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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第四章 カレンさん②

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2.信じたオレがバカだった、の話

《何なの、あの態度? 入り口に塩でも撒いといたほうがいいわよ》


 刑事二人が帰った事務所で、カレンは一人憤っていた。

 身に覚えのない殺人の容疑者になっているのだ。

 気持ちはわかる。わかるが――、


《お塩、流し台のほうかしら?》

「詐欺って、どういうこと?」

 キッチンで調味料を物色するカレンの背中に投げかける。

《お塩くらいあるでしょ、どこ?》

「聞いてる? おい?」

《もう。無いならこれでもいいわ》

 カレンが味の素を指さす。

《同じようなものでしょ、塩も味の素も。あんな失礼な二人、清めといたほうがいいわ》

「なあ、どういうことだよ?」

《せっかく今、お客さんがいっぱい来て、上り調子になってるっていうのに、縁起でもない。徳之進、ほら、ボーッとしてないで味の素、玄関に撒いて。私、できないんだから――》

「答えろよ! 詐欺って何だよ!? 結婚詐欺師だったのかよ!!?」

 オレは思わずがなり立てた。

 普段からあまり大声とか出さない性格のせいで、ボリュームの調節がうまくできず、想定以上の馬鹿デカい声が出ちまった。

 カレンはビクッと固まってしまっている。


「主犯格って本当なのかよ!?」

《な、何かの間違えに決まってるじゃない……。やだなぁ、徳之進。落ち着いてよ》

「本当なのかって訊いてんだ」

《あ、あんな二人の言うこと信じるの?》

「少なくとも警察だしな。信憑性は高いだろ。写真まで持ってたし」

《ホントに警察だったのか、怪しいじゃない。あんなヤクザみたいな人達》

「じゃあ、何しに来たんだよ。趣味で殺人の捜査でもしてるのかよ?」

《そ、それこそ探偵……なんじゃない?》

 髪の毛を弄りながら答えるカレンは、オレと目を合わせようとしない。

 明らかに何か隠している。


 オレがジト目を向けて黙っていると、やがてカレンは観念したように、

《あの……ごめんなさい。隠してて。……でも、徳之進の結婚詐欺とは関係ない。それは……信じて欲しい》

 ポツリと言った。


 ……マジかよ。結婚詐欺師なわけ?


 金属バットで脳天をフルスイングされたような感覚だ。

 この十日余りの出来事が頭を駆け巡る。

 突然、枕元に現れて、見せた笑顔。

 ドカベンの途中で、飽きて欠伸をしているカレン。

 ボーリングのストライクではしゃぐカレン。

 メイドにビンタされるオレを見て笑うカレン。

 ペット探しに能力を発揮するカレン。

 見つける度にピースとドヤ顔を向けてくるカレン。

 一つ一つが一気にフラッシュバックする。


 ほんの十日前は、自殺を図るほど人生に絶望しか感じていなかったオレだったが、この数日で少し変わっていた。

 大量に舞い込んでくるペット探しの依頼に、日常は目まぐるしく振り回され、絶望を意識する暇もなく時間が過ぎていく。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 正直に言おう。


 楽しかった。


 カレンと一緒にいることがシンプルに楽しかった。

 少し違うかも知れないけれど「これがリア充ってヤツか?」と思い始めていた。

 生きることに喜び、楽しみを感じ始めていた。


 なのに、バカみたいだ。


「結婚詐欺師なの?」

《……黙ってて、ごめんなさい》

「また騙されてたんだ、オレ」

《や、違うわよ。騙すとか、そんなつもりはなかったし》

「同じことだろ! 黙ってたんだから。それにオレが結婚詐欺に遭ったこと知ってたよな? それでよく今まで一緒にいたよな。完全にピエロじゃねえか、オレ」

《違うわ。信じて》

「何が違えんだよ!? オレの心境の変化を一緒に喜んでるように見せて、内心じゃケラケラ笑ってたんだろ!?」

《騙すとか、笑うとか、そんなつもりはないわ。徳之進の変化は素直に嬉しかった》

「そんなの信じられると思うか? 今更、何とだって言える」

 カレンが泣きそうな表情で下を向く。

 詐欺師なんだ。

 これも演技なんじゃねえのか?

 これ以上、騙されてたまるか。


「……ホントは殺しもやったんじゃねえのか?」

《やってるわけないでしょ!!? ここに一緒にいたんだから。徳之進だってさっき言ってたじゃない!?》

 さすがに今の発言は無いな。言ってから少し後悔した。

 でも、もう遅い。

 言ってしまった。今さら後戻りはできない。

「別にここにいようが、死んでいようが、呪って殺すこともできるんだろ?」

《それ、本気で言ってるの? ……ひどいよ、徳之進》

 カレンが鼻をすすり上げる。

 演技なのかマジなのか、判別がつかない。

 でも、ここで折れたら、負けだ。

「とにかく出てってくれ! あんたが成仏しようがしまいが、そもそもオレの知ったことじゃないし。これ以上、協力する気もない。消えてくれ!」

 オレは、キッチンにあった味の素を手に取り、カレンに向けて撒き散らした。

《ちょっ、何すんのよ!!? 消えたらどーすんのよ!?》

「消すためにやってんだ。どっかで浮遊霊にでもなっちまえばいいんだ。地獄に行かなくて済むんだから一石二鳥じゃねえか」

《性格悪過ぎ!!? だから彼女もできないのよ》

「今、そんなこと関係ねぇだろ!」

《関係ないわよ。でもね、こっちは地獄行きになるかどうかの瀬戸際なの。どんな悪あがきだってするわよ》

「知るかよ。他所でやってくれ」

 オレはもう一度、味の素を撒いた。

《やめなさいよ、それ! 忘れてない? 私、呪い殺せるのよ?》

「どうぞ、どうぞ。もともと死ぬつもりだったんだ。何の問題もない」

《地獄に落ちるとしても?》

「はぁ!? オレが地獄に落ちる理由なんか何もないわ。あんたと違ってまっとうに生きてきたからな」

《まっとうって……わかった。教えてあげる》


 意を決したような彼女の表情に、オレは一瞬、寒気を覚えた。


《よく聞きなさい、徳之進》


 何だよ、そんな顔して。


《あなたも……このままだと地獄行きなのよ》

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