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さぁ、ステキなご臨終の話をしよう  作者: カジセイ
第二章 カレンさん①

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5.探偵としてのプライド、の話(前半)

《なかなかやるわね、徳之進!》


 次の日の夕方、徳之進の自宅兼事務所で、カレンが徳之進を褒めちぎっている。

 夏目探偵事務所。

 徳之進が亡くなった父親から自動的に譲り受けた事務所だが、宣伝広告するわけでもない、新規顧客の獲得に精を出すわけでもない、たまにやってくるお客だけを相手に、細々と延命させているだけの事務所だ。徳之進はその事務所を自宅兼用として使用していた。


 今日はまず、簡単なモノからクリアしていこう、ということで、新宿のマンガ喫茶で『ドカベン』を読み切り、ボウリング場で二〇四点をマークした。

 ボウリングは昔取った杵柄が役に立った。

 学生時代、所属していた空手サークルの仲間と一時期、憑りつかれたように通った経験のある徳之進は、その時にかなり腕を磨いたのだ。

 感覚を取り戻すまでに数ゲームかかったが、八ゲーム目で二〇〇点越えを叩き出した。

 さすがに八ゲームもやると、右腕がパンパンだったが、隣で超絶美人のカレンが応援しているパンチ力はハンパなく、疲労も忘れやり切ることができた。

 いや、もちろんカレンの姿は徳之進以外の誰にも見えていない。

 なので、誰も座っていない席に向かってガッツポーズしたり、親指を立てたりするアラサー男子に向けられる好奇な視線をたまに感じたりもしたわけだが。


 それでもやっぱり、美人と一緒にボウリングデートに来ているのは、気分のいいことだった。

 そして、今日一日過ごす中で、カレンのこともかなりわかった。


 年齢、というか享年は二十四歳。

 生前は読者モデルをやっていたそうだ。

 二十歳でデビューして、最近では、テレビの仕事も少しだがこなしていたらしい。

 どうりでキレイな顔立ちをしているわけだ。どこか見覚えがあったのも、きっとテレビか雑誌で見たことがあったんだろう。

 田舎は静岡の藤枝市という所。

 徳之進が「知らない」反応をすると、《サッカー元日本代表キャプテン長谷部と同じだけど!》とムキになられたが、サッカーに興味ない徳之進には、それが誰なのかもわからなかった。

 仕事柄、ストーカー被害にも悩まされていて、過去には警察へ相談したこともあったらしい。

 死因の交通事故は、そういうストーカーの逆恨みとは全く関係なく、偶発的なひき逃げ。

 仕事の帰り道、ながらスマホをしていた最中に事故に遭ったらしい。

 スマホを見ていたので、事故の細かい状況はわからないそうだ。

 次に気づいた時には、浮遊霊になっていて、そこで自分は死んでしまったこと、そして天国へ行けてないことを悟る。

 ひき逃げ犯が入院していることを知り、どんなヤツのせいで自分が死んだのか見に行くと、看護婦にちょっかい出している現場を目撃。

 無性に腹が立ってきて、気がつくと呪い殺していた。

 で、その後、こんなことやってる場合じゃないと思い直して、成仏を手助けできそうな霊感の強い徳之進のところにやってきた。

 そして、予定通りやり残しを次々と解決してくれている徳之進を上機嫌で褒めているところがちょうど今。

 カレンには《この勢いでメイド喫茶まで行っちゃおう!》と急かされたのだが、今日はこの後、珍しく事務所に相談依頼のアポイントが入っていたので、事務所へ帰ってきたところだった。


「あんまり褒めんなよ。たった二つやっただけだし」

《照れるな、照れるな。今日のお主はよくやった。褒めて遣わす》

「やっぱバカにしてるだろ」

《してないって》

 慣れない賛辞に戸惑いながら、内心、嬉しい徳之進だった。


 夕方五時。予定通りに依頼人がやってきた。

 大きなサファイヤやオパールの指輪をして、いかにも金持ちそうなこの貴婦人の名前は百川様。

 相談内容は毎度同じで、消えた愛猫の捜索依頼。

 慣れた感じでいなくなった日時と場所を伝え、現金五万と愛猫『クマちゃん』の写真を渡すと、十五分もしない内に帰っていった。


《猫探すだけで五万ももらえるの?》

 カレンが目をパチクリさせた。


「これは前金。見つけたら成功報酬であと十五万もらえる」

《二十万……。探偵ってめちゃくちゃ美味しい仕事じゃない》

「何言ってんだよ。猫探しも意外と苛酷なんだ。縁の下とか草むらに入って。蚊とか変な虫にも刺されまくるし」

《うえ。気持ち悪ぅ》

「それでも百川さんは超セレブで二十万もくれるから特別。普通は全部で五万ってとこかな。それに百川さんは常連様だから助かってる」

《常連?》

「三か月に一度、依頼にやってくる」

《猫探しで?》

「猫探しで」

 カレンが『クマちゃん』の写真を覗き込む。


《……この子、一緒に住みたくないだけなんじゃないの》


「だろうね。懐いてないんだよ」

《あのオバサンの元に戻してあげるのかわいそうじゃない》

「猫の気持ちなんて関係ない。今はこれが唯一の生命線。オレにはこの猫が万札にしか見えないね」


《……この子に謝りなさいよ》

 カレンが嫌悪感をあらわにする。


「なんだよその顔。オレはもともとこういうドライな性格なんだよ。この潰れそうな事務所だって惰性で続けてるだけだし。なのにたまにこうやって依頼がきて、挙げ句に見つけられなくても五万もらえるんだから、おいしいもんだよ。とりあえず明日からはペット探し優先だから。やり残しのほうはしばらく後回しな」


《徳之進さぁ……》


「なんだよ。あんたに付き合ったって金くれるわけじゃねえだろ」

《そうじゃなくて》

「じゃ、何?」


《もっと自分にプライド持ちなよ。お金もらってるんでしょ。意地でも見つけてやろうって思わないの》

「だから明日から猫探しするって言ってんじゃねえか。でも見つかんなかったら、それはそれでしょうがないだろ」

《それよ。最初から見つからなかったら、とか言ってるのが気に食わないのよ》

「だって、オレ、猫の探し方なんか知らねえもん、教わったこともないし。だから見つからないことだってだって十分あり得るだろ」

《あったとしても、それを前提に考えてるみたいに聞こえるのが嫌なのよ》

「前提にしてるわけじゃねえよ、別に。ちゃんと探すって言ってんじゃねえか」

《あそ。別にいいんだけどね。ただ、オレなんてできなくてもしょうがないしって言ってるように聞こえて、損してるなって思っただけ。ま、死んじゃうって言ってるから、今さらだけどさ。そういうところ直すだけでも人生変わったのになって思っただけ》


 何言ってんだ、こいつ。

 生まれ持ったルックスだけで何の苦労もせずに人生イージーモードですってヤツが、何を偉そうに。

 そりゃあんたは何も考えずにヘラヘラ笑ってるだけで、全てうまくいってきたんだろうよ。

 オレはあんたとは違うんだ。

 基本、うまくいかねえんだ。

 スタートから違うんだよ。

 あんたにはうまくいくこと前提で物事がやってくる。

 逆にオレには苦労すること前提でやってくる。

 そういうヤツの気持ちなんて、あんたには絶対にわかんねえだろうさ。

 なのに、知ったようなこと言うなってんだ。

 なんだよ、せっかく気分いい一日だったのに。台無しにしやがって。


「とにかく明日は猫探しだから」

 思わず舌打ちが出た。

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