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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第三章 ヤナギさん②

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5.立派な悪霊。いや、悪魔だよ!の話

《閻魔様って知ってるでしょ?》

「あの閻魔大王のこと?」

《うん。その閻魔様にぼく、この間会ったのよ》

「ホントにいるんだ」

《その時の話なんだけど……》

 ヤナギさんはぽつりぽつりと語り始めた。


 実は今までに会ったのは閻魔大王だけというわけじゃないそうだ。

 死んでから一週間ごとに色んな仏様と会っていた。

 意識が遠のくような感覚に襲われ、気がつくと仏様の目の前にいるのだそうだ。

 不動明王だとかお釈迦様だとか、聞いたことのある仏様が週替わりに現れ、その五人目が閻魔大王だった。

 十メートルはありそうな巨体に強靭な肉体。

 何をそんなに怒っているのか、阿修羅のような顔つき。

 鋭い眼光を放つ目はつりあがっている。

 基本的に口は真一文字に閉じているが、ひとたび口が開いた時は、雷を落としたような全身に響く声を出す。


 そんな大魔神のような閻魔様を面前にして、ヤナギさんは芯から震えあがってしまったらしい。

 そこでは天国へ行く条件を再確認させられた。

 もちろん未練を絶ちきることだ。

 その条件がクリアできなければ地獄へ落ちるか、あるいは、浮遊霊として永遠にさ迷い続けるかのどちらかになるという確認。

 成仏できずに永遠と孤独にさ迷うのだから、浮遊霊も地獄と同じようなもんだ。


 そして閻魔大王は次のようなことを言ったそうだ。


「もうひとつ方法がある。今、お前の成仏に協力している二人の人間がいるが、その二人を地獄へ落とす。そうすれば、代わりにお前は天国へ行ける。これは二人の命を奪う、という話ではない。ちゃんと寿命はまっとうしてもらう。ただ死後の行き先が地獄に決まっている、というだけのことだ」


 もちろん、そんなことできるわけないじゃないってヤナギさんは思った。

 思ったけど、震えあがっている彼がそれを口に出して、目の前の大魔神に反論することなどできるはずもなかった。


「天国へ行きたいだろう?」

 全身に響く問いかけに、ヤナギさんはぶるぶる震えながら、ただただ頷いた。

「よし、じゃあそのように手続きしておく」

 閻魔様は一瞬、不敵な笑みを浮かべたように見えたそうだ。

「いづれにしても、まずは未練を絶ちきるように努めることだ。それがダメだった時には、二人を地獄へ落とせばいい。ただし、その覚悟は早めに決めておいたほうがいい」

 閻魔大王がそう言うと、辺りはだんだんと霧に包まれ、何も見えなくなった。

 次に気がついた時にはいつもの世界に戻っていたらしい。




「なんでそんな話になっちゃうんだよ」

《ごめんなさい》

「謝ればいいってことじゃねえだろう」

《……ごめんなさい。悪いことしたと思ってるの》

「当たり前だよ! なんでオレ達が地獄行きなんだよ」


《さ、さあ……なんでかな……》


「お前のせいだろうが! 何が、さあ? だよ」

 ふざけんじゃねえよ、とタダクニはアイスコーヒーを乱暴に口へ含んだ。


「ていうか、『そのように手続きしておく』って何の手続だよ」

《ぼくが天国へ行けるよう……》

「オレ達が地獄へ落ちるようにだよ!」


 何だ、それ……。

 タダクニはイラつきを隠さず後頭部をごしごし掻いた。


「悪霊だよ、悪霊。あの住職の言ってた通りだ。どうしてオレ達が地獄行きなんだよ」

 ヤナギさんは肩をすくめたまま黙っている。

「つーか、その話になった時、なんで何にも言わなかったんだよ。普通、何か言うだろう。意味わかんねえよ。ったく」

 タダクニは舌打ちして続けた。

「りっぱな悪霊だよ。悪い霊と書いて悪霊。いや、死神、悪魔だよ」


《……何もそんな言い方しなくたっていいじゃない》


「はあ?」

《仕方なかったのよ、あの時は……》

「何が」

《だって、しょうがないじゃない! タダクニくんは閻魔様を見たことないからそんなこと言えるのよ。あんな大魔神みたいなの目の前にしてみなさいよ。誰だって何も言えなくなるわよ》

「なに、開き直ってんだよ。そもそも自分が悪いのになんだよ、その言いぐさ」

《悪くないわよ、ぼくは》

「どう考えたって悪いだろ。自分でも悪いと思ってるって言ってたじゃねえか、さっき」

《言ってないわよ》

「言ったよ」

《言ってない》

「言った」

《言ってない》

「言った」

《言っ……あれは、気の迷いよ》

「気の迷い、だとお? 人の地獄行き決めといて、気の迷い、だと!」

《だから、何度も謝ってるじゃないの。それをネチネチネチネチ……心が狭いのよ!》

「ふざけんじゃねえよ。なに好き勝手言ってんだ。自分のこと棚に上げて」

《上げてないわよ》

「思いっきり上げてんじゃねえか」

《上げてな――》


 ――いの……。


 え?


 タダクニとヤナギさんは声のしたほうへ視線を向けた。


 千明がうつむいたまま肩を震わせている。


「ヤナギさんて……守護霊じゃないの……?」

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