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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第三章 ヤナギさん②

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1.宇都宮からの帰り道、の話

 四十九日――。


 人は亡くなってすぐにあの世へ往くわけではない。

 しばらくはあの世とこの世の間をふらふらとさ迷っている。

 この何とも宙ぶらりんの状態は四十九日間続き、それが明けるとやっとあの世へ旅立つ。

 すなわち成仏した者は極楽へ往き、その他の者は地獄へ落ちるのである。

 この旅立ちを見送ろうじゃないか、と知人みんなで集まるのが四十九日という法事である。

 ちなみに、強い未練や無念を抱えた者の中には、あの世へは往かず地縛霊や浮遊霊となって、あの世とこの世の間をいつまでもさ迷い続けている者もいる。


《つまり、四十九日までに成仏できなかったら、地獄へ落ちちゃうってことなのよ》

「ヤナギさんの場合は、未練が残ってずっとさ迷い続ける、ってほうじゃない、浮遊霊として」


 宇都宮から帰る新幹線の中である。

 スマホで『四十九日』をネット検索して出てきたページを、タダクニとヤナギさんは見ていた。

 千明は疲れたのか、隣で寝息をたてている。


《浮遊霊なんて嫌よ、そんなの。気持ちが悪い》

「気持ち悪いって言ってるけど、今がすでにその浮遊霊ってことなんじゃないの」

 タダクニは周りを気にしながら小声で言った。

 千明が寝てしまった今、ヤナギさんと会話をするタダクニは、独り言をしゃべっているネジの二、三本足りない人にしか見えないからだ。

《違うわよ。ちゃんと読みなさいよ。今のぼくは、宙ぶらりんのふらふらりってとこでしょう》

「同じようなもんだろ」

《ぜんぜん違うわよ。ったく、しょせん他人事なんだから。もっと真剣になってよね。タダクニくんだけが頼りなんだから。ホントに浮遊霊になっちゃったらどうすんのよ》

「……うん」

《タダクニくん、あなた今、別にどうでもいいやって思ったでしょう。ぼくが浮遊霊になっても、どうでもいいやって》

「思ってねえよ」

《変な間があったじゃない。絶対に思ったわよ》

 ヤナギさんは口を尖らせた。

《友達じゃないけど、浮遊霊になんてなったら、ずーっとタダクニくんにまとわりついてやるからね》

「なんでだよ」

《他に話す人いないんだから、しょうがないでしょう。暇つぶしの相手になってもらうわよ。永遠にね!》

「バカじゃねえの」

 そんな相手してられっかよ。


 でももし……。


 成仏に失敗したら、ヤナギさんは千明にずっと憑いたままってことになるんだろうか。

 てことは、この先、千明と会う時はもれなくヤナギさんも一緒についてくるってわけだ。

 飲みに行っても、買い物に出掛けても。ライブに行く時も、ケンカをした時も、そしてもちろんアノ時も。いつもそこにはヤナギさんがいる。


 冗談だろ。


 タダクニは隣で寝ている千明を見た。

 これはもうヤナギさんだけの問題じゃない。

 オレと千明の問題でもある。

 今になってようやくそのことにタダクニは気がついた。


「冗談は抜きにして、次はちゃんとカミングアウトして成仏してもらわないとな」

《あら。やる気になってくれたの》

「死ぬまで付きまとわれるよりマシだよ」

 タダクニは鼻を鳴らした。

《ぼくだって浮遊霊になんかなりたくないわ》

「そのためには、とにかく今度の四十九日。しっかりキメないと」

《そうよね。その後はないんだもの。文字通り、ラストチャンスよね》


 ラストチャンス――。

 もしそこで失敗したら……。


 タダクニはかぶりを振って、それから先を考えるのをやめた。


 失敗はない。

 絶対に成仏させる。

 意地でも。

 タダクニは心の中で強く呟いた。




「ねぇ、少しだけ買い物してかない?」

 千明の提案で、帰り道、オレ達は新宿に立ち寄った。


 そこでオレ達は事件に遭遇した。


 始めのそれは、新宿の喧騒に紛れたひとつの叫び声でしかなかった。


《タダクニくん、危ない、後ろ!!》

 ヤナギさんの声に振り返ると、男がこっちに向かって歩いてきていた。

 ひと目でヤバいヤツだとわかった。

 なにせ眼がイってる。

 そして片手に包丁らしき刃物を持っている。


 何だよ、こいつ?

 その眼と目が合い、マズいとよぎった時にはもう遅かった。

 男が突然、走り出した。

 オレは咄嗟の判断で、千明を脇へ追いやり、自分も横へ転がった。

「っくしょう! 殺してやるよぉぉおおお!」


 通り魔!?


 ヤク中!?


 新宿の喧騒が悲鳴一色に変わった。


 てか、またこっちを見てる。

 蛇みたいな鋭い目つき。

 なんでオレ、ロックオンされてんだよ!?


 と、その時、近くの交番から警官二人がすっ飛んできて、あっと言う間に男は取り押さえられた。

「ケガはありませんか?」

 新たに駆けつけた警官が声をかけてきた。

「オレは大丈夫ですけど……」

 見ると千明もケガはなさそうだ。

 その後、交番で十分程度の事情聴取を受けたオレ達は、通り魔と何の接点がないことを確認され、警察から解放された。


《何だったのあれ?》

「知らねえよ。めっちゃツイてねえんだけど。こんなこと人生で初めてだよ」

「もう、今日は帰ろう」

 千明も憔悴しきっている。


《感謝しなさいよ。ぼくが声掛けなかったら、刺されてたわよ、きっと》

「何言ってんだ、お前。ていうか、ヤナギさん、あんたが不幸を引き寄せたんじゃないの? 幽霊なんだし」

《そんな、っつれいな! 人を疫病神みたいに言わないでよね》

「タダクニ。ヤナギさんは守護霊なんでしょ? 護ってくれたのよ。ホントだったらわたし達殺されてたかもしれない。感謝しなきゃ。ありがとう、ヤナギさん」

《ほら、この子はよくわかってるわ》

 得意気な顔が鼻につくが、仕方ない、そういうことにしといてやるよ。

 オレも千明もケガしなかったのは事実だし。


 幽霊と一緒にいるせいか、通り魔に遭遇したせいか、胸の奥がゾクゾク騒がしくて落ち着かない。

 こんなんで本当に四十九日、うまく行くのだろうか。

 さっきまでの強気な自分はどこへやら。


 急に不安になってきた。

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