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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第三章 ヤナギさん②

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3.見えてる? いや、見えてない、の話(前半)

 法事は粛々と進んだ。

 住職がやってきて、ヤナギ父が本堂のみんなに簡単な挨拶を済ませると住職が読経に入り、お焼香が始まった。

 最後尾にいたタダクニ達の順番はなかなか回ってこず、待つ間に何度も足が痺れたり、お香の匂いとたちこめる煙のせいで、低音の読経が頭の中に直接響いてくらくらしたりしながらお焼香は進んでいった。

 足が痺れる度に小さく足を崩してはごまかし、崩してはごまかした。

 だがそれも、もはやごまかしきれないほど限界に近くなっていた。

 やっとタダクニの順番がやってきたのは、これ以上、正座していたら膝がどうにかなっちまうよ! というギリギリのところだった。


 助かった、という安堵とともに今度は、立てるのか? という不安がよぎったが、不思議と普通に歩くことができた。

 ヤナギ母とヤナギ父の前で軽く一礼してお焼香台の前につく。


 スマホで予習してきたお焼香の手順は、いざその場についてみるとすっかり頭から飛んでいた。

 つまんだ抹香を眉間の前に持ってきて香炉へぱらぱらと落とす。

 何も考えずにそれを二回繰り返して、手を合わせてさっさとその場を退いた。すぐ後ろに控えていた千明と目が合った。

 タダクニは小さく微笑んで、お先、と口許だけ動かすと、もといたところへ戻っていった。


 いや、正確には、戻る途中で足が止まった。

 それまで低音を響かせながら、流れるように読まれていたお経が、突然止んだからだ。


 振り返ると、今まで本尊の前でお経を読んでいたはずの住職が、お焼香台の前に立っていた。

 より忠実に描写をするならば、口を真一文字に結んだ金剛力士が、坐する千明をかっ開いた眼で見下ろし、文字通り仁王立ちしている、といったところか。

 いや、ごめん。ぜんぜん忠実じゃなかった。

 でも、状況はそんな感じだ。

 つまり、住職が険しい表情を浮かべ、香炉の前で正座する千明を見下ろしていた。

 何ごと? と本堂のみんなも千明と住職へ視線を集中させていた。


「みなさん、少しお時間をいただきます。こちらに少しおかしな霊がまぎれ込んでいます。すぐに除霊しますから、お時間をください」


 そう言って住職は、千明の真上の空間を睨んだ。

 その視線の先には、ヤナギさんがいる。


 え?


 何?


 見えてるの?


 ヤナギさんはガタガタ震えている。

 千明は下を向いて固まっている。

 本堂は一様にざわつき始める。


 見えてる?

 あの住職、ヤナギさんが見えてるのか?

 ……いや、見えてない。

 目線が合ってない。微妙にズレてる。おそらく、気配だけがわかる、そんな感じだ。


「千明!」


 タダクニは踵を返して駆け寄った。

「お連れさんですか? すみません、こちらの方に邪悪な霊がとり憑いています。すぐに取り払いますから、ご安心を」

「邪悪?」

「ええ。ですが、安心してください。すぐに除霊しますから」

「除霊……」

「大丈夫です。除霊したあとは冥界へいざないます。他の人にとり憑いたりはさせません」

「冥界って……」

「冥土です。わかりやすく言えば、地獄です。悪霊は地獄へ送ります」

 そういうこと訊いてんじゃねえよ。

 ヤナギさん、成仏させるためにここに来てるのに、地獄に送ってどうすんだよ。

「お嬢さん、しばらくそのままじっとしていてください。お連れの方は少し離れて」

 それから住職は瞑目して両手を組むと、


「臨、兵、闘、者……」


 おいおいおいおい。なーんか唱えだしたぞ。

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