2.絶対に引き受けちゃダメだ!、の話(前半)
オレは幼い頃から霊感が強く、幽霊が見える状況には慣れていた。
だからオレのことを「幽霊を見ても驚かないタイプ」と彼女が言ったのは、あながち間違いじゃない。
今まで見てきた幽霊には良いヤツもいれば悪いヤツもいたので、その対応も自然と身に付いていった。
良いヤツその一。
かくれんぼをしている時に、友達の隠れている場所を教えてくれる幽霊。
そいつのおかげで、かくれんぼで負けたことがなかったオレは小学校の頃『キング』と呼ばれていた。
その二。好きな女の子のパンツについて教えてくる幽霊。
思春期のオレが「今日は白のクマさんだよ」と告げられれば、その日の女の子の顔は、もうクマさんにしか見えなかった。
ただ、この霊は、不潔で性格がクソすぎるせいでクラス全員から嫌われている女子(あだ名はブッチャーだった)の下着も教えてきた。
ブッチャーと好きな子が同じクマさんだった日には、ブッチャーへ殺意を抱いたのは言うまでもない。
一方、悪いヤツその一。中学の同級生、ケンちゃん家に居ついていた幽霊。
ケンちゃんの両親が経営する食堂の厨房で、塩と砂糖をよく取り替えていた。
食堂の料理はマズいことで有名で(そりゃそうだ)、しばらくして潰れた。
その二。通称『魔の交差点』の幽霊。
通る人の背中を押したり、車の運転手を目隠ししたり。事故らせてはケタケタ笑っているを何度か見た。ああいうのは絶対に関わっちゃダメだ。
それから、なんでもないヤツ。バス停のベンチにいつも座っているだけの幽霊。いわゆる地縛霊。
とまあ、色々見てきたが、成長するにつれて、だんだんと見えなくなり、高校に入学する頃には全く見なくなった。
たまにテレビの心霊特集を目にすると、懐かしく思うこともあったが、そもそも心霊特集が放送されなくなってくると、懐かしむキッカケも無くなり、そのうち幽霊を見たことがある経験すら忘れていた。
それが今夜、十数年ぶりに再び現れた。
《そんなに怒らないでもいいじゃないですか。この後、話しづらい》
「話すことなんて、何もねえわ。消えろっつってんだ」
《冷たい言い方。そんなんだからモテないんですよ》
「モテないって、勝手に決めつけんじゃねぇよ」
《モテるんですか?》
……。
《ほら。図星じゃないですか。女性が枕元にいるんですよ。こういう時は優しくするもんですよ》
「女性? 何言ってんだ、幽霊のくせして」
《幽霊でも女性は女性でしょ。それに貞子みたいなのより、よっぽどマシだと思いません?》
比較対象がおかしいだろ。
貞子と比べたら、なんだってマシだ。
危険を知らせるアラートが頭の中でピーコン・ピーコン鳴り響いている。
こんな馴れ馴れしい幽霊、マトモじゃない。
いくら美人だからって関わっちゃダメだ。きっと、面倒なことになる。経験値がそう知らせている。
《あのぉ……お願いを聞いて欲しいんですけど》
そら来た。
改まった表情をして、瞳まで潤ませて。んなことしたって無駄だ。
「どうせ成仏させて欲しいって言うんだろ?」
《大正解! さすが、話が早い》
幽霊の言うことなんて大きく分けて二つしかない。
「殺してやる」か「成仏させて」だ。
オレを殺す気が無いんだったら、「成仏」しかねえじゃねぇか。
――絶対に引き受けちゃダメだ。
自分の自殺に失敗したのに、人の成仏を手伝うなんて、笑えないジョークだっつうの。
「悪いんだけどお断りします。オレは自殺しようとして失敗したところなの。人助けなんてしてる場合じゃないんで」
《知ってますよ。だから死んじゃう前に急いで来たんです。間に合ってよかった》
「知ってるなら、なおさら邪魔すんじゃねぇよ」
《邪魔なんてしませんよ。好きなだけ死んでください。ただその前に、ちょっとだけ私の成仏を手伝って欲しいの》
彼女は、また片目をつむってチャーミングな笑顔を見せた。




