6.メイド喫茶、の話
ペット探しをあっさりとやり遂げたオレ達は、翌日、次のやり残し〝メイド喫茶で豪遊〟するため聖地・秋原場へ向かった。
カレンの指定したお店『ぐりむ二号店』に入ると、「お帰りなさいませ~。ご主人さま」とお決まりのセリフが飛んできて、ゴスロリ風のコスプレをした店員が徳之進を迎えてくれた。
《イメージ通りのお店ね》
カレンが満足気に店内を見回す。
白とピンクを基調とした店内には、四組の先客がいた。男性客だけかと思っていたが、恋人同士のような男女もいたりする。
とりあえずメニューに目を通す。
不思議の国のオムライス、三匹の子ブタカレー、ジャックと豆の木スープスパ、アラジンと魔法のパフェ、白雪姫の毒りんごジュース……。
世界の名作をもじったメニューが並んでいた。
値段も強気で通常の一・五~二倍の料金設定がされている。
ロイヤルホスト並みじゃねえか。ペット探しで財布が潤ってなかったら厳しかったぞ、おい。
《おいしそうじゃない。毒りんご頼んでよ》
カレンは完全に楽しんでいる。
「りんごジュースだけでいいのか?」
ちなみにりんごジュースは、ソフトドリンクのくせに八百円もする。
毒が入っただけで、えげつない値上がり方だ。どんだけ良い毒使ってんだ。
《まさか。豪遊って言ったでしょ? メイド喫茶を思いっきり堪能させてよ。そうね……》
カレンがメニューをまじまじ覗き込む。
《このスペシャルメニューってのが、いいんじゃない?》
メニュー表の一番下に別枠で書いてあるメニューを指さした。
オオカミと七匹の子ヤギみっくす、おひさまと北風せっと、金のオノ銀のオノご主人様のオノ。
何の料理かサッパリわからない。料金はどれも三千円だ。
徳之進がその中から『オオカミと七匹の子ヤギみっくす』を注文すると、中ジョッキに入った牛乳と十種類の小鉢を載せたトレーが運ばれてきた。
小鉢には納豆や生卵、イチゴジャム等々が入っている。
つまりこれは、料理というよりは、アトラクションを楽しむメニューらしかった。
メイドさんとジャンケンをして勝ったほうが、小鉢を一つ選んで、中ジョッキの牛乳の中に足していく。
それを七回繰り返し、最終的にできあがったミックスジュースを飲み干すゲーム。
一気飲みできれば、お客側の勝ちでメイドさんと二ショット写真がもらえる。
一気飲みできなければお店側の勝ちでメイドさんから往復ビンタをいただける。
そして四回以上ジャンケンに負けると、一気飲みしようがしまいが、往復ビンタをしていただけるという謎のルールも付随していた。
徳之進は小鉢をもう一度見た。
納豆、生卵、なめ茸、お酢、紅ショウガ、イチゴジャム、オレンジゼリー、ココアパウダー、ハチミツ、カルピスの十品目が並んでいる。
たとえ七戦全勝しても、ハズレが必ず入る品揃えじゃねぇか。
《ガンバって》
カレンが親指を立てて右手を突き出す。
真剣な表情を装っているが、笑いを堪えるのに必死なのが見え見えだ。
「よろしいですか? 始めますね、ご主人さま。じゃーんけーん……」
メイドが慣れた口調でどんどん進めてくる。
――五回戦を終えたところで、牛乳は『納豆、生卵、お酢、ハチミツ、カルピス』入りに変わっていた。
もう既に飲みたくない。そして、往復ビンタのリーチだ。
隣りではカレンがニヤニヤして勝負を見守っている。
無性に腹が立ってきた。
なんでオレがこんなことをしなきゃなんねえんだ。
赤の他人を成仏させるために、こんな意味不明なアトラクションをやらされて。
ジャンケンに負ける度に、喜びを隠さないカレンの態度にもイラッとする。
誰のせいで、こんなことやってるのかわかってんのか?
この店員も店員だ。
ちょっとは遠慮しろってんだ。
こんなもん飲んだら、お腹壊すだろ、どう考えたって。
ここに来る客ってのはメイド萌えな連中だから、そんなコスプレ着てたら大概なことされても「カワイイから許しちゃう」的な反応だろうけど、オレ、別にメイド好きでも何でもねえからな。「カワイイから甘んじて受け入れよう」とは思えねえからな。
いや、メイドとか関係無しに、店員がカワイかったら話は別か。
カワイイ子だったら「怒るほどでもない、許しちゃう」となるだろう。オレも人間だし。
でも、この子はどうだ?
クラスにいても〝中の中〟だぞ。決して〝上〟には入らないタイプじゃねえか。
そんな子にいいようにやられて、なぜ黙ってなきゃなんねえんだ。
「じゃ、次、行きますよ~。ビンタ懸かってます。ガンバってください」
ジャンケンで何を頑張れって言うんだ。
こなれた口調が余計に癇に障る。
じゃーんけーん……
結局、その後、なめ茸とイチゴジャムを加えたミックス牛乳が出来上がった。
精一杯の抵抗で、徳之進はそれを一気に飲み干し、欲しくもないメイドとの二ショット写真を勝ち取ってみせた。そして、それとは別に往復ビンタを喰らった。
これまた見事な手加減一切無しのビンタに、目の奥で火花が散った。
一部始終を見守りながら、嬉しそうに吹き出すカレンの姿が目に入る。
それを後目に、徳之進が殺意を覚えたのは言うまでもない。




