6.宇都宮へ向かう新幹線の中で、の話(後半)
《あんた達、亡くなった人の悪口言うなんて、趣味悪すぎるわよ》
「悪口なんて言ってないって」
《似たようなもんでしょう。そのうち罰が当たるんだから》
ヤナギさんが鼻を鳴らす。
「そういえば、ヤナギさんはどうやって両親に話しかけるつもりなの。両親もタダクニみたいにヤナギさんの姿が見えたり、話ができればいいけど。わたしみたいに何も見えない、声も聞こえないってこともあるわけでしょう。ううん。そっちの可能性のほうが高いと思う。だとしたら、ヤナギさんが何を言ってもムダなんじゃない」
「その時はオレ達が代わりに伝えるしかないよ」
「うまくいくかな。信じればいいけど」
「なんとか信じてもらうしかないじゃん」
「怪しまれて通報されちゃったりしないかな」
《大丈夫よ。なんとかなると思う》
「え。どういうこと?」
「だから。怪しい新興宗教か何かの詐欺だと思われて、通報されなきゃいいけど」
「え。違う、千明。今、ヤナギさんが《なんとかなる》って言うから、それに訊き返したんだよ」
「なあんだ。もう、ややこしいな」
千明は拗ねた子供のように口を尖らせた。
「で、どういう意味なの、ヤナギさん。何とかなるって」
《うん。なんとなく通じるような気はしてるのよ、親子なんだし》
「うん……で?」
《で? って。それだけよ》
「そんだけ?」
《それだけって……十分じゃない。第六感ってヤツよ。おかまの第六感は当たるのよ》
「なんか、親子だから通じるんじゃないかって言ってる。根拠はおかまの第六感」
タダクニは呆れ口調で千明に説明した。
「親子だから通じる、かあ。確かに、それってあるかもしれない」
「何言ってんだよ、千明まで」
「だってほら、双子はお互いに考えてることがわかったりするって言うでしょ。双子にそんなことが起きるんだもん。親子にだってそれがあってもおかしくないじゃない。ヤナギさんはそういうこと言ってるんじゃない。ねぇ、ヤナギさんに訊いてみてよ」
千明が自分の頭上に目送りすると、
《さすが千明ちゃんね! まさにそれよ、ぼくが言いたかったのは》
うそこけ!
さっき、なんとなくって言ってたじゃねえか。
ったく、調子いいな。
「まさにそれだ、と仰ってますよ」
「ほら、やっぱり」
千明はふふふっと得意げな表情を浮かべた。
確かに双子の不思議は聞いたことある。
お互いの危険がわかるとか、別々に買い物に出掛けたのに同じ洋服を買ってきただとか、謎めいたシンクロニシティがあるのは聞いたことある。
あるけど、それは双子の話だろ。
双子の神秘を親子にまで広げるのは強引すぎる。
少なくともオレは親の危険を感じたことはない。
洋服だってそうだ。母さんがオレの気に入る服を買ってきたことなんか一度もない。
夕飯の時、しょう油が欲しいと思いながら黙っていて、取ってもらったこともない。
つまり親子間にシンクロなんて無いんだ。
《でも、もし通じなかったとしたら……》
「うん」
《その時は、タダクニくんにのりうつらせてもらうわ》
「のりうつる?」
《テレビでやってるの見たことない? アレをすればいいのよ》
アレっていうのは、アレか……?
霊能者とかイタコが霊を憑依させて喋ってる、アレのことか?
白目をむいて「うう……」とか「ああ……」とか言ってる、あのことか?
「ふざけんな。絶対に嫌だ」
冗談じゃない! あんな姿、千明に見せられるかよ。
隣で千明は不思議な表情をこっちへ向けている。
話を見失っている目だ。
タダクニは努めて余裕の顔を作って言った。
「何でもない。大丈夫。きっとうまくいく」
そう。うまくいく。
いや、うまくやる。
タダクニは自分に言い聞かせた。




