベンチに座っている地縛霊だった。
無視しようか逡巡していた徳之進だったが、地縛霊のほうが続けてきた。
《見えてるんだろ? 知っとるよ》
そう言われてしまえば、聞こえないふりをするわけにもいかない。オレは小さく会釈して応えた。
《墓参りかい? 暑いのにご苦労さんだな》
「ええ、昔の友達のお墓にちょっと」
《羨ましいのぉ。いやぁ、死ぬと孤独でな……訪ねてきてくれるのはありがたいもんだよ》
いや。
孤独なのはあんたが地縛霊だからじゃね?
普通に成仏して天国に行けば、孤独とか無いと思うけどな。
知らんけど。たぶん、そんな気がする。
「あの……昔からずっといますよね?」
《もう七十年近く、このベンチに座っとるよ》
七十年!?
気がついた時には既にいたけど、オレの生まれるずっとずっと前からいたのか。
「誰かを待ってるんですか?」
《息子の帰りを待っとるんじゃ》
「息子?」
《戦争から戻ってくる報せを受けて、喜んでたんだがなぁ……。なかなか帰ってこんわい。どこで油売ってるのやら。バスが来るたびに、降りてくるかもしれない。そしたら何て声をかけようか。毎回、緊張するんだ。……それを繰り返して七十年経っちまった》
それ、ずっと待ってんの? もう帰ってこねえよ。
でもそれを受け入れられない、待ち続けるしかないのが、地縛霊なんだ。
「……早く会えるといいですね」
オレはお定まりなセリフを返すことしかできなかった。
《ひと目見るだけでいい。そしたら素直にあの世に行くんだけどな。それが叶わなけりゃ成仏できん》
いや、あの世に行ったほうが、よっぽど会えると思うが。
《一度だけ成仏できるチャンスがあったのに逃しちまったしな》
「チャンス?」
《まだ死んで間もない頃じゃがな、閻魔様から取引を打診されたことがあってな。近しい人を地獄へ落とす代わりに成仏させてやる、なんて言われたんじゃが……。さすがに、そんな自分勝手な悪魔みたいなことできんじゃろ? けど今思えば、やっときゃ良かったって思とるわ》
おいおい、デジャヴかよ。どっかで聞いたことある話だ。
まさかホントだったのか!?
腰掛けているベンチがグニャリと曲がり、地面の奥へどんどん沈んでいくような感覚になる。
《そういえば、十年くらい前に一家揃って一人の人間に地獄行きをなすりつけた、なんて魔族みたいな家族がいたなぁ。やられたほうはたまったもんじゃないな》
「一家揃って一人に?」
《おう、そうよ。あれは鬼畜だったな。仲田とかって名前だったかな。当時、霊界じゃぁけっこう話題になったもんだ》
ナカダ?
ケンちゃんの苗字と一緒だ。
ケンちゃん家が一家心中したのは十年前。時期も一緒だ。……偶然?
ふいにカレンの言葉を思い出した。
――たしか『ナガタ』とか言ってたわよ。生前、よっぽど恨み買ってたんじゃない?
ナガタ……ナガタ……ナカダ……。
仲田じゃねえかよ!!?
ケンちゃん家は五人家族だった。
一人当たり一〇〇ポイントとして、掛ける五で五〇〇ポイント。カレンの話とピタリ合う。
その鬼畜の矛先って……オレじゃね? いや、間違いなくオレだ!
《おい。大丈夫か? 真っ青な顔しとるぞ?》
マジ言っちゃってんの? ケンちゃん一家じゃねえか!!?
なんで!?
オレが何したってんだ!!?
今、お墓参り行ってきたばかりだぞ。お花、返せよ、バカヤロウ!
この話がマジだとしら、オレは何をしたらいい?
どうすれば救われる?
――信じるも信じないも徳之進次第だけど。
カレンの勝ち誇った顔が脳裏を走った。
会わなきゃ。カレンに会わなきゃ!!!
会って、この呪縛を解かなきゃ!!!
バスの時刻表と腕時計を見比べる。まだ三十分くらいやって来ない。
早く来い、バス!!
一時間に二本しかやってこないバス便。
時刻表を睨みながら、オレは貧乏揺すりを止められなかった。




