7.ヤナギさん邸にて、の話(後半)
……サスペンスドラマの遺産分割会議でひと悶着起きるシーンにそのまま出てきそうな広間だ。
そして、あれ? って思った。
「トオルは、もともとあんまり帰ってくる子じゃなかったから、いなくなっても同じようなものなんでしょうけど。でももう話もできないと思うと、やっぱり淋しいものよね」
「そうですよね」
「でもね。こうやってお友達がいらしてくれると嬉しいんですよ。何だかトオルも一緒に帰ってきたような気がして。変ですよね」
「いや、そんなことないですよ」
今まではどうか知らないけど、今日に限っては本当に帰ってきてるんだから。
ねぇ、ヤナギさん。
あれ?
ヤナギさんは……後ろか?
……いない。
仏壇?
……違う。
天井、欄間、飾り棚……。
まさか。
床の間、襖、千明の周り……。
やっぱり。
いない――。
あのヤロー、いねえ。
どこへ行っちまったんだ、こんな時に。
玄関までは一緒だったのは覚えてるんだけど、そのあとはどうだったっけ。
何やってんだよ、あの人。
久しぶりの帰省で、家の中うろうろしちゃってんのか……。
ったく、しょうがねえな。呼んでくるか。
「あの。トイレ、お借りしてもいいですか」
「どうぞ。ご案内しますよ」
トイレに行くすがら家の中を見回してみたが、どこにもいない。
ホントにどこ行っちまったんだ、ヤナギさん。
これ以上時間引き延ばすのは、正直キツいぞ、オレ。
ヤナギ母と話すことなんて何もないもの。
まいった、どうする?
とりあえず、見つけないと……。
考えろ。
オレだったらどうする?
実家に帰った時、いつも最初にどこへ行く?
自分の部屋だ。
何よりもそこが一番落ち着く。
ヤナギさんもそうなのか。
「あの、ヤナギさんの部屋、見せてもらってもいいですか」
「トオルの部屋……ですか?」
「はい。ヤナギさんがどんな部屋で育ったのか、気になって」
苦しい……。こんな恋人みたいな言い分、通るのか。
「ええ、まあ、構いませんけど」
通った! 優しい人でよかった。
和室に戻り千明を連れて、部屋のある二階へ上がった。
しかし、そこにもヤナギさんはいなかった。
成仏したってことか?
成仏するなら、ひと言くらい何か言ってからでもいいじゃないか。
それもなく消えちゃうなんて、勝手なヤツ……。
「今日は突然お邪魔しちゃって、すみませんでした」
「いいえ、とんでもないです。わざわざ遠くから、ありがとうございました。それと、これ……」
そう言って、ヤナギ母は封筒を差しだした。御車料と書いてある。
もらえません、そうおっしゃらずに、いやでもそんなつもりじゃ、ほんの気持ちですから、の押し問答を三十秒ほど繰り返して、結局、タダクニはそれを受け取った。
「なんか、かえって気をつかわせてしまって、すみませんでした」
「いいえ。こちらこそ大したお構いもできませんで……。気をつけて帰ってくださいね」
「ありがとうございます。失礼します」
タダクニと千明は深くお辞儀をして、タクシーに乗り込んだ。




