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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第二章 カレンさん①

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8.ヤクザ風の男たち、の話

 チラシの効果はてき面だった。


 一週間で十件もの依頼が舞い込み、カレンのおかげで全てのペットが二、三日の内に見つかっていく。

《繁盛店みたいね!》

 カレンがチラシを見ながら言う。

 チラシには『マル得キャンペーン! あなたの大切な家族を救出します。相談一件三万円~ お気軽にどうぞ』と書かれている。

 なんか神隠しに遭った人探しみたいだと徳之進は反対したが、ノリノリのカレンは聞く耳を持たなかった。

 結果的にはカレンのセンスは見事に大当たり。

 明日も三件のアポイントが入っている。


《でも正直、驚いたわ。世の中のペットってこんなにいなくなるものなのね》

「オレもこんなになるとは思ってもみなかった」

《二週間以内に見つからなかったら、相談料全額返金ってところがミソなのよ》

 カレンが得意気に人差し指を立てる。

 キャンペーンの条件の一つだ。

 ダイエット食品なんかではよくある手法だ。うまくいったらラッキー、ダメでもお金戻ってくるなら、と軽いノリで踏み込みやすい。


《もう、いっそのこと、これ専門にしたらどう? どうせ他の依頼なんて来ないし》

「来ないかどうかはわかんねえだろ」

《ここ一週間で一件も来てないじゃない。それに、もし来ても浮気調査でしょ? 〝泥棒猫〟相手なんだから同じようなものじゃない》

 なんだそのドヤ顔は。別にうまくねえからな。

 でもたしかに、これが続いたらぼろ儲けだ。

 もちろん今はキャンペーン効果でペット探しのインフレ状態ではあるけれど、これが落ち着いたとしても、舞い込む依頼には二、三日で必ず見つけられるっていうことなら最強だ。

 ただ、その場合は、もれなくカレンも付いてくるわけだが。

 それはつまり、彼女が成仏しないってわけで、それは浮遊霊なのか地縛霊なのかわからないけど、とりあえず憑かれてる状態は続くってわけだ。

 いくら美人とは言え、それはちょっと複雑だ。


《までも、成仏したらいなくなっちゃうもんね。だからそれまでのキャンペーンってことでいいのか》

 徳之進の心中を察したかのようにカレンが一人頷く。

《期間限定の最強パートナー。感謝しなさいよ、徳之進。しかも無給なんだから》

 ヘイヘイ、言われなくてもわかってまんがな。


 と、その時。ドアをノックする音がした。


 今日のアポイントはもう無いけれど、チラシを見た客さんが突然ふらっとやってきたのかもしれない。

《お客さんじゃない?》

 カレンがドアを指さす。

《ホント感謝しなさいよ。幸運の女神なんじゃない、私?》

 恩着せがましいカレンを無視して、事務所のドアをゆっくり開け、営業スマイルを作る。


「いらっしゃいま……せ……」


 来訪者を見て、オレの背中にツーッと冷たいものが走った。

 そこにはヤクザ風の男が二人、立っていたからだ。


 片手間とは言え探偵業に足を突っこんでいるため、反社系の人種と接点が無いわけじゃない。

 でも、関わってもロクなことはない。

 それにお客として来たことなんて初めてだ。胸の奥でアラートが鳴り出した。


「夏目徳之進さんですね。こういう者です」

 二人のうち若いほうが、警察手帳を見せた。

 警察?

 金髪の坊主頭で鋭い目つき、アイロンが落ちている黒スーツでシャツは第三ボタンまで外している。絵に描いたようなチンピラじゃねぇか。警察手帳だって本物かどうか怪しいもんだ。

 とにかく一番嫌いなタイプだ。

 てか、オレ何かやったっけ?

 最近の行動を思い返す。拾った五百円、ネコババしたのが悪かった?

 なワケない。あんなんで捕まってたら、オレは前科二十犯ぐらいの凶悪犯になっちまう。


 いや、ちょっと待って。今日、エスカレーターでスマホいじっている時。

 振り向いた目の前のミニスカ女子高生と目が合ったことがあったな。

 その後あの子、怪訝な顔してスカート押さえてた。「は? 盗撮とか勘違いしてんじゃねえぞ」ってムカついたっけ。まさか、あれ? いやいや、あり得ない。何時間経ってんだ、あれから。ああいうのは現行犯だろ。家まで押しかけてくるとか無いだろ、常習犯でもないし。

 ていうか、そもそも盗撮してねえし!

 思い当たることは何も浮かばないが、鼓動だけが早くなる。


「突然、すみませんね。捜査の協力をお願いします。この女性に見覚えはありませんか」

 金髪が差し出した写真には二十五歳くらいの女性が写っている。

 見たことない女性だ。

 徳之進が首を横に振ると、金髪がもう一人の男に目配せをする。

「夏目さん。先日、結婚詐欺の被害に遭われましたよね?」

「……はあ。それが何か?」

「実は他にも被害に遭われてる方が何人かいまして、組織的な詐欺集団のようなんです」

 もう一人の男がそこまで言うと、「まぁ、立ち話も何ですから……」と事務所内に入ってきた。

 黒地に白のストライプが通ったスーツを着て、こちらもワイシャツは第二ボタンまで外している。

 スキンヘッドに飴色のサングラスをかけ、顎ヒゲを生やしている。

 松山千春みたいなその風貌は、映画『アウトレイジ』から飛び出してきたような雰囲気だ。


「この女性、その詐欺グループの主犯格なんです。よく見てください」

 もう一度、写真を見てみるがまったく引っ掛からない。

「どっかで会ったことありませんか」

「ちょっとわかんないスね」

 面倒くせぇな、とっとと帰れよ。心の中で毒づいた。

「そうですか」

 松山千春が落胆するように息を吐いて、金髪に目配せをする。

 それに応えるように金髪はもう一枚の写真を取り出した。


「では、こちらの女性はどうですか。こちらもグループの主犯格なんですが……」


 それを見てオレは目を疑った。


 写真の中で笑っている女性。


 それは他でもない、カレンだった。

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