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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第一章 ヤナギさん①

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1.席なんか譲るんじゃなかった、の話(後半)

 さすがに、これはひど過ぎか。もう少し希望があってもいいかもしれない。

 でも、ツイてないんだよなって時は、たいてい二つ三つ、嫌なことが続いたりするものだ。


 今日のタダクニもそうだった。


 午前中。

 会社でたまたま取った電話がクレームの電話で、自分が担当じゃないのに三十分捕まりひたすら謝り続けた。

 そのせいで会議に遅れて、上司からも怒られた。昼食のタイミングを失い、やっと時間を見つけたのが三時頃。

 やれやれと思いながらコンビニでお弁当を選んでレジに並ぶまでしたが、財布を忘れていて「サザエさんかよ」と独りごちた。

 それに加えて、目の前の松葉杖だ。


 どうも流れがよくないよなと、タダクニ自身も感じていた。


 五十海タダクニ。

 二十六歳、中堅どころの商社に勤めるサラリーマン。

 彫の深い顔立ちをしていて、元陸上部のような爽やかな雰囲気の持ち主。いや、実際に陸上をやっていたわけではないが。

 背は一七三センチと決して高くはないが、細見のせいか「もっと高いと思ってた」と実際の高さを言うと驚かれることが多い。


 新宿駅で電車を降りたタダクニは、東口へ向かった。

 これから彼女と飲みに行く予定なのだ。


 駅前広場はいつだって人が多いが、金曜日の夕方はそれが三倍に跳ねあがる。

 行き交う人、人、人の大群。喫煙エリアでは喫煙者が入りきれずにあふれ出ている。

 大声で話している待ち合わせ中の集団も多数。

 その群衆にビル上層の大型ビジョンから最新のCMが大音量で降り注いでいる。

 タダクニはそんなカオスをかいくぐって進み、バス停付近でスマホをいじっている彼女を見つけた。


「お待たせ」

 タダクニの声に顔を上げた彼女は、「お疲れ」と白い歯を見せた。


「ごめん。待った」

「ううん。わたしも今来たところ。ちょうどラインしようと思ってたとこ」

「あ。ほんと。なら、よかった。じゃあ、行こうか」二人は歌舞伎町のほうへ歩きだした。


 彼女とは付き合い始めてそろそろ二年になろうとしていた。


 立花千明。

 二十三歳、下北沢にある骨董品屋のショップ店員をしているフリーター。

 一五〇センチと小柄な身長に、肩まで伸びた栗色の髪。切れ長だが若干タレ目がちのせいもあって親しみやすい雰囲気を持っている。若い頃のアン・ハサウェイを和製版にしたような子だ。

 そして、タダクニと同じメドゥーサというロックバンドのファンでもある。


 二人の出会いもメドゥーサがキッカケだった。


 二年前のメドゥーサ東京公演の日。

 タダクニは基本、ライブにはソロで参戦するタイプで、ライブ終了後も、見かけたライブ仲間とその日の興奮をひと通り共有まではするものの、彼らとは合流したりせず帰宅するのがいつもの流れだった。


 その日も一人帰路へついていたタダクニだったが、ライブの興奮と高揚感をもう少し長く感じていたくなり、乗り換えの駅で途中下車して喫茶店に入った。

 そこでライブのフライヤーや購入したグッズを広げ、誰かが早速あげているセットリストが載ったSNSなんかをチェックしながら、一人、ライブの余韻に浸っていた。

 その時、たまたま隣のテーブルで同じフライヤーを眺めていたのが千明だった。


 メドゥーサはお世辞にも売れているバンドとは言えない。

 知り合いにバンド名を言っても知っている人に会ったことがない。

 ライブ会場ではあんなにファンがいるのに、会場を一歩出て日常に戻れば、「なんて知名度が無いんだ、このバンドは」と自嘲してしまうほどファンになんか会ったことがない。


 だから同じライブに参加していた人が自分の隣りにいることに、タダクニは大きく動揺した。


 仲間、同士を見つけた喜びに加えて、ライブ後の浮かれた気持ちも後押ししたのだろう。

 普段、ナンパとかそういったものには無縁のタダクニだったが、思わず彼女に声をかけていた。


 千明のほうも同じような感覚だったらしく、話は大いに盛り上がり、二人はすぐに打ち解けた。

 それからカラオケや買い物とデートを繰り返し、自然の流れで付き合い始めた。


 しかしここ最近、二人の仲はぎこちないものになっていた。

 原因はタダクニにある。


 二か月前、タダクニはライブ仲間からメドゥーサのライブチケットが一枚余ったということで譲り受けた。

 千明に話そうか迷ったが、一枚しかないチケットの話をしても相手をがっかりさせるだけだと判断して、ライブには黙って行くことにした。

 そのことが他のライブ仲間から千明に漏れたのだ。


 キッカケなんていうのは、いつだって些細なことだ。

 

 それ以来、二人の仲はおかしくなった。


 千明は心に一物を抱えているような表情を時折見せるようになり、タダクニのほうも千明と一緒にいると息が詰まるように感じる時間が多くなった。


 せっかくの休みにわざわざ気の重い相手と会うよりは……、と一人で過ごす週末がだんだんと増え、ラインのやり取りは日に一、二回にまで減った。電話にいたってはもう一週間していない。


 そして昨日の夜。

 千明からラインで「相談がある」と呼び出されたのだ。


 ――ついに来たか、別れ話。

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― 新着の感想 ―
同じバンドを好きで、そこから付き合うのって、同じ趣味を共有できていいですよね♪ あぁチケットが2枚あればよかったのにね…(ToT)
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