2.絶対に引き受けちゃダメだ!、の話(後半)
《邪魔なんてしませんよ。好きなだけ死んでください。ただその前に、ちょっとだけ私の成仏を手伝って欲しいの》
彼女は、また片目をつむってチャーミングな笑顔を見せた。
「なんでオレがそんなことしなくちゃいけねぇんだよ」
《理由なんてないですよ》
あまりにもキッパリと言い切られて、思わず納得しそうになる。
「じ、じゃあ、嫌だよ」
《そんなこと言わないで。それとも理由があったら、やってくれるんですか?》
「あんの?」
《だから「無い」って言ってるじゃないですか》
ムチャクチャだな、こいつ。
《ねぇ、お願い! これも何かの縁だと思って》
《私にはあなたの助けが必要なの》
会社にリストラされ、面接には落ち続け、付き合った恋人は結婚詐欺師。預金も全て奪われた。
挙句に顔も思い出せない同級生からご祝儀を無心されようとしている。
自分なんか世の中から消えていなくなっても誰も気にしない。
誰からも必要とされていない。
この先の人生を何ひとつリアルにイメージすることができない。
人生に希望など見出せずに自殺を図った彼にとって、「あなたが必要なの」と目の前で頼み込む彼女の言葉は、砂漠に水が浸透していくように、乾いた彼の胸に染み込んだ。
そしてその染みはどんどん広がり、動揺を誘い、気がつくと必死な彼女を無下に突き放すことができなくなっていた。
「……とりあえず、話だけ。話だけ聞いてやるよ」
ソファベッドから上体を起こし時計を見る。
時刻は午前二時。
律儀に丑三つ時を指す目覚まし時計を見て、思わず舌打ちが出る。
《やった! パートナー成立ですね!》
K‐POPが手を打って喜ぶ。
「いや、話だけだっつてんだ」
《私、月下カレンって言います。カレンって呼んでください》
彼女はどんどん話を進め、右手を差し出し握手を求めてくる。
条件反射で差し出した右手が空を斬り、彼女が幽霊であることを改めて思い知らされる。
「オレは――」
《徳之進。夏目徳之進でしょ》
オレの言葉にかぶせてくる。
「なんで知ってんだ? 怖ぇな」
《ある程度、下調べしてから出てきてるに決まってるじゃない。願いを叶えてもらえそうかどうか。自分の成仏が懸かってるんだから、そりゃ必死よ》
なるほど。だからさっき、オレが幽霊見ても驚かないのを知ってたってわけか。
他にオレの何を調べてきた?
本棚が視界に入った。
パッと見ではわからないようにアダルトDVDが隠してある。……まさかな。
「ていうか、まだやるって決まったわけじゃねぇから。話聞くだけだから」
《何言ってんの! そんなイケずなこと言わないで。往生際悪いですよ!》
「なんか口調も変わってねえか?」
《パートナーなんだから、こっちのほうが自然でしょ? お互い敬語はやめましょ》
「パートナーって。だいたいオレ、成仏なんてさせることできねぇぞ。霊媒師じゃあるまいし」
《大丈夫! 徳之進だったらイケると思ってる。もっと自信を持っていいわ》
なんでそんなことに自信持たにゃぁならんのだ。ていうか、いきなり呼び捨てかよ。
――マズい。
カレンと名乗る幽霊にペースを握られ始めている。
オレは胸の奥に小さな違和感を覚えた。
それはいわゆる〝やな予感〟というものだった。




