1.カレンならここにいます、の話
え、どういうこと?
カレンに視線を向けたが、彼女は首を振っている。
「この人も詐欺集団なんですか?」
「ご存じですか?」
ご存じも何も、ここにいるじゃねえか。
でも、詐欺集団の主犯格ってどういうことよ?
困惑を抑えられないオレの表情を見て、刑事が話を続けた。
「知ってるんですね。実は、グループ内でいざこざがあったようで、最初に見せた女性が一週間前に殺されました。で、こっちの女性は、その容疑者です」
ますます混乱してきた。
詐欺だけじゃなくて人殺し?
殺したのはひき逃げ犯じゃなかったのか?
カレンを見た。気のせいか、微かに頬が痙攣しているように見える。
「どうして彼女が容疑者なんですか?」
「どうして? と言うと?」
しまった。
これじゃ、知り合いですって言ってるようなもんだ。
「いや、深い意味はないですけど……」
オレは口ごもった。
「詐欺集団なんて、お互いの利権だけで繋がっていますからね。ちょっと美味しい話があれば、裏切りなんては茶飯事でしょう。彼女が死体で見つかったのが、一週間前。こっちの女性はその少し前から姿を消してるんです。関係ないとは思えないでしょう」
ちょっと待て。
カレンがオレのところにやって来たのが十日前。
一週間前なんて、既に死んでるんだから殺しようがないじゃないか。
てことは、これは冤罪か。
カレンは無実の罪を着せられようとしている。
ただもう一つの『詐欺』のほうは?
カレンは結婚詐欺師なのか?
そこはクリアになってない。
「何か知ってるなら話してください」金髪が威圧的にふっかけてくる。
いちいち勘に障る態度だ。協力する気も失せてくる。
「彼女はやってないと思いますよ」
「ほほう? その理由を聞かせてもらえますか?」
「……今から言うことを信じてもらえますか」
金髪が面倒臭そうに頷いてくる。
何でもいいから早くしろ、とでも言いたげに。
「彼女はここにいるんです。そして一週間前もオレとずっと一緒にいました」
「な!? どこにいる? 出せ!」
金髪が事務所内を見渡す。
「ここですよ、ここ。彼女は、ここに幽霊として立っています」
オレはカレンのいる空間を指さした。
「……幽霊?」
「そう。幽霊」
オレは今までの経緯を簡単に説明した。
十日前の夜中にカレンが枕元に現れたこと。
成仏の手助けを頼まれていること。
そして今は、探偵業(と言っても、ペット探しだけだが)を一緒にやっていて、カレンが作ったチラシ効果で繁盛していること。
新規のお客さんがやってきたと思ってドアを開けたら二人で、今こうやって話をしていること。
そんな浮世離れした話を、オレは大マジメな目をして話した。
真剣に話せばきっと伝わると信じて。
それにこれは小説。どんなにバカげた話でも、信じるか信じないかは作者次第なわけで。
そういう意味では、ここは信じてもらいたい展開だから、いずれにしたって信じてもらえると決まってる。という裏事情を書いてしまうのは御法度なわけで、話を徳之進達のいる事務所に戻そう。
金髪が眉間に皺を寄せ、千春は口をあんぐり開けてお互いの顔を見合っている。
鳩が豆鉄砲を喰らった顔とは、まさにこれだろう。
しばらく黙っていた二人だったが、
「テメえ、ふざけてんじゃねえぞ!! おちょくっとんのか!!?」
金髪が堰を切ったように声を荒らげた。
全然、信じてもらえてねえ!
どうなってんだよ、さ・く・しゃ?
「ケージ、落ち着け」
「いや、落ち着けるわけないっしょ? バカにしやがって、んノヤロー」
そうでしょうとも。普通そうなるわな。
容疑者のことオレ、知ってますよ。 え? なんで知ってるかって? だっているんだもん、ここに。え、見えない? そりゃぁ、死んじゃってるから見えませんよ。なんてったって幽霊ですから。からかってるのかって? いやいやいやいや、ホントにいるの、ここに。気配を感じません? 感じないって? うん。見えなくても感じなくてもいるの、ここに。さぁ、信じるか信じないかは……あなた次第。
これで、素直に信じたら、逆に凄えわ。
作者の筆力に委ねたオレが間違いだった。
ていうか、金髪の名前『ケージ』って言うのか。
思わぬところで判明したな。
「とにかく落ち着け! 詐欺に遭って、ちょっとここを……」
千春が人差し指をこめかみの辺りにトントン当てる。
それを受けて金髪も気の毒そうな表情を浮かべる。
そういう展開?
オレ、頭おかしい人になってんじゃん。
ちょっと弁解させろよ。
「信じられない気持ちもわかります。ただ実はオレ、昔から霊感があって、幽霊とか見えるんですよ。だから今回も――」
「わかった、わかった」
千春が視線を合わせず頷く。
全然、わかってねえよ!
その後も散々弁解を試みたが結局、憐れむ視線を残して刑事二人は足早に帰っていった。




