7.キャンペーンやりますか、の話
《あ~、面白かった》
事務所に戻ってからも、カレンはずっと上機嫌だ。
《ライブは素人丸出しだったけどね。あれなら私のほうがよっぽどうまく踊れる自信ある》
カレンが手をヒラヒラさせて、踊る仕草を見せる。
徳之進が往復ビンタを喰らってから間もなく、メイド三人による歌とダンスのパフォーマンスが披露された。
怒るほどじゃないが、たしかに、褒められたものじゃなかった。
三人のダンスはズレていたし、いや、そもそも〝合わせる〟という意識があってのダンスなのか、と疑うほどに合っていなかった。
歌もカラオケに毛すら生えないような代物で、カレンに自分のほうが上手いと言われても文句言えないパフォーマンスだった。
ただ徳之進はミックス牛乳一気飲みのせいで、メイド達のライブ中もずっと気持ちが悪く、別の意味でも楽しめなかった。
《ねぇ、訊きたかったんだけど、どうして探偵やってるの?》
「やってるというか、形だけ家業を継いでるだけだよ。これでも明治時代から続く老舗で。一応、オレで四代目」
《探偵に老舗なんてあるんだ。旅館みたい。人知れずひっそりやってます、的なイメージなのに》
「ひっそりやってても食べていけねえだろ。親父の代までは警察とも繋がりがあって、色々派手だったみたいだけど。それこそ捜査を手伝ったり。ドラマみたいなことがあったらしい。今はもう、そういう時代じゃないから全然だけどな」
《それで猫探しと浮気調査なんだ》
「オレも今は無職だけど、前は定職に就いてたから。こっちは副業っていうか片手間なんだ。そもそもお客も少ないから仕事として成り立ってないし」
《ふうん……》
「納得いかないって顔だな」
《やり方がいけないんじゃないかな。『探偵事務所』なんてカッコつけてるから、みんな一歩引いちゃうんじゃない? 変えたらいいのに》
「変えるって、どう変えるのさ?」
《どうせ猫探しと浮気調査だけなんだから『何でも屋』とか『便利屋』のほうがしっくりこない?》
「百年続いてる屋号、そう簡単に変えられるもんじゃねえだろ。伝統と重みがあるし」
《無いわよ、重みなんて。『~何でもやります~便利屋本舗』とかのほうがよくない?》
何だ『本舗』って。アカチャン本舗じゃねえんだよ。
ったく。呆れてまともに話す気にならん。
《じゃあ、せめてキャンペーンでもやってみたら?》
「キャンペーン?」
《そう。私がいる間はペット探しは鉄板でしょ。だからペット探しのキャンペーンをやってみるとか》
「探偵事務所でキャンペーンなんて聞いたことないぜ」
《だからいいのよ。今の時代、何がヒットするかわからないんだから》
「ペット探しキャンペーン?」
《いいじゃない。成仏のお礼に協力してあげるわよ。それにこんなにカワイイ子がパートナーなんて最高でしょ?》
カレンが小悪魔チックにウインクしてみせる。
たしかに今は、ペット探しの依頼を受ければ、すぐに見つけられる確変状態だ。
こんなことは二度とないだろう。
《そうと決まれば、まず、何から始める? ホームページとか無いの? この事務所》
どんどん話を進めようとするカレンだったが、オレの顔を見て全てを悟り、
《ホームページなんて、今、誰だって簡単に作れるんだから作ればいいじゃない》
残念そうに口をへの字に曲げた。
《じゃぁ、SNSで情報飛ばすしかないわね》
……。
《ウソでしょ!? それもやってないの? SNSもやらずにどうやって生きてるの?》
「うるせぇな。女優の深津絵里はな、携帯電話すら持ってないって言うじゃねぇか」
《深津絵里、関係ないでしょ、今。じゃぁ、仕方ないわね。アナログだけどチラシね。あとキャラクター作ったほうがいいわよ。ペット探しに合うようなカワイイキャラがいいわね》
カレンの指示があれこれ飛び、それに合わせて動かされる徳之進。
せわしなく振り回される中で、いつの間にかある種の活気のようなものを感じ始めていた。
それは求職活動では当然感じ得ないし、プライベートでもしばらく忘れていた感覚だった。
そして、それがけっこう居心地のいいものだった。




