6.宇都宮へ向かう新幹線の中で、の話(前半)
次の日、タダクニ達は新幹線に乗って宇都宮へ向かっていた。
隣の席では千明が鼻唄まじりで幕の内弁当を広げている。
今でこそ隣で鼻唄を歌っている千明だが、ここに至るまでには筆舌しがたいタダクニの苦労があった。
話は数時間前に遡る。
朝、千明が目を覚ますと、タダクニはさっそくヤナギさんの説明をした。
しかし当然のように相手にされない。
仕方がないので、ヤナギさんにもう一度時計を回してもらった。
それを見た千明は、さすがに何か異次元の存在を認識したようだったが、今度はその恐怖からかタダクニに当たり出した。「バカ!」「死ね!」「出ていけ!」など、およそ思いつく限りの罵声を飛ばし、仕上げに目覚まし時計を投げつけた。
そんな千明を何とか抑えて、守護霊 (ということにしておいた)を成仏させるために、ヤナギさんの両親が住む宇都宮行きを納得させるに至ったのだから、タダクニのその健闘をまずは褒めてあげたい。
誰からも褒められないために心の傷が癒えず、新幹線から飛び降りでもしたら、この先の話が大きく変わってしまうし。
今のところ千明はおろか、ヤナギさんもタダクニを褒めてあげる気配がないので、ここはひとまず作者が褒めてあげることにする。
よくやったぞ、タダクニ。
「ねぇ。ヤナギさんは今ここにいるんでしょ」
千明が頭上を見上げて言った。
「いるけど、上にはいないよ。あっちにいる」
タダクニは通路を挟んだ向こうの座席を指差した。
向こうの席では学生風の男子が週刊誌を読んでいて、ヤナギさんはそれを盗み見していた。
それを千明に説明すると、
「なんか、普通。守護霊って言うから、もっと神秘的なもの期待するんだけど」
「うん、まあ。守護霊にも色んなのがいるんじゃない」
「何かあった時にちゃんと守ってくれるのかな」
「ヤナギさんが?」
「守護霊だもん。危険から守ってくれないで何から守るのよ」
「あんまり期待しないほうがいいんじゃない」
「え、どうして?」
ヤナギさんをチラッと見て声を潜めた。
「だって、おかまだぜ」
「確かに。強そうなイメージはないけど」
「何かあっても、わーわー騒ぐだけで役に立ちそうもないじゃん」
「言えてる。どうしよ、どうしよってあたふたするだけで……」
「アニメみたいに右へ左へ行ったり来たり」
「両手は口に当てて」
「守ってくれそうもないだろ」
「ムリそうね。あーあ。もっとちゃんとした守護霊がよかったな。よりによってなんでおかまなのよ――」
《悪かったわね、おかまで》
「うわあ!」
びっくりしてタダクニは飛び跳ねそうになった。
いや、実際、タダクニは座席から腰を一センチほど浮かせた。
千明も状況を把握して、気まずそうな顔で缶ジュースを口に運んだ。
《あんた達、亡くなった人の悪口言うなんて、趣味悪すぎるわよ》
「悪口なんて言ってないって」
《似たようなもんでしょう。そのうち罰が当たるんだから》
ヤナギさんが鼻を鳴らした。




