9.クラウンの中で、の話(後半)
女だってできる!
映画でアンジェリーナ・ジョリーやミラ・ジョヴォヴィッチがやってるじゃないか。
タダクニは隣で蒼い顔をしている千明の腕を見た。
色白で、か細い腕だ。……やれるわけがない。
「あの。どこ向かってるんですか」
タダクニは素直に訊いた。
「ん? まあ、そんなことよりちょっと話があるんだ」
「……話?」
「そう、話」
やっぱり金か?
いくらふっかけられる?
十万? 五十万? まさか百はないだろう……。
戸惑うタダクニを見ながら、ガミさんは怪しく口の端をあげた。
「兄ちゃん達さ、さっき幽霊がどうしたとか話してただろ。あれ、詳しく教えてくれよ」
「幽霊……?」
「そう。幽霊が何だとか、地獄がどうだとか話してただろ?」
「あ、あれですか。あれは、そういうんじゃなくて、何て言うか、その……ていうか、オカルト好き……なんですか」
「そんなんじゃねえよ。まさかだけどな、それ……」
ガミさんは一瞬間を置いてから続けた。
「幽霊に成仏の手伝いを頼まれてるって話じゃねえか?」
タダクニと千明は目を合わせた。
予期せぬ発言に、ヤナギさんも狐につままれたような顔でこっちを向いている。
「え、どうして……」
「やっぱり。まさか本当だったのか、あの与太話」
ガミさんが小さく呟く。あの話って?
「どういうことですか?」
「同じようなこと言ってるヤツを知ってんだよ」
「マジっすか!」
「ああ、マジだ」
「誰ですか? どこにいるんですか?」
その人に会えれば何かヒントが見つかるかもしれない。ヤナギさんを成仏させるヒントが。
「落ち着けって。まずはこっちの質問だ。そいつは……その幽霊ってのは、まともに会話とかできんのか」
「会話ですか? ちゃんとできますよ」
「こっちが何言っても『うらめしや』とか『殺す』とか、ちっとも話にならない、とかじゃないんだな?」
「ええ。普通に話してますよ」
おかま口調ですけど。
「そっか……」
ガミさんは顎ヒゲを触りながら、思いふけるように遠くを見ている。
そして、何か思いついたように、ニヤッとして言った。
「ケージ。夏目のとこへ行くぞ」
「ナツメ?」
「その同じこと言ってるヤツに会わせてやるよ」
え、マジで?
急展開!
お金目的じゃないのか?
緊張が少しだけ緩む。
「まあ、オレ等も用があるからな。気にするな」
気にはします。
なんで急に協力してくれることになったんだ。
後からやっぱりお金とか言ってはこないよね?
「で、どんなヤツなんだ?」
「え?」
「だから、幽霊だよ。どんなヤツなんだ。いるのか、ここに」
助手席のヤナギさんと目が合った。タダクニはヤナギさんの説明をした。
「おかまかよ! 死ぬ前から化け者だっつってな。ギャハハハハ」
《ちょっと何なの、この人。失礼じゃない。自分は海坊主みたいな顔してるくせに!》
「で、いつまでなんだ? その期限ってヤツは。成仏の期限」
「それが、今日なんです」
「今日?」
ガミさんが甲高い声を出す。
「何やってんだ、お前ら。今日って、あと半日しかねえじゃねえか」
「はい……」
「それでさっき揉めてたのか。もう時間が無いって」
半分正解。
あと半分は……。タダクニは千明をチラッと見た。もっと面倒くさい事情だ。
「じゃあ、あんまりゆっくりしてられねえな。ケージ、急いでやれ」
金髪が軽く頷くと、クラウンのスピードが上がった。
さすがの高級車。
音も静かで、揺れもない。
なんて感心してる場合じゃないっての。ついてって大丈夫なのか?
ただ、かと言って、今のオレ達に他に何かいい方法はあるのか?
カントリーロードで来るかもわからない両親を待ち伏せする以外に何の策もない。
それに、両親が来るとしてもきっと夕方だろう。
タダクニは腕時計を見た。十一時を回ったところだ。まだ時間はある。
そこにヒントがあるかわからないけど賭けてみる価値はある。あるが、何だろう。
嫌な予感しかしない。
本来、座り心地のいいはずのクラウンのシートが、妙に心地悪く感じた。




